1月号
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日本におけるゴルフは、六甲山の頂からはじまった
自然あふれる六甲山は神戸のシンボルとなっている。
山頂からは神戸の街並みや大阪湾をゆったりと望むことができ、絶景のビュースポットとして知られている。
そしてもうひとつ、この六甲山の山頂が、日本における聖地となったものがある。
ゴルフである。
明治36年、135名の会員により、日本初のゴルフ倶楽部が誕生
明治元年(1868)の神戸港開港と共に、一人の青年が神戸に降り立った。A・H・グルーム氏。後に、日本で最古のゴルフ場をつくり、「六甲山の開祖」としても知られる人物である。ある日、貿易商として成功したグルーム氏は、六甲山に築いた別荘で、友人と雑談に興じていた。ゴルフの話に及んだとき、ふと誰かが「ここ(六甲山)でゴルフをしてみようじゃないか」と言った。ゴルフは未経験にもかかわらず、スポーツが好きだったグルーム氏は、「やってみようじゃないか」と答えた。
彼のパイオニア精神とチャレンジ精神によって、すぐさまゴルフ場に適した場所を探し出し、3年間の苦労の末、明治34年(1901)の秋、最初の4ホールズが作られた。このゴルフ場の噂は、瞬く間に広がり来場者が増加の一途をたどった。来場者が増えるにつれてコースの維持・管理に出費がかさみ、運営もグルーム氏一人の手に負えなくなり、また5つのホールを増設する計画などから、会員を募ることになった。明治36年(1903)、135名の会員により、神戸ゴルフ倶楽部が創設された。その自著の中には、松方幸次郎、川崎芳太郎、住友吉左衛門ら日本の財界を代表する人物も名を連ねた。ここに、国内初のゴルフ倶楽部が完成。
当時のグリーンはサンドグリーンといって、砂と土を固めた独特のもので、このグリーンはいってみればテニスコートのようなものであった。当時、六甲山では芝が育たないといわれ、このサンドグリーンが考えられた。現在のようにグラスグリーンとなるのは、昭和4年(1929)~昭和8年(1933)にかけてのことである。また、山上のゴルフ場ということもあり、コースによって40メートルの高低差が生じる難コースでもある。正確なショットができなければボールが転がり落ちてしまう。青木功プロに「アイアンの格好の練習になる」と言わしめたほどである。
六甲山の緑化に尽力したグルーム氏
近年六甲山は、砂防工事が行きとどき、豪雨の時にも安心であるが、当時はあちこちに禿げた箇所が多く風水害が多発した。グルーム氏は自ら六甲山を歩き回りながら、断崖など危険を感じた箇所には、自費で植樹にも着手した。この植樹活動は、日本人に六甲山の自然への関心を高める契機となり、行政をも動かし、禿山だった六甲山の緑化活動を推進させたとも言われている。100年の時をへて、いまや六甲山は避暑地として多くの別荘が立ち並ぶだけでなく、多くの登山愛好家で賑わう。グルーム氏が、当時も現在も「六甲市長」「六甲山の開祖」と言われている所以である。
時代を越えて受け継がれる創設当初の精神
シーズンともなれば、多くの会員がゴルフを楽しむ。プレーを終えてクラブハウスに戻ると、穏やかな表情で、ゴルフ談義に花を咲かせる。神戸ゴルフ倶楽部には、「人に迷惑をかけない。質素で、家族的な雰囲気を大切にする」という創設当初から築かれた伝統がある。ロッカーには