8月号
踊ることは高め合うこと
武藤天華さん & 竹中優花さん
貞松・浜田バレエ団
―ともにバレエダンサーであるご夫妻ですが、出会いは?
武藤 9年前に、創作バレエの作品で初めてペアで踊ったのが初めてです。それまでは話したこともありませんでした。その作品は、振付家がテーマと材料を出し、ダンサーみずからががどう踊りを創り上げていくかを考えさせるもので、約2か月間、ほぼ毎日2人で話し合いました。すぐにわかったことでしたが、2人の性格が真逆なんです(笑)。今も正反対な性格を持ちつつ、お互いを認め合うことで成り立っています。逆だからおもしろいんですけどね。「ああこんな意見もあるのか」と、認め合い、向上し合うことができます。
竹中 目指すところは一緒ですからね。家でもバレエの話をしますし、明日のリハーサルのビデオを一緒に見たりして研究した方が、次の日は踊りやすいんです。別々で考えているとやはり真逆の行動をとってしまう(笑)。公演前には、よく一緒にスパに行って、リラクゼーションマッサージなどを受けながら一緒に準備します。
武藤 結婚に際しては、障害や問題もあったけれど、何がしたかったかといえば、2人ともバレエがしたかった。一緒にバレエしていく上で、一緒に海外へ行っても夫婦なら安心するし、もし1人だったらケガや病気をしたりしたときに責任がとれない。それに、40、50歳のときに、自分の歴史を知っている人がとなりにいて、それが他人だったら悲しいと思いました。
竹中 結婚式は昨年挙げましたが、披露宴にはバレエ団のみんなが踊ってくれて、私たちも、出会いのきっかけになった、創作を踊りました。
―実生活でも、ああ性格が逆だなと思うことはありますか。
武藤 ひんぱんにあります(笑)。でも僕にないことができるから、そういう部分はまかせます。僕が絶対買わないようなバッグを買ってくるので、「まずは持ってみるわ」ということから始まったり(笑)。
竹中 やさしいから合わせてくれるのでしょう。よく、男女逆の性格だとも言われます(笑)。
武藤 彼女は料理も男らしいものを作ってくれます。山盛りのカレーや、お昼のお弁当には、すごく大きなおにぎりとか。僕はたくさん食べて、その分動くので、彼女のワイルドな盛り付けの食事はおいしかったです。ただ、結婚前はかなりやせていて体脂肪6%ほどだったのが、おいしく食べているうちに急に3キロも太ってしまって(笑)。
竹中 一年前の衣装が入らなくなってしまったんですよ(笑)。
―他のパートナーと踊ることも多いと思いますが、やはりお2人が一番ですか?
武藤 短期間で当日を迎えるようなステージなら、気の合う相手の方が、スムーズにいって良いですね。でも一ヶ月以上の練習期間をいただけるなら、ぶつかり合いながら作る方が、今までにない何かができます。バレエは、女性のきれいな形を見せる芸術であって、そのためにサポートするのが男性なのだと思います。ですから相手を気持ちからサポートしようと思わなければ、本当の形ではないと、僕は思っています。
竹中 6月公演の『コッペリア』では、マイム(踊りで表現する会話)が多い作品だったので、キャラクターづくりなどを話し合いながら、2人だけでスタジオでじっくり練習しました。
武藤 お客様も楽しんでくださったようなので、とても良かったです。コメディ作品ですし、僕らを取り巻く村人を演じたのが、いつも一緒にレッスンしているバレエ団のメンバーたちだったので、ポーランドの田舎のようなアットホームな雰囲気が出せたんじゃないでしょうか。
竹中 また、ふだんの私たちが完璧な2人じゃないので、バレエ団のみんながいつも見守ってくれている。この『コッペリア』の主役の2人が、まるで私たちそのもののようで(笑)。これからも2人でしかできない踊りや、いろいろな作品にチャレンジしてみたいと思います。
―最後に、師である貞松融先生、いかがですか。
貞松 昔は、恋愛にのめりこんで練習がおろそかになるので、団員同士の恋愛は御法度というバレエ団も多かったんです。でもこの武藤君、竹中さんのお二人は、出会ったことによってより競い合うようにして、成長してきました。すばらしいことです。認め合い、高め合って、夢を共有しているすてきなカップルです。