2018年
1月号
「ミュージアムは、“学問の女神の住む館”という意味です」と伊藤さん。「ですからそこで展開される活動は、人々の知的好奇心を満足させるものでなくてはならない。ただ面白ければいいというわけではありません」

神戸鉄人伝 第97回 あさご芸術の森美術館 館長 伊藤 照哉(いとう てるや)さん

カテゴリ:絵画

剪画・文
とみさわかよの

あさご芸術の森美術館 館長
伊藤 照哉(いとう てるや)さん

 但馬地方の南端に位置するあさご芸術の森美術館。多々良木ダムの直下に野外彫刻展示場を備え、地域の芸術文化情報の発信基地となっています。「美術館は先人たちの記憶装置であり、地域の人たちの交流の場でもある。そして互いに向上していく教育装置でもあります」と語る館長・伊藤照哉さんは、神戸新聞社で美術事業を手掛けられて以来、ずっと美術展の企画に携わってこられました。ほぼ週3日、2時間かけて通勤する伊藤さんにお話をうかがいました。

―伊藤さんのご出身はどちらですか?
 小学校までは美方郡村岡町(現香美町)で過ごしました。母方の祖父母が新長田に居たので、大正筋で遊んだ記憶もあります。地元に高校が無かったもので、中学から姫路の私学へ進学し寮生活を送りました。少年時代はポケットに肥後守を入れてね、野山で一通りの遊びをやりましたよ。田舎の風景、土地柄、人情といったものを知って育ったことが、自分のベースになっていると思います。

―最初は美術と無縁のお仕事だったとか。
 神戸新聞社に入社してから10年間は、営業開発本部・広告局所属で、その後半5年間は東京支社勤務です。東京には全国の地方紙の人たちが集まっているので、同業者同士で親交を深めました。この時代の付き合いが、後の仕事に役立つことになります。

―美術に関わることになったのは?
 その頃文化事業局事業部には、後に姫路市立美術館の館長となる伊藤誠さんがおられました。伊藤さんは編集局で美術記者を務められた後、事業部で美術事業を担当しておられたのですが、私が「そろそろ神戸に戻りたいなあ…」とつぶやいたら、事業部へ引っ張ってくれたのです。美術のビの字も知らなかったのですが、伊藤さんにあちらこちらの館へ連れて行ってもらい、基礎から勉強しました。このヒゲは、その時「本社転勤祈願」で生やしたものです。

―どのような事業を手掛けられたのですか。
 「東山魁夷展」や「小磯良平展」などを企画し、初めて独りで海外作品を扱った「ダリと本展」では、バルセロナやニューヨークへ借用に行きましたよ。東京支社時代の人脈のおかげで、他府県の地方紙と共同開催することもできました。美術展を通じて知り合った作家や美術館関係者、研究者の方々とのつながりは今も宝物です。

―その後編集局へ異動されることに。
 仕事上、企画した展覧会を記事にしてもらうべく、編集局文化部に交渉する機会が多かったんですね。そうしたら「自分で書け」ということになって、45歳ぐらいで新米記者になりました。でも違和感は無く、今度は取材する立場になって、美術展を中心に文学、音楽、レジャーなどの記事を書いていました。

―新聞社退職後は?
 兵庫県学校厚生会アートホールで「バルビゾン派展」や「中島潔展」、「ガンダム展」などを開催しました。美術展は、自分で組み立てるからこそ面白い。その分、終了すると寂しいですね。新聞社でも学校厚生会でも、企画を買うだけでは味わえない様々な経験をさせてもらえたことに感謝しています。2013年に3月に学校厚生会を退職し、4月から現職となりました。

―美術館のお仕事、今後はどのようなことを?
 今年はフランスのバルビゾン村と朝来市の交流10周年目にあたるので、アーティスト滞在型のイベントなどを計画中。また、来年はあさご芸術の森美術館開館20周年ですので、こちらも企画を練っているところです。ぜひ朝来をお訪ねください!
(2017年11月5日取材)

 美術展の企画を手掛けるようになってから、学芸員資格を取得したという伊藤さん。「何でもやってやる」というポジティブ精神には敬服です。

「ミュージアムは、“学問の女神の住む館”という意味です」と伊藤さん。「ですからそこで展開される活動は、人々の知的好奇心を満足させるものでなくてはならない。ただ面白ければいいというわけではありません」

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

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