12月号
[海船港(ウミ フネ ミナト)] ライン河クルーズ③ コルマールからストラスブールまで
文・写真 上川庄二郎
【コルマールからリックビールまで】
ブライザッハからバスで40分ほど、国境を越えてフランスのコルマールに入る。ライン河のこの辺り一帯は、アルザス地方に属する名だたるワイン産地であり、独仏の国境を接するこの地方はワイン街道と呼ばれている。一方、この地方は国境を挟んで紛争が絶えず、17世紀にはフランス領であったが、普仏戦争でドイツ領となり、第一次大戦でフランス領に戻り、第二次大戦では、ナチスドイツに占領されたが、戦後再びフランスにというように、ドイツ、フランスの間で幾度も揺れ動いた地域であることも忘れてはならない。したがって、町並みもドイツ文化を色濃く残していて、日本でいえばさしずめ小京都といったところ。
コルマールからさらに30分ほどワイン街道を走ると、人口千人ほどの小さな村・リックビールに着く。わずか数百mの中心街一本のこんな小さな村に、どうしてこんなに多くの観光客が訪れるの? といいたいぐらいの人で溢れ返っている。一歩外れると、そこには広大なぶどう畑が拡がる。リバー・クルーズのいいところは、このように通常の陸上からの旅行では訪ねることのないようなところにゆくことができることといえよう。
【EUの中心都市・ストラスブール】
次は、ストラスブール。ここも独仏間で国境が入れ替わったまちである。したがって、ここもドイツ文化の影響が色濃く残っていて17世紀のアルザス地方特有の木組みの家々が立ち並び、これらが世界遺産に登録されている優れた文化遺産のまちである。イル川沿いのプチット・フランス地区がその代表例となっている。
名物料理・シュークルート(茹でたキャベツ料理)に見るように、ドイツの食文化の雰囲気を色濃く残すまちでもある。
そのストラスブールに、新しい顔が加わった。1994年にEUの欧州会議が置かれたのをはじめ、欧州人権司法委員会なども設置され、今では欧州の中心的な地位を占める主要都市なのである。
加えて、もう一つの顔は、1960年に一度は廃止した路面電車を、1991年にいち早く復活して、公共交通優先のまちづくりに取り組んだことである。今では、LRT(ライトレール・トランジット)という名の世界最先端の公共交通がまちを闊歩している。世界の国々からもひっきりなしに見学者が訪れるまちとしても売れっ子である。私も、神戸のまちにこんな交通機関ができればとの思いから2004年に現地を訪ねたものである。今回は図らずも二度目の訪問ということになったが、LRTを中心に町がさらに整備され、EUの顔としての貫禄十分である。
公共交通政策の遅れている日本にとっては、まさに〝他山の石〟としての存在。視察に訪れる外国人の中でも日本人、特に地方議員が断然多く訪れるということである。ストラスブールの人たちは、「これだけ見に来るのだから、日本でもLRTがどこかで走るようになったの?」と皮肉っぽく語る。
何時の日に、日本は、神戸は自動車優先のまちから、公共交通優先のまちに変身するのだろう。地球温暖化の進む中、また、さびれゆく中心市街地再生の切り札としてLRTが大手を振って闊歩できるようなまちぢくりに早く手を打ってほしいものである。
■かみかわ しょうじろう
1935年生まれ。
神戸大学卒。神戸市に入り、消防局長を最後に定年退職。その後、関西学院大学、大阪産業大学非常勤講師を経て、現在、フリーライター。