08.17
WEB版エンタメ情報|
PRIME VINsTAGE『ジャコメッティのように』
俳優 岸谷五朗さん
寺脇康文との演劇ユニット『地球ゴージャス』を率いる岸谷五朗が、小劇場から発信する演劇プロジェクト『PRIME VINsTAGE(プライム ヴィンテージ)』を立ち上げた。旗揚げ公演となる『ジャコメッティのように』は、作・演出・出演を岸谷がつとめるオリジナル作品。8月20日(木)までABCホールで上演中だ。
今なぜ小劇場なのか…。岸谷が語った。
小さな空間から大きな芸術を!
ジャコメッティのように
―新プロジェクトを立ち上げた経緯をお聞かせください。
20代のがむしゃらに芝居をしていた頃、ある意味、演じることを許可してくれたのが小劇場でした。その時間が、多くの人に演劇を観てもらいたいという思いに繋がり、大劇場に進ませた。そして大劇場での演劇がどんどん楽しくなっていき、現在の地球ゴージャスに至ります。
そんな中、ずっと自分の中で気になっていたのが、小劇場への恩返しでした。「小劇場を忘れてないよ」と思いながらも、踏み台にしてしまった、置き去りにしてきてしまったという申し訳なさがずっと心にありました。
―では恩返しをするために…?
60歳を過ぎた頃から、小さな空間で創る演劇にトライしたい、もう一度カンパニーを作りたいと思っていました。
そんな時に、NYでイマーシブシアターの『マスカレード』を観ました。『オペラ座の怪人』をベースにした、なかなかチケットがとれない、今、大注目の作品です。その芝居は、大劇場にはない演出が施されていて、観客にも行動が求められる。いわゆる小劇場のような距離で行われる演劇。驚いたし、本当に良かったし、本当に素晴らしかった!小劇場、熱いじゃないか!
それで私も、オフ・ブロードウェイに対抗できるカンパニーを作ろう!と。このNYで芽生えた想いと恩返しの2つが、立ち上げの理由です。
―アルベルト・ジャコメッティをモチーフにしたのはなぜですか?
幼い頃、まだピカソも知らない頃に興味をひかれたのが、ジャコメッティの彫刻『歩く男』でした。ジャコメッティが好きな母の影響で、家にあった本や作品集を目にして育ちました。今回、この作品を書くために読んだ本、10数冊はすべて母が買い集めたもの。その中に、哲学者・矢内原伊作の本もありました。パリ留学中にジャコメッティと知り合い、彼の創作に刺激を与えたとされる人物です。ジャコメッティという人物を探っていくうちに、魅力的な生き方をした3人が浮かび上がってきました。ジャコメッティと妻のアネット、矢内原。彼らの数奇な運命を演劇にしたいという気持ちが沸々と湧き上がってきました。
ジャコメッティだけの世界を描いたのでは伝記になってしまう。それは避けたいと考えていたので、ジャコメッティが生きた時代と現代をオーバーラップさせながら、3人を描いていく。そんな企みがうまくいきました。
―矢内原伊作役の渡部豪太さん、アネット役の純名里沙さんへのオファーにも企みが?
豪太さんとは『歌うシャイロック』(2023年)でご一緒して、いい役者だな、いつかまた共演したいなと思っていました。矢内原とルックスが似ていて、滑舌の良さと言葉を大切にするセリフの言い方が哲学者役にピッタリ。彼にお願いしようと決めていました。
純名さんは、26年前に地球ゴージャスで共演した際、まったく違う2作品をそれぞれ見事に演じてくれました。今回もきっと魅力的な女性を作ってくれる。初めから勝算がありました。
それから今回、麿赤兒さん率いる大駱駝艦のメンバーも出演します。作品に欠かせない役どころ、大切な2人です。
―渡部さんのコメントに「岸谷さんとジャコメッティが交差する」とありますが、ご自身ではどう感じていますか?
稽古を必死に重ねるうちに、演じていて居心地がよくなってきました。それはジャコメッティの言葉が自分の中に入ってきているということだと思っています。伝記劇ではないけれど、元となるストーリーは事実ですし、史実に沿った言葉を使っているので、説得力はあると思います。
リアリティを意識しているけれど、セリフにした時に私なりの動きが入るので、実際は私が作ったジャコメッティほど軽くはなかったかもしれないですけど(笑)。
―アーティストとして、ジャコメッティに共感する部分はありますか。
共感すべきところは、辛さ、苦しさ。美術と演劇の違いはありますが、作品をゼロから創り出す者としての苦しみは理解できます。彼が残した言葉や矢内原の手記に残るエピソードを読むと、「そうか、なるほど…」と思えるんです。苦しみのあまり、筆を4、5本折ってしまったとかね。「え?」ではなく「うん、わかる」。
ジャコメッティ本人の表現より、3人がもつ各々の愛を表現するのが1番難しかったです。どこかにヒントがあるはず、と思って探し続けました。
―東京公演を今月2日に終えたばかりです。手応えはどうでしたか?
シアター・アルファ東京は、私が望んでいたオフ・ブロードウェイのような劇場で、いい芝居ができたと思っています。オーナーさんが最後に握手をしにきてくれたのはうれしかったな。
使えるお金は驚くほど少なくて(笑)、その中でアイデアを出して工夫しながらセットを作りました。「そういえばこうだったな」なんて昔を思い出しながら。だからこそ余計に気持ちが入りました。
小劇場は大小、形も様々で、どこも同じではありません。カゴの中に入れた演劇を持ち歩くのではなく、劇場のもつ素材を活かして、芝居も新たに生まれ変わらせたい。大阪公演もまた違う見え方になると思っています。
エンターテイメントの匂いがプンプンすると思いますよ。
―読者へのメッセージをお願いします。
大劇場中心の地球ゴージャスでは表現できない、小劇場の空間でしか創造できない芸術があることを知ってほしい。そして好きになってほしいと思います。
大劇場では感じることのできない1番の魅力は、演じる者とお客さんの両者にある緊張感。衣裳の質まで見える、唾を飲む音まで聞こえる距離感。演じる私たちは終始丸裸で、一分の隙もありません。それは私たちに限ったことではなく、東京公演を観たお客さんからは「緊張しました!」という声が多く寄せられました。きっと演劇の新たなジャンルとして楽しんでいただけると思います。これから日本全国の小劇場をまわること、果ては海外公演を夢見ています。
運命を駆け抜けたジャコメッティの人生と、この作品の1時間40分には相通ずるものがあります。いい芝居が生まれました。ぜひいらしてください。
text.田中 奈都子

◾INTRODUCTION
唯一無二の彫刻家アルベルト・ジャコメッティ。その鬼気迫る作品群は、まさに生き様そのものだった。そこには無償の愛で彼を支え続けた妻・アネット、そして哲学者・矢内原伊作との運命の出逢いがあった。
時は流れ、現代。ジャコメッティたちの魂に導かれるように生きる3人の男女。彼らもまた、他人を愛する喜び、自分を愛する難しさを抱えながら、自分だけの人生を模索していた。3人の必死な人生が、今、光り始めるー。
◾作品情報
PRIME VINsTAGE
『ジャコメッティのように』
大阪公演
日時:2026年8月13日(木)〜8月20日(木)〈全9回〉
会場:ABCホール
作・演出:岸谷五朗
出演:渡部豪太 純名里沙 岸谷五朗
小田直哉(大駱駝艦) 石井エリカ(大駱駝艦)
詳細はコチラ
https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/13398












