12月号
ビスポークシューズ|イルクアドリフォリオ
フィレンツェ仕込みの技が
身体と大地の間に幸福を芽吹かせる
「クアドリフォリオ」とは「四つ葉のクローバー」という意だが、アルファロメオの最高グレードのシンボルでもある。イタリアの名車「ジュリアTZ」のような美しい靴を手がける職人を訪ねた。
靴の本場と言えばイタリアだろう。何せ国の形自体がブーツだ。中でもフィレンツェは世界屈指の伝統と技術を誇り、フェラガモの発祥の地でもある。
大学生の時にイタリアの靴に魅せられた久内さんは、神戸のものづくり職人大学でパターンやミシンなどの基礎を身につけ、その後単身フィレンツェへ。世界的靴職人のロベルト・ウゴリーニ氏の門を叩いた。手仕事を大切にする街の空気を吸い込みつつ、3年以上の星霜をかけ技と魂を吸収。名声に奢ることない師を心より敬愛し、しかとその薫陶を受けた。
再び神戸へ戻った久内さんはしばらく和田岬の共同工房で靴づくりに勤しんだ後、昨年夏に自らのブランド「イルクアドリフォリオ」を展開。手がけるのはすべてビスポークシューズ、つまり完全オーダーメイドで、フィット感は言うまでもないが、スタイルや素材なども自由にチョイスOK。アッパーはイタリアで仕入れたものが多く、牛革のほかバッファロー、クロコダイル、アザラシ、ゾウ、ウナギまで動物園の如く揃っている。
仕事は採寸からはじまり、まずは木型を製作する。足の形は左右で違うという。木型の仕上がりは靴の仕上がりに直結するので、薄皮を剥ぐような繊細さで足の曲線を再現していく。
次に取りかかるのはフィッティング用の靴。とは言え本革で製作し、そのまま履けそうなクオリティ。試着して履き心地を確かめ、必要なところは修正していく。「スリッポンのタイプはぴったり合わせないといけないので、2~3度この作業が必要なんですよ」と久内さんは言うが、そこまでするのかと呆れるほど実直な仕事ぶりだ。
そしてようやく商品作りに取りかかる。もちろんすべて手作業で、しかも細かい。繊細なステッチは息を呑むほどだ。しかし革はチクチク縫える代物ではない。ブスリと刺してギュギュッと引っ張る。指から悲鳴が聞こえそうな力仕事に、久内さんの親指は窪んでいる。
出来上がった靴は眩く、そしてどこか艶っぽい。「お洒落かどうかが第一。それがイタリア人なんですよ」と、その価値観を継承したデザインが「製造」の域から「創造」の域へと至らしめている。
「自分に合った靴を履くと、足が軽くなるんです」と久内さん。軽やかになれば歩きたくなるし、歩けば健康になる。格好良さは内面から滲みでるもので、健康はその原点だ。見栄えを飾るだけでない、真のお洒落まで育む一足。これで人生を歩んだら、きっと幸福が待っている。
イルクアドリフォリオ
神戸市加納町2-13-16
電話 078-587-2050
営業時間 9:30~19:30
休業日 不定休