2012年
3月号

みんなの医療社会学 第十五回

カテゴリ:医療関係

TPPで脅かされる医薬品の安全性

兵庫県医師会常任理事
鈴木耳鼻咽喉科医院院長
鈴木 克司 先生

─新しい薬はどのように作られているのでしょうか。
鈴木 医薬品の開発をおこなう製薬企業などの研究者は病気の仕組みを理解して常に新たな薬のもとになりそうな物質を探しています。この物質は薬の種ということで「シーズ」と呼ばれています。もともと自然界に存在する物質が医薬品に応用されてきたところ、科学の進歩により現在では合成された化学物質の中にも医薬品に応用できるものがたくさんありえます。
 また、もともと医薬品にする目的で合成されたのではない物質からも候補になることもあります。人体内で作用させる以上、シーズは体内でどのように変化して代謝され排泄されるかはもちろん、患者に悪い影響を及ぼさないことが確かめられてから使用されます。まず実験動物に投与して安全かどうかを確認されたものに限り、健康な人を対象にごく少量を「医薬品の候補物質」として投与し徐々に量を増加させて副作用が出ないかを確かめる第Ⅰ相試験へと移行します。その時はどのくらいの速さで吸収されどのように作用し、どのくらい時間がたてば排泄されるかも調べます。
 次に対象となる病気を持った人に投与して有効性と安全性、より能率がよい投与法を確かめる第Ⅱ相試験、最後に多数の患者さんに正式な「治験薬」として投与し、有効性・安全性を確認する第Ⅲ相試験がおこなわれ、すでに使用されている同じような効果をもつ医薬品との比較も行われ、よりよい効果があり副作用の点も問題ないかを確認します。これらの一連の作業を「治験」といいます。
─治験が終われば販売できるのですか。
鈴木 そのためには治験結果をもとに国に申請し認可を受けなければなりません。しかも日本には公的な健康保険制度があってほとんどの場合健康保険診療として治療が行われるわけですから、中央社会保険医療協議会(中医協)という国の審議機関で健康保険適用の審査を受け認めてもらう手続きも必要です。これを保険薬価収載と言います。製薬企業はこれらの手続きを踏んでようやく医薬品を販売し利益を上げることができるようになります。シーズの発見から年単位の時間を要するばかりか、すべてのシーズがものになるとは限らず先行投資だけで終わってしまう場合もあります。しかも、人の生命にかかわることですから、絶対に途中で不正があってはなりません。
─治験参加者の安全はどのように守られているのでしょうか。
鈴木 治験参加者の安全と人権を守るため、厚生労働省が定める「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」という厳格なルールを守ることが求められています。医薬品を開発する製薬企業などはまず治験内容を「治験実施計画書」として届け出なければなりません。  
 厚生労働省ではその内容に安全や人権を守る上で問題がないかを審査します。審査が通れば医療機関で参加者が募集されるのですが、治験開始前に対象者として適切かどうかを厳密に審査され、治験担当医師や治験コーディネーターと呼ばれる専門職による説明を受けた上で自発的な参加意志を表明した人だけが同意書に捺印して参加することになりますので、対象の疾病の患者なら誰でも参加できるわけではありません。治験を担当する医療機関には医師をはじめとする治験の専門職ばかりではなく、利害関係のない外部の有識者らにより構成された治験審査委員会でも絶えず審査・確認がなされます。医薬品だけでなく医療機器や医療材料についても同様で、このように厳密な手順を踏まなければいけないことが法的に定められ、国民の安全が守られているのです。
─日本がTPPに参加しても、このような厳密な仕組みは守られるのでしょうか。
鈴木 TPPに参加すれば現行の厳しい基準は「非関税障壁」とみなされて、アメリカの製薬企業が自社製品を売り込みたいためにルールの緩和を求めてくるでしょう。その時、国内法でこう決めてきたといっても国際的に決めたルールが優越する約束だとして、無理やり緩和させられかねません。アメリカは自国でおこなわれた治験で安全性が確かめられているからと主張してくるでしょうが、医薬品はそもそも人種によって適正な投与量・効果・副作用が違います。その確認を無理やり省略して「早く売らせろ」という要求が出た場合、日本政府が抵抗できるとはとても思えないのです。
 今や私たち医師を含む医療・介護従事者は全就労人口の1割を超すまでになっています。われわれは製薬業界の方々とともにTPPによって既得権が侵される限られた人数の集団と誤解されているのではないかと思います。実はそうではなくあくまでも国民の安全のためにTPP反対の姿勢をとっているんだ、ということを是非ご理解いただきたいと思います。

鈴木 克司 先生

兵庫県医師会常任理事
鈴木耳鼻咽喉科医院院長

〈2012年3月号〉
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