9月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.58|神戸大学医学部附属病院 放射線腫瘍科 宮脇 大輔先生に聞きました。
がんの治療は「手術」「薬物療法」「放射線治療」を組み合わせる集学的治療が基本。他の治療法と併用することが多いという放射線治療の方法や役割について、宮脇大輔先生に伺いました。
―がんの放射線治療にはどのような方法があるのですか。どの臓器のどのようながんに効果があるのですか。
放射線治療の方法は大きく、放射線を体の外から照射する「外照射」と体の中から照射する「内照射(小線源治療)」という2つに分けられます。前立腺がんや早期肺がん、喉頭がんなどでは、放射線治療単独で根治を目指せる場合があります。また、局所進行がんでは手術や薬物療法と組み合わせた集学的治療の一つとして行われるなど、多くのがんで重要な治療の役割を担っています。さらに、脳転移などに対しても、高精度放射線治療によって病変の局所制御を目指す治療が行われています。放射線治療は「治すための治療」だけでなく、「苦痛をやわらげる治療」としても非常に重要な役割を担っています。
―苦痛をやわらげる治療とは?
放射線を当てることで痛みをやわらげたり、腫瘍からの出血を止めたりする治療ができます。例えば、がんが骨に転移して強い痛みがある場合、放射線を照射することで、腫瘍の進行を抑え、痛みをやわらげます。また、腫瘍による骨の破壊を抑え、骨折の予防につながることもあります。
また、がんが脳に転移し、頭痛やまひなど神経症状が出ている場合は放射線によって腫瘍を小さくし、症状の改善を目指す緩和的治療を行います。短期間の照射で症状が軽減することも多く、患者さんのQOLの向上に大きく貢献しています。
―2つの方法はどのようにして放射線を照射するのですか。
画像診断の結果を基に病変の位置を正確に把握し、放射線腫瘍医がどの範囲にどの程度の放射線を当てるかを決める治療計画を作成します。外照射の場合は、患者さんには固定用の器具や補助具を使いながら毎回、治療用ベッドの同じ場所に同じ姿勢で横になっていただきます。そして、放射線治療装置に備えられた画像確認機能で位置を確認しながら、腫瘍に正確に照射します。内照射(小線源治療)の場合は、放射線を出す小さな線源を体内や腫瘍の近くに一時的または永久的に留置し、病変の近くから放射線を照射します。腫瘍の近くから照射することで、正常組織への影響を抑えながら、高い線量を集中できます。
―ラジオ波でがんを焼き切るように、放射線を照射してがん細胞をやっつけるのですか。
放射線治療は、放射線によってがん細胞のDNAに傷を付け、細胞の分裂や増殖を抑える治療です。レントゲンやCTなど検査・診断に使われるX線よりも高いエネルギーの放射線を照射すると、体内の水分子(H2O)からOHラジカルと呼ばれる物質などが生じ、DNAを傷つけます。また、放射線そのものがDNAに直接作用することもあります。最近よく耳にする「重粒子線治療」も放射線治療の一種で、通常のX線とは異なる特徴を持ち、がん細胞への高い殺傷効果が期待されています。
―放射線はがんの治療以外でも使われることがあるのですか。
ほとんどはがんの治療です。特殊な例としては、手術後の傷跡に放射線を当てることによってケロイドをできにくくする、甲状腺眼症の患者さんにステロイド治療と同時に放射線を当て、眼球の突出などの症状を改善するなどがあります。ただし、日常診療ではがん治療が中心です。
―がんの放射線治療は臓器機能の温存が可能なのですか。
例えば、喉頭がんが声帯にできると、外科手術で摘出すると声が出にくくなることがありますが、放射線治療を中心とした治療を行うことで、声を出す機能を温存できる場合があります。前立腺がんでは、外科手術後に尿失禁が起きるケースがあります。放射線治療を選択することで排尿機能を温存できる場合があります。乳がんは手術で切除する治療がメインですが、腫瘍を含む乳房の一部だけを手術で摘出し、残った乳腺に放射線を照射する乳房温存療法が標準的な治療の一つとなっています。こうすることで、乳房を温存しつつ乳房全摘手術と同じような効果が期待できます。
