7月号
縁の下の力持ち 第1回 神戸大学医学部附属病院 検査部
神戸大学医学部附属病院 検査部 部長
三枝 淳さん
体の状態を検査するところから治療が始まる
日頃お目にかかる機会はないけれど、病院内には激務をこなしているスタッフがたくさんおられます。
そんな「縁の下の力持ち」をご紹介するシリーズ。第1回は検査部です。
―検査部の主なお仕事は?
中町 皆さんに身近なのは血液検査や尿検査などの検体検査でしょうか。血液中のコレステロールや肝炎ウイルス、白血球・赤血球数、それらに異常がないか、腫瘍マーカ―、甲状腺ホルモンなどを臨床検査技師が調べています。最近、注目されているのが耐性菌検査です。
―耐性菌とは?
中町 病原菌に対して薬を乱用すると、あちらも賢くなってそれに耐えようとどんどん変異していきます。例えば、昔からあるブドウ球菌がMRSAに変わると、従来の薬を投与しても効かなくなります。血液や尿、痰、傷口などから検体を採取し、一定の時間をかけて発育させて調べるのですが、菌の遺伝子検査で、さらに迅速に結果を出すことも可能になってきました。広がりを防ぎ、どういう薬が効くのかを検査するところまで、耐性菌対策の最前線にいるのが検査部です。
―その他にもいろいろな検査があるのですか。
中町 心電図やエコー検査、ヒトの遺伝子検査では先天性の変異で病気になる可能性を見つけたり、がんなどで変異した細胞から取り出す遺伝子を調べたりするのも検査部の仕事です。
―ヒトの遺伝子検査も進んでいるのですか。
三枝 かなり進んできています。昔は一つの病気に一つの治療法で対応していました。今は、どの部分の遺伝子に異常があるかを調べた上で、一人一人に合わせて投薬することなどが可能になってきました。現段階ではがんに対する研究が進んでいます。抗がん剤は非常に高価で副作用もありますから、事前に効果がないことが分かれば、その患者さんには使わずにすみます。
―先生はなぜ膠原病・リウマチを専門にされたのですか。検査部との関わりは?
三枝 未だに原因の分からない病気ですので、「なぜこんな病気が起こってしまうのだろう?」という興味がありました。この分野は臨床検査に助けられるところが非常に多く、検査結果に基づいて、診断と治療方針が決定されます。
―医療の世界は日進月歩といいますが、検査方法もどんどん進んでいるのですね。
三枝 毎年、何十種類もの新しい検査が開発されています。学会や研修会にも出席して勉強し、検査のしくみや意義を理解してから行わなくてはいけません。
―かなりの激務なのですね。
三枝 医師や看護師の激務はよく知られていますが、全く負けていません。一日約500人の外来患者さんに加え、入院患者さん、それぞれに20項目以上の検査を受け付けます。さらに、基幹病院や専門業者では対応できない特殊な検査を引き受けます。緊急時にそなえ、50数名のスタッフで、夜間も含め24時間で対応できる体制を取らなくてはいけません。
―外部からの検査依頼や外部での検査委託もあるのですね。
中町 患者さんの検査をする前に、機器や試薬がきちんと測定できる状態にあるかを、毎日試して確認しなくてはいけません。専門業者、たとえ基幹病院だとしても、特殊な検査1件について、最新の機器をそろえ、ランニングコストをかけることはできません。一部の検査は外部業者に委託します。また、そのような業者でも検査ができない場合、大学病院が検査を実施することもあります。
―日頃から心がけておられること、今後について。
中町 まず、正しい検査を迅速に。大学病院の先進的な医療の役に立てるような先進的な検査を積極的に取り入れていきたいと思っています。
三枝 診療、教育とともに研究も大学病院の使命です。新しい検査の開発につながる研究にも日々取り組み、神戸大学から新しい検査を生み出していきたいと思っています。
―縁の下の力持ちとしてやりがいを感じるときは?
中町 臨床現場では、まず検査で体の中の状態を調べてから、診察や治療方針を決定します。患者さんと直接お話しする機会はほとんどありませんが、ドクターから治療がうまくいって元気になられたと聞き、「良かった」と思えるときです。
―ご自身の健康にも気を付けて、今後も医療の現場を支えてください。本日はありがとうございました。