12月号
Power of music(音楽の力) 第24回
人工知能と音楽 ⑵ 全2回
『人間の発するエネルギー』
上松 明代
先月に引き続き、人工知能(以下AI)と音楽について。前回から今日までのたった一ヶ月の間にも、様々なAI関連ニュースを耳にした。進化は想像以上に速い。
人間が発するエネルギーを、人は無意識に感じている。留学時代、夏季講習を受けた時、こんな体験をした。講習の最終日、全員が成果を発表する演奏会が開かれる。講習会は様々な国から、様々な年齢の講習生が参加しているのだが、その中でフルートのロシア人女性が舞台に現れた瞬間「あ、この人、多分上手い。」と自信に満ち溢れた立ち振る舞いから感じた。実際に演奏を聴くと、正直なところ「さほどでもない・・。」という感想だった。が!?演奏後の態度、表情から凄まじいエネルギーを感じ、それに引き寄せられるかのように、観客の私たちは拍手喝采。演奏も素晴らしいものに思えた。これが俗に言う「オーラ」だろう。舞台人はテクニック以上に、オーラによって人を魅了する。要するに、ある程度までいくと芸術というものは、理屈だけでは語れない何かが存在する。提供する側もされる側にも当然の如く感情が介入し、互いにエネルギーを発している。完成されたものだけに心揺さぶられるわけではない。
そもそもクラシック音楽はデジタル音楽と違い、楽器と楽譜、そして演奏者がいれば成り立つ芸術だ。機材や電気を使い、音量やバランスを調整する必要はない。「機微」を読むスキルが重要である。それに何百年も昔から存在する数ある音楽が淘汰され、支持され残ったものがクラシック音楽なのだ。また雅楽に必要な、師匠から伝承される「間」や「空気を読む」ことは、AIには収集できない情報だろう。楽器を練習して上達する喜びや達成感、演奏会へ赴き舞台人の発するエネルギーやオーラを直接感じることに共通すること。それは【能動性】。受け身ではなく自ら行動し、肌で感じることの出来ること全て、この先どれだけAIが進化してもなくならないだろう。一番の理想は、人と協調し新たな音楽を開拓していくこと。初音ミクも良いけど、演奏家のオーラを感じて忘れていた五感を研ぎ澄まして欲しい。
上松明代(フルート奏者・作曲家)
武蔵野音楽大学卒業。ハンガリー国立リスト音楽院で2年間学ぶ。「時代を読み」「社会を知り」「テクノロジーを取り入れること」を念頭に、作曲・編曲を始め、ショートムービー制作も実験的に行う。六甲在住。趣味は読書、銭湯、現代アート。YouTubeにてオリジナル曲など公開中。オフィス Tempo.F 代表。
オフィシャルサイト http://akiyouematsu.com