―機能を温存できるということは最善の治療法ということですか。
放射線治療は万能ではなく、がんの種類や広がり方によって向き不向きがあります。全身に病気が広がっている場合は薬物療法が中心になり、病変が広範囲に広がっている場合には放射線治療単独では十分な効果が得られないことがあります。喉頭がんについては早期(ステージ1~2)であれば放射線治療のみで根治を目指しながら機能を温存することが可能ですが、例えば腫瘍が喉頭の周囲まで広がった進行例では、喉頭を摘出する外科手術をお勧めすることがあります。前立腺がんでは、進行例では外科手術だけで取り切ることが難しい場合があります。一方、早期の場合は、手術や放射線治療など複数の治療選択肢があり、期待される治療効果や副作用、生活への影響などを考慮しながら、患者さん自身の考え方も大切にして治療法を選択します。
最近は肺がんでも早期であれば、放射線の外部照射を4回繰り返す高精度な治療で外科手術に匹敵する効果を得られるケースも増えています。どんながんでも患者さんの意思を尊重しながら、最適な治療法を検討することが重要です。
―他の診療科との連携・協力は欠かせないのですね。
がんの治療は「手術」「薬物療法」「放射線治療」の三本柱を組み合わせる集学的治療が基本です。手術前に放射線や抗がん剤を行う、手術後の再発予防として放射線を行う、抗がん剤と放射線を同時に行うなど、患者さんの状態に応じて組み合わせますから、あらゆる診療科との連携・協力が必要です。また、放射線診断・IVR科とは同じ放射線を扱う診療科ですので、それぞれ異なる専門性を持ちながら協力しています。IVR(画像下治療)と放射線治療を組み合わせた治療方針を検討することもあります。
他の診療科との協力だけでなく、放射線腫瘍科では医師をはじめ、診療放射線技師や医学物理士、看護師など多くの職種が協力し、チーム医療で患者さんを支えています。

宮脇先生にしつもん
Q.宮脇先生はなぜ医学の道を志されたのですか。
A.理系科目が得意だったので自然と医学部を志望するようになりました。直接のきっかけになったわけではありませんが、高校生の時にドラマ「振り返れば奴がいる」を見て、人の命に向き合う医師という仕事の重みを感じたことを覚えています。
Q.なぜ放射線治療学を専門にされたのですか。
A.学生時代の授業や臨床実習で画像診断に興味を持ち、放射線科に入局しました。「ドクターズドクター」として他の診療科を支える役割と、その専門性に魅力を感じる一方で、患者さんの体への負担をできるだけ抑えながら根治を目指せる放射線治療にも魅力を感じ、専門とするようになりました。画像診断で培った知識を生かしながら、患者さんと直接関われることにやりがいを感じています。
Q.患者さんと接するにあたって心掛けておられることは?
A.がんと診断された患者さんは大きな不安を抱えておられます。治療の内容や目的についてできるだけ分かりやすく説明し、十分に納得したうえで治療を受けていただくことを大切にしています。病気だけでなく、生活背景や価値観にも目を向け、患者さんにとって最適な治療を一緒に考えるように心掛けています。
Q.学生さんや後進の先生方を指導するうえで心掛けておられることは?
A.知識や技術だけでなく、その背景にある考え方を伝えることです。また「患者さんにとって何が最善か」を考えることを、日々の診察やカンファレンスを通じて伝えています。学生時代に放射線治療に触れる機会は限られているかもしれませんが、将来、どの診療科に進むとしても、患者さんの役に立つ場面があることを知っておいてもらえればと思っています。
Q.ご自身の健康法を教えてください。
A.できるだけ歩くこと、「気にしない力」を持ちストレスをためないこと、しっかり睡眠を取り、無理しすぎないことくらいですね。












