2015年
1月号

近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトの“ことば”と見る 平尾工務店「オーガニックハウス」

カテゴリ:建築

 「カウフマン邸(落水荘)」や「山邑邸(ヨドコウ迎賓館)」など、数々の名作を手がけた稀代の建築家にして近代建築の三大巨匠の一人、フランク・ロイド・ライト。近代建築の扉を開いた彼の建築は、有機的な統合のもと、自然の本質である「調和した秩序」をまとい、まるで大地に根を下ろして光の中へと伸びていく樹木のように存在する。平尾工務店の「オーガニックハウス」はライトのイズムを継承、さらに現代という時代や日本という地域性にアレンジして具現化。ライトの愛弟子にして有機的建築の思想を正統的に継承したジョン・ラッタンバリーをはじめとする建築家たちにより、コンセプトからデザインに至るまで綿密に編み上げられた、普遍的な価値を持つ住宅だ。その魅力を、巨匠・ライトのことばとともに紹介しよう。

内と外の融合

 大地のゆったりとした広がりが入ってくると同時に、建物とその内部空間が外にあふれ、大地のつながりと共調する。大地と建物は直に開きあい、親密につながりあって、お互いを一層引き立てる。環境としてつながりあうだけでなく、建物のなかで営まれるよき生活パターンとしてつながりあうのだ。
−フランク・ロイド・ライト

 「オーガニックハウス」は内と外の結びつきを体現し、私たちに自由の翼を与えてくれる。透き通ったガラスの窓を天井いっぱいまでとり、リビングとデッキをつなげ、内と外の融合を体現。床板も同じ方向に貼り、壁にも同じ煉瓦を使うことで、リビングはデッキと統合され、まるでひとつの空間のようだ。ゆえに広さと開放感が生まれ、大地と一体となるような感覚が呼び覚まされる。
 内部と外部の統合は、内と外があいまいな日本古来の民家にも通じるものがあるのではないだろうか。ライトの思い描いた「大地とつながる」空間は、日本人が心から安らぐことのできる空間と大いに重なっている。私たちがもっとも健康的に過ごすことができる空間は、このリビングが体現している「内と外の有機的な融合」にある。

空間の結びつき

 そのころの住宅は、故意に徹底的に切り刻まれていた。(中略)内部は、箱また箱、さらにその中に箱、といった具合だった。部屋と呼ばれる箱である。すべての箱は、複雑な外側の箱のなかに納まっていた。建物内部機能は、ひとつひとつの箱に割り当てられていた。
 このような抑圧的な態度、部屋ごとに物事を区切るようなやり方には、ほとんど何の感性も認められない。

−フランク・ロイド・ライト

 「オーガニックハウス」は寝室や浴室など区切りが必要な部分をのぞいて、空間はゆるやかにつながっている。しかし、ただ単純に空間が広がっているだけでなく、例えばリビングとダイニングは明確な境界はないものの、おだかやかな変化により独立性を感じさせる。
 その秘密は上下の抑揚にある。例えば玄関からリビングへの導線は天井が低いが、リビングへ至ると天井が高くなる。この上下空間の変化でスペースの独立性を自然に演出、さらにリビングはより広く明るく感じられる。
 空間の結びつきは、家族の結びつきにも通じる。区切りのない空間は常に家族の気配を感じさせ、自然なコミュニケーションを育むだろう。

水平のライン

 私は、過剰につくり込まれ、つくりあげられた空間では、住み手が自由に動き回ることができないと感じていた。そこで、自らの感覚に従い、水平線を人間生活の地平(安らぎの線)ととらえることにした。(中略)建物を下げて平らにのばし、比例を適切に整え、地面との間に安定した関係をつくり、人間的な配慮を尽くすことにした。
−フランク・ロイド・ライト

 水平のラインは大地のライン。「オーガニックハウス」の流れるようなラインは装飾によるものではなく、機能に従って不必要なものを除去しスケールを適切に整えて生み出されている。
 軽やかに流れる屋根のラインは大きく伸び、カンチレバーとなって夏の強い日差しから住人を守る。窓も水平のラインに幅広く配され、室内に光を招き、内部と外部を結びつけている。
 屋内もまた、水平な空間が広がっている。間仕切りを削ぎ落とし、広く、開放的だ。
 この洒脱な外観の根源は住人の快適性を追求した結果の上に湧き上がってきたもので、造形美と居心地のよさが建物と一体になっているのは思想が貫かれているからである。

素材の本質

 様々な素材には、それぞれ違った魅力的性格がある。これを建物の建設に利用すれば、建築の形を自ずと高め、変調させ、そしてついには、その形すべてを文字どおり刷新することになる。(中略)自然の命ずるところにしたがって進みつつ、設計者は、手にする素材が何であれ、それを彼の目標に向かって、この時代の人間たるにふさわしい方法と判断力に則って、分別をもって取り扱っていかなければならない。
−フランク・ロイド・ライト

 自然素材であろうが合成素材であろうが、それ自体に内在する様式や本質を見抜いて理解し、その上でまさに「適材適所」とすることが重要だ。素材の本性を住み手の生活や環境、敷地と統合させることで、住宅は自然な性能を発揮する。
 「オーガニックハウス」もまた、無垢の床板、木枠のサッシ、土の塗り壁など、住む人の感覚や健康にまで視野に入れ、その本性を知り尽くした匠の技で仕上げている。
 建物の骨格には、紀州の老舗、山長商店の杉材を使用。年輪幅が細かく狂いの少ない原木を高度な技術で乾燥させた材木は耐久性に優れ、いつまでもおだやかな暮らしを守ってくれるだろう。



装飾と意匠

 単純性-芸術家としてこの言葉を用いるとするなら-は、ある有機的全体のなかの完璧なる一部分となってはじめて達成されるものなのだ。単なるひとつの特徴、単なる一部分に過ぎなかったものが、単純性の域に達すると、調和した全体における調和した要素となる。(中略)デザインの明瞭さと、完全なる意義の表明は、ともに野に咲く百合の自然な単純性の第一の本質である。「苦労もせず、紡ぎもしない」。このイエス・キリストの言葉こそ、単純性についての至言である-
−フランク・ロイド・ライト

 建物と一体となったシンプルなパターン、ディテールにまで散りばめられた何気ないデザインは、優れた詩のように心を動かす。
 「オーガニックハウス」でもまた、心を動かすシーンに出会うことができる。階段の手すりのスクエアのパターンや、ドアの寄せ木風のしつらえ。座り心地の良い備え付けのベンチのファブリックは、その色合いが空間の何気ないアクセントに。野の花のような単純性と飽きのこない造形美が空間と調和している。
 これがないと味気ないし、これ以上だとうるさいという絶妙なバランス。良いデザインは色褪せない。


〈2015年1月号〉
特集 ー 豊かな自然と住環境を 市民自ら守る街、芦屋を歩く
芦屋を歩く(2) 日本料理 ふる里
芦屋を歩く(3) 山海百味 一駛 (ひとし)
芦屋を歩く(4) 日本料理 あめ婦
芦屋を歩く(5) レストラン あしや竹園 (ホテル竹園芦屋 直営レストラン)
芦屋を歩く(6) PAN TIME (パン タイム)
芦屋を歩く(7) アンリ・シャルパンティエ 芦屋本店
芦屋を歩く(8) 芦屋 田中金盛堂
芦屋を歩く(9) Pantry パントリー芦屋店
芦屋を歩く(10) 芦屋神社
[対談]神戸の明るい未来をめざして
阪神・淡路大震災 20年に寄せるメッセージ 2015年1月17日 神戸から
キュレーターが震災を語り継ぐ 1月17日よりスタート
新連載コラム 「第二のプレイボール」Vol.1
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モダニズムと和洋がオーバーラップ 芦屋ならではの建築文化が生まれた
祖父母との思い出を紡ぐ「芦屋の中の京都」平田町 《ギャラリー開雄》
“上等な”暮らしではなく、“幸せな”暮らしがある 《稲畑邸》
テニスを通して、 社会に貢献する《芦屋国際ローンテニスクラブ》
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日本が世界に誇るマリーナ 《芦屋マリーナ》
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