3月号
<インタビュー>世界の食材をおいしさに
株式会社 合食
代表取締役社長 砂川雄一さん
昭和23年に創業し、神戸中央市場の荷受会社としてスタートした合食グループ。現在、食品メーカー、貿易商社、食品流通業を主な業務とする。昨年10月に、砂川雄一さんが新社長に就任。合食グループの新たな挑戦がスタートした。
―昭和23年に設立された合食ですが、神戸に本社がある理由は?
砂川 昔から神戸は北海道の海産物の集積地でした。昆布や干しスルメ、塩鮭などが一旦神戸に集められてから全国に出荷されたそうです。高田屋嘉兵衛の北前船が神戸を拠点にして、上方の物産を積んで日本海を通り北海道へ向かい、荷下ろし後は、北海道の物産を積んで上方へ運んでいました。その名残があり、神戸には戦後もずっと続いた昆布問屋やイカ問屋などがたくさんあります。情報が集まりやすく、本社を置くには好都合だったとのです。
―本拠地を東京へ移す企業が多い時代ですが。
砂川 東京にはいろいろな企業の本社が集まり便利ではあるのですが、逆にこれからは地方分散の傾向になるのではないかと私は思っています。今はインターネットの時代ですから、どこにいても世界中の情報を容易に集められると言っても過言ではありません。
―神戸に置くことのメリットは?
砂川 神戸は東京から程よい距離にあり、空港のお陰で飛行機なら約1時間。必要な時には日帰りで行ける利便性があります。住む家も便利なわりにはリーズナブル。社員の住居や生活にかかる費用が少なくてすむのは企業としてのメリットです。生活がしやすい街ですから働く人の負担も少なく、快適に仕事ができます。都会でありながら緑が多く、食べ物もおいしく、教育水準も高い。こんなにバランスが取れた街はほかにはないと思っています。
―研究や商品開発も神戸で行っているのですか。
砂川 合食は現在3カ所に工場を持っています。函館で鮭フレークや、塩辛、さきいか、八戸で冷凍食品、呉では珍味をそれぞれ製造し、これまで各工場で商品開発を行ってきました。そこで、研究・開発スタッフを八戸の工場内に集めつつありますが、さらに将来的には神戸に研究・開発部門を置きたいと考えています。
―素材は世界各国から調達しているのですか。
砂川 弊社は荷受けから始まりましたが、現在は荷受会社兼メーカー兼商社です。なかでも商社のウエイトが最も高く、主に国内・海外の食品メーカー様へ原料を供給させて頂いています。自社工場や自社企画品はその中のひとつに過ぎません。
―水産物以外も扱っているのですか。
砂川 ほとんどが水産物ですが、一部、木の実や椎茸、ドライフルーツなど農産物の輸入も扱っています。
―ニーズに応えて、社員が世界中へ素材を探しに行くのですか。
砂川 現在、合食グループは日本に23拠点を置き、海外にはシンガポール、ホーチミン、寧波、大連、サンチャゴ、アグアスカリエンテスに社員を配置し、現地で技術指導や買い付け交渉を行っています。それに加え、日本からも出張社員が出向きます。
―買い付けのプロですね。
砂川 海産物を買い付けるには目利きが必要です。魚はサイズや種類はもちろん、丸ごとだけでなく切り身にして、衣をつけて、フライにして、乾燥して、調味して…等など、お客さんのニーズは多様ですから、現地での技術指導も必要です。また、現地で買い付けた魚を他の国に送って加工してから日本へ輸入するケースもあります。合食にはこれらのノウハウが蓄積されています。
―魚は輸入だけですか。
砂川 昨今は健康志向もあり魚を食べることが世界中で流行っていますし、生の魚の美味しさにも目覚めているようです。日本産の魚のチルドでの輸出も増えてきて、双方向の時代になってきました。
―輸入した素材を使って合食さんが、スーパー・コンビニ・外食チェーンなどに売り込むという例もあるのですか。
砂川 もちろん、日々開発です。新しい設備や技術、レシピを常に導入し、時にはプロの力もお借りして一流料理店の味を再現する研究開発もしています。昨年は特殊コーティングによってレンジ対応で焼き魚を可能にし、特許を取りました。今は家庭でも魚をさばく方が少なくなり、調理済み食品を使うことが多くなってきました。私たちは、家庭でひと手間かけるだけで、自分で作ったように美味しく、一流シェフが作ったような味を目指しています。
―砂川社長が合食に入られた経緯は?
砂川 私は子どもの頃から山登りが好きで、高校時代は山岳部に入っていました。先輩たちがいろいろな大学の林学科に進学するのを見て、私も山や自然、環境保全に関わる仕事をしたいと、京大農学部林学科に進みました。卒業後は三井物産に就職して木材や建材を扱っていましたが、30歳のころ、合食創業者の伯父に呼ばれ、迷った末、転職し途中入社しました。
―そして昨年、社長に就任された砂川さんですが、これからの合食の目指す方向は?
砂川 東京に本拠地を移さないのか?とよく聞かれますし、お誘いもいただきます。しかし私は、これからも神戸に本社を構えて、さらに機能を集中させていきたいと思っています。合食グループの売り上げで最も大きなウェイトを占めるのは水産商社としてですが、素材を扱うだけでは強みが発揮できません。昭和36年に創業者が参入した製造業の分野をさらに拡大していきたいと思っています。魚を切り口とした〝ものづくり〟です。神戸の企業ならではの水産物の医療分野への応用や製菓とおつまみの融合などその他の切り口でも将来は研究してみたいと思っています。
―神戸の今後についてはどうですか。
砂川 現在、ここ神戸市中央卸売市場本場西側跡地の利用が検討されています。どこにでもあるような大型ショッピングモールを誘致しても賑わいは一過性のものにしかならないでしょう。私はあの場所をシアトルのパイクプレースマーケットのような生鮮専門店中心の洒落た場外市場と住居・オフィス・商業施設を複合させた施設にできないかと考えています。大阪や他の都市で仕入れた商品を並べるだけでは神戸の活性化にはつながりません。中央卸売市場前という立地を生かした鮮度の良い美味しい生鮮品を神戸の人が気軽に買いに来ることができる楽しいイチバです。
今後、行政の皆さんが神戸の活性化につながるしっかりとしたコンセプトを提示し、経験やノウハウ豊富な良いデベロッパーの手で開発が進むことを期待しています。跡地利用は新たな需要、新たな雇用を生み出す最大のチャンスですから、もったいないことにならないようにぜひお願いしたいと思っています。
―「ずっと神戸に」というのは神戸っ子にとって心強いことです。神戸のためになるアイデアもどんどん発信していってください。
砂川 雄一(すながわ ゆういち)
1988年京都大学農学部卒業。1988年三井物産株式会社入社。1994年株式会社合食入社。1999年合食フローズン株式会社代表取締役社長。2007年株式会社合食専務取締役東京支店長、合食トレーディング(シンガポール)代表取締役社長。2011年10月株式会社合食代表取締役社長に就任。趣味は、山登り、温泉めぐり、サイクリング。