7月号
ファンタジー・ディレクター 小山 進の考えたこと Vol.4
「地下2階」のものづくり
僕はここ何十年もケーキ屋さんに行ったことがない。同業者のできあがった形を見ても仕方がないからだ。それよりも異業種の方のアウトプットやメーキングをどれだけインプットし、どれだけ自分の作品に反映できるかが重要である。
音楽プロデューサーの小林武史さんとは最近親しくさせていただいているのだが、こんな面白いことをおっしゃっていた。
「世の中は9割の人間が地上と地下1階を行き来する人たちだ。残りの1割は地下2階でじっくりものづくりできる人たちだ」
どんな人も、オリジナリティのある独創的なものをつくりたいという願望がある。しかし、真にオリジナリティのあるものをつくる人は、いま世の中で何が起きているか、何が流行しているかということを全く気にしていないのだ。9割の人たちももちろん独創的なものをつくりたいと思っているから、ちょっと地下へ下りかける。だけど世の中=地上のできごとが気になって仕方がないから、すぐ地上に上がる。地上にはすでに世の中で形になっていることがあふれている。流行しているから、売れるからと、すでに形になっているものばかりを追ってしまうから、オリジナリティのあるものをつくることができない。
だけど、例えばミスチルの桜井和寿さんやサザンオールスターズの桑田佳祐さんは、地上でどんな曲が流行っているかなんて全く気にされていない。地上の喧噪が耳に入らない地下2階でじっくりと、自分が体験してきたこと、この1年で感じてきたこと、今日思ったことなどをベースに曲をつくられている。
あるとき、あるアーティストと小林さんがやりとりしているのを見聞きした。小林さんが自分の描くイメージに近づくように、近づくように、歌詞を修正されていて、見せていただいた僕には何がいけないのか分からなかったが「この言葉では薄い」と伝えていた。そしてまた修正後の歌詞があがってきて、また修正して…、そして出来上がった曲を聴かせてもらったけれど、心に響く良い曲だった。小林さんは自身の想いを伝えるために細やかな表現にまでこだわっていたのだが、そういうトップレベルの人の創作の瞬間を見ると、自分のお菓子づくりも同じだなと思う。
彼らも、僕も、世の中にないものをつくろうと思っている訳ではなく、自ずとそうなってしまう。そして、リアルに考えていることを表現するから、自然とメッセージが宿る。人の真似をしている人がつくったものには、メッセージ性なんてない。
しかし、真似がすべて悪いとは言わない。むしろ若い頃、20代~30代前半の頃は、真似することで大切なことを学ぶべきだ。
僕は中学3年の頃から甲斐よしひろさんに憧れて真似していた。やがて甲斐さんと知り合いになったが、実際に会うと優しくて細やかな気遣いをすごくされる方だし、音楽に対してすごくストイックなのだ。中学や高校の頃は何となくカッコイイと思っていて、なぜカッコイイのか?をずっと探っていたけど、会ってその答え合わせができたし、少年時代に甲斐さんの作品に出会って、受け止めて、好きになったことは間違いじゃなかったと確信できたことが何よりも嬉しかった。それがコピーをすることの重要性だと思う。
真似をすべき人がいるならば、徹底的に真似をするべきだ。しゃべり方や仕草まで似てくるほどに深く。ただ大事なのは、真似する人を間違えてはいけない。そして、薄っぺらい真似ならしない方がいい。大事なところを見抜く力があれば、学ぶべきところをきちんと真似することができるはずだ。
まずは格好から、ということも大事だ。それは、モチベーションが上がるから。実は桜井さんも甲斐さんのファンで、VネックのTシャツをよく着られているのは甲斐さんの影響だそうだ。
パティシエ ショコラティエ
小山 進
1964年京都生まれ。2003年兵庫県三田市に「パティシエ エス コヤマ」をオープン。「上質感のある普通味」を核にプロフェッショナルな味を展開し続けている。フランスの「C.C.C.」のコンクールでは、2011年の初出品以来、7年連続で最高位を獲得。2017年11月、開業14周年を迎えた日に、デコレーションケーキ専門店「夢先案内会社ファンタジー・ディレクター」をオープンした