2018年
9月号

輝く女性Ⅱ Vol.4 香港李小龍會執行幹部海外統括 ソフィ・ウエカワさん

カテゴリ:文化人, 西宮

インタビュアー・三好 万記子

人気料理サロン「ターブルドール」代表の三好万記子さんがホスト役となって、
輝いている阪神間在住の女性にお話を伺うシリーズ。
おもてなし上手な三好さんとの対談から、どんなオイシイお話が飛び出すことでしょう。

香港李小龍會執行幹部海外統括 ソフィ・ウエカワさん

武道家であり賢人でもある、ブルース・リーの魅力を次世代へ伝え、
ファンの心の炎を燃やし続けていきたい。

ドラゴン旋風で世界を席巻したブルース・リーのトリコとなり、香港映画一筋の人生を歩んでこられたソフィ・ウエカワさん。世界中のブルース・リーファンが交流する「李小龍會(ブルース・リー・クラブ)」における唯一の日本人かつ女性幹部としての活躍はもちろん、その高い語学力を活かして、香港映画関連の通訳・翻訳、字幕翻訳もこなすなど、日本&香港を“足技”ならぬ“股”に掛けて、躍動されています。

…そもそもソフィさんがブルース・リーのファンになった、きっかけは?

 幼い頃、父親が好きだったテレビ番組、プロレスのアクションショーとしての演出が理解できず、「嘘っぽい。やらせやん」と常々、憤慨していたんです。そんなとき、ブルース・リーの映画(おそらく「ドラゴンへの道」)を見る機会があり、これぞホンマモンの強い人だ!と惚れこんで、どんどん深みにはまっていきました。

…単なるファンで終わらずに、広東語の通訳や翻訳家になられるというのがすごいですね。あまりにブルース・リーが好きすぎて、一時期、香港に住まわれていたこともあるとか。

 大学時代、香港旅行に出かけたんですね。中国返還前の80年代の香港は、爆発的な成長時期で、東洋と西洋ふたつが混在した文化で彩られた風景や人々が魅力であふれていました。将来絶対に香港に住もうと決意をしたのも、その時です。現地の人が交わす広東語は、語尾が「ラ~」「マ~」と間延びして、間抜けな印象で(笑)、これなら私だって話せるのでは?と猛烈に勉強しました。そして大学卒業後、香港にゆかりのある会社や貿易関係の事務所に勤めてお金を貯め、1993年に香港に移住。2004年までの約10年間、あちらで働いていました。

…「李小龍會(ブルース・リー・クラブ)」に入られたのも、その時ですか?

 はい、たまたま出勤途中に、表紙がブルース・リーの雑誌を購入し、そこに紹介されていたクラブ発足の記事を読んで、すぐにブルース・リーへの想いと入会したい旨をしたためた手紙を送ったんです。まさかの日本人、しかも女性ゆえ、発起メンバー達も最初は半信半疑だったようですが、嘘ではないとわかり、それならば執行幹部になってもらおう!という話に。1995年に正式設立する前の準備段階から参加し、すべての海外会員の窓口、特に日本の会員さんには日本語で対応し、活動のベースを支えています。

…ブルース・リーの実弟が名誉顧問を務められる「李小龍會」は、地元香港から台湾、シンガポール、ヨーロッパ各地まで、会員数300人を超える大所帯。ブルース・リーが亡くなられた7月と、お誕生日の11月のイベント開催ほか、香港政府と協力し、観光スポットも作られたんですよね。

 香港には、リーにゆかりの場所がいくつもありますので、そのスポットの中から6カ所を選んで「李小龍事蹟径(ザ・ブルース・リー・ウェイ」を設置しました。各所に記念碑を設け、リーとその場所・建物とはどのような縁があったのかを写真付きで解説しています。

…チムサーチョイの星光大道(アベニュー・オブ・スターズ)にある銅像は有名ですね。

 ほかにも知ってほしい場所がたくさんありますので、これからも増やしていこうと考えています。生誕80周年を迎えるメモリアルイヤーの2020年には大きなイベントを実施する予定です。

