6月号
建築構造 インサイト|Chapter 8 ワールド記念ホール
ワールド記念ホール
「どう建てるのか?」を追求する平尾工務店にとって、構造は大きなテーマです。おなじみの建物から世界的名建築までさまざまな建築物について、「構造」という視点を交えながら一緒に学んでいきましょう。
前回ご紹介した高松の香川県立体育館は軟弱地盤にアリーナを建てるという難題にひとつのアンサーを導き出した建築と言えますが、神戸にも似たような条件に建築史に残る世界初の斬新なアプローチで挑んだ建物があります。それは、1984年築のワールド記念ホールです。
ポートアイランドは埋立地ゆえ不同沈下が起きやすいため、荷重が大きな鉄筋コンクリート造ではなく、比較的軽いながらも構造が安定し、変形への対応にすぐれた鉄骨造が選択されました。その上でファッション都市らしくデザインにもこだわり、隣接するポートアイランドスポーツセンターの複雑で鋭い造形に対して単純で丸みをおびたおだやかなフォルムとしつつも、景観の調和を考え使用素材やディテールは両者で統一するという方針に。さらにライブ、スポーツ、展示会といった使用目的に合わせて規模や空間構成、空調や採光、音響などの諸条件を織り込みつつ、その全体像を描いていきました。
そしてその実現に向けて、未来都市ポートアイランドにふさわしく史上初の建築方法、パンタドーム構法が採用されました。パンタとはパンタグラフ=平行四辺形や菱形で収縮する機構からきています。電車の集電装置のパンタグラフをイメージするとわかりやすいですね。
ワールド記念ホールでは、屋根~壁と連続するドームの外殻を上部・中部・下部と3つに分割。それぞれのパーツは15~24mの大きめのブロックごと工場で作成して海上輸送(港町ならではですね)、現場での溶接作業を最小限にするという工夫もなされています。そして接地面・上部・中部・下部の間はヒンジ(蝶番)で接合し、下を工事用トラックが通行できる高さ6.5mに折りたたんだ状態で外殻を組み立て、屋根や内装を仕上げていきます。多くの作業をほぼ地上レベルで完結させたため効率的で施工精度も高く、コスト削減にも結びつきました。
そしてこんどは、出来上がったこの長さ108.8m、幅68mの外殻を、パンタグラフを開くように油圧ジャッキを用いたプッシュアップ装置で持ち上げていきます。装置は18基ありますが、これをコンピューターで制御する竹中工務店の「竹中移動架工法計測システム」を用い、状況をリアルタイムでモニタリングしながら持ち上げ速度を調整。約半月かけ、6回に分けてプッシュアップし、最後はヒンジ部分を固定しほぼ1か月で作業は完了しています。このパンタドーム構法を発案したのは、わが国を代表する構造設計家の一人、川口衞(まもる)です。
日本にネーミングライツのない時代に地元のアパレルメーカー、ワールドが提供した20億円を基に、これまでにない挑戦的な構造で建設されたワールド記念ホールは神戸の誇りであり、この街のチャレンジスピリッツの象徴でもあります。














