1月号
Power of music(音楽の力) 第25回
上松 明代
新年明けましておめでとうございます。2016年1月号から始まったこの連載も残すところ、あと3回となりました。近年の時代の流れは、昔と異なり激動です。昨年記した人工知能然り、私たちの生活に直結する社会保障制度、国際問題。取り上げだすとキリがない。そしてその殆どが不穏で不安な気持ちを抱かせる内容ばかり。人生100年時代と叫ばれる今、心配を抱えて生きていくのでは哀しい。私だってあと60年も生きなくてはいけない。考えただけでも気が遠くなる。
昨年、人生のターニングポイントと言われていた40歳を迎え、一つの疑問が私の頭から離れなくなった。「音楽の存在意義ってなんだろう」。
特に、クラシック音楽家というと、今の時代でさえ悲しいかな《お金持ちの趣味》と捉えられることが多い。しかし、これは当人にも原因があり、やり方が昔と変わらず古典的だからだ。最近は少しずつ活動内容に変化が見られるが、それでもその認識はなかなか払拭出来ない。悔しい。話は少し逸れるが、もしこの世から音楽が消えたら・・。想像して欲しい。それはそれは味気ないものになるだろう。テレビやラジオ、駅のホームでさえ音楽は流れている。私たちは音楽の中で生活している。実はこんなにも必要不可欠な音楽なのに、何故クラシック音楽家は日の目を見ることが少ないのだろう。悲観し、ただ傍観しているのは悔しいので日々思考している。
私の理想は、音楽により歓喜を与え、純粋に楽しみ、悲しみに寄り添う、時には問題提起を音楽で表現したい。一方通行や俯瞰な音楽ではダメだ。先が見えない不安な昨今だからこそ、一時的でも音楽に救われたと言って頂きたい。だから私は作曲し、映像を作る。音楽だけでは表現力が弱い。それに気づき【映像と音楽】という視覚からも「音」を楽しめるインスタレーションを制作している。ただ、これが答えではない。しかし、もしこれで一人でも多くの人に悦楽を感じて貰えたら。それがこの連載の表題通り、本当の「音楽の力」だろう。
上松明代(フルート奏者・作曲家)
武蔵野音楽大学卒業。ハンガリー国立リスト音楽院で2年間学ぶ。「時代を読み」「社会を知り」「テクノロジーを取り入れること」を念頭に、作曲・編曲を始め、ショートムービー制作も実験的に行う。六甲在住。趣味は読書、銭湯、現代アート。YouTubeにてオリジナル曲など公開中。オフィス Tempo.F 代表。
オフィシャルサイト http://akiyouematsu.com