…ソフィさんという名は香港で働かれる際、通称としてつけられたとか。

 哲学のフィロソフィーにちなんでいます。この言葉はギリシア語に由来していて、智慧(ソフィア)を愛する(フィレイン)という意味があり、私の本名の智子にも合うかなと。実は映画スター、ブルース・リーにはワシントン大学で哲学を専攻していた哲学者という顔もあるんです。老子、荘子、禅の鈴木大拙に影響を受け、「燃えよドラゴン」の有名な“Don’t think! Feel”に続く台詞は、禅仏教でよく使われる「指月の喩え」と呼ばれるもの。彼の映画の中での言葉やインタビュー、友人への手紙の中には数々の哲学的な珠玉の言葉が残っています。私は中学の時にいじめにあって誰にも相談できずに悩んでいた時があったのですが、リーが一番弟子に書いた手紙のなかの深い哲学思想を知り、とても心の支えになりました。“人生は水の流れに似ている。ときには不愉快なことが突然現れ、心に傷跡を残すが、全ては水のようにゆっくりと流れていく”というような内容でした。

…「アチョー」という異様な怪鳥音を発するアクションスターの顔ばかりではなかったんですね。そういうことを知ってから映画を観ると、より深く楽しめそうです。

 彼の映画芸術と哲学、創始した武道・截拳道ジークンドー(Jeet Kune Do)は今なお、多くの人にリスペクトされています。一昨年から昨年にかけ、私が通訳や脚本翻訳をお手伝いした映画『マンハント』のジョン・ウー監督も、リーの大ファンなんですよ。また2018年は、ブルース・リーへのオマージュとして知られる『燃えよデブゴン』のリメイク版でも通訳を担当させてもらいました。これからも色々な仕事を通して、リーの身体的にも精神的にも本当に強い哲学武道家としての素晴らしさを、若い世代に語り継いで、認知の幅を広げていきたいと思っています。

…次々とブルース・リーに関連する仕事の依頼が舞い込むのは本当にすごいこと。ご自身の好きな道を切り開いて、突き進んでいかれる様は、まさに日本女性版ブルース・リー「アツいファイター」ですよね。そのアツさも神戸人の私にとっては絶妙、アツすぎず、さりげなく、クール。ビジネス界で戦っているカッコよさは私の知人のなかでもピカイチです。

対談ホスト役の三好万記子さん(写真右)と、ソフィ・ウエカワさん(写真左)。お二人のご子息が夙川小学校の同級生で、同じ野球部員だったというママ友つながり。子供達が大きくなった今も交流を続ける

香港李小龍會幹部と名誉主席である弟のロバート・リー氏と。ブルース・リー銅像の香港の現在地にて

ソフィさんが制作したヌンチャク・マフラーと共に。日本でのブルース・リー・イベントにて

ジョン・ウー監督(左から2人目)作品『マンハント』での食事会にて

2018年、ドニー・イェン版『燃えよデブゴン』撮影風景


三好さんからの質問コーナー

Q.ハマっているグルメや気になるお店はありますか?

A.香港の食生活には「医食同源」の考え方が根付いていて、「身体にいい食べ物」を常に意識的に食べています。
例えば、赤肉を食べてカラダに熱がこもったら、炭酸の入っているコカ・コーラで冷ますという具合に、食べ物で上手にコントロールします。現在、香港は長寿世界一でもありますし、食べ物のバランスはとても大事だと思います。


ソフィ・ウエカワ

神戸生まれ、西宮育ち。関西学院大学文学部哲学科卒。フリーランスの通訳(広東語をメインに英語と北京語も)・翻訳(中国語・英語)。「大阪アジアン映画祭」で香港からのゲストの通訳を2011年から現在まで務める。2013年から2015年まで大阪観光局で中華圏インバウンド担当。2016/2017年はジョン・ウー監督作品『マンハント』でアクション部通訳および脚本翻訳を担当、撮影の途中で突然監督から指名され、出演も果たす。2017/2018年はドニー・イェン主演作品『燃えよデブゴン(仮)』でアクション部通訳を担当。1993年~2004年は香港で暮らす。1995年より香港の李小龍會(ブルース・リー・クラブ)の執行幹部。

三好 万記子(みよし まきこ)

株式会社ターブルドール 代表取締役
神戸女学院大学卒。パリに3年間滞在中、フランス料理を学ぶ。ル・コルドン・ブルーにて料理ディプロマ、リッツ・エスコフィエにてお菓子ディプロマを修得。帰国後、西宮市・夙川にて料理サロン「Table d’or」主宰。また出張料理人としてケータリングも展開、料理はもちろんディスプレイを含むトータルコーディネートに定評あり。企業へのメニュー開発、レシピ提供など、「食」を幅広くプロデュース。二児の母。

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