2月号
フランク・ロイド・ライト その思想と建築を今に Vol.7
和のエッセンス
オークパークにユニティ・テンプルを建て、バッファローにラーキン・ビルを建てたとき、私は、建物が人間の外にある囲いであるという建築のあり方に対して、最初の反抗の狼煙をあげた。私は、こうした建物の古い習わしを、理念においても、実践においてもひっくり返して見せたのだった。このことで得意の絶頂にあった私の手元に、岡倉天心の「茶の本」が送られてきた。(中略)それを読んで私は次の一文に行き当たった。「ひとつの部屋の実態は、屋根と壁によって囲み取られた空間にこそ見出されるべきものであって、屋根や壁そのものに見出されるべきものではない」。その一文に、私は自分自身を発見した−
ライトの作品は東洋的な趣があるが、ライト自身も「深い哲学的な意味において確かに東洋的」と肯定している。なるほど、樹木のように大地に根を下ろす有機的建築の発想は、自然とともに生きてきた日本人に馴染みやすい。内と外の空間が連続した設計もまた、日本の民家に相通じるものがあるし、用の美を昇華させた装飾も、生活の中にさり気ない美をあしらう日本人の感性に近いものがある。
そもそもライトは建築家であるとともに、浮世絵のコレクターとしても知られた人物で、浮世絵の買い付けで何度か来日している。彼が最初に来日したのは1905年。53日間にわたる滞在で、日光や京都など有名観光地を訪問し(このときに神戸・生田神社も訪ねている)日本建築や日本庭園などの写真を撮りまくっていた。日本のセンスを吸収し、そこから新たな着想を得て自らのものとして、空間にこそ建物の神髄があることを悟ったのかもしれない。
オーガニックハウスの和室は、そんなライトの感覚を見事に体現している。上下の窓から陽光を取り込み、引き戸にはライトらしいさり気ないスクエアの意匠が施されている。床の間のスペースには黒御影の床面を照らす照明が備えられ、さり気なく生け花などを飾りたくなる。木目の通った建具は、熟練の職人たちが手間暇をかけて仕上げたものゆえ、どこか温かい。
日本の伝統にモダニズムのエッセンスを織り込み、遊び心に満ちたこの部屋に入ると、なぜか心落ち着く。壁や天井も「囲い」ではなく、「部屋の実態」である空間そのものを愛おしく抱いているように感じるのはなぜだろうか。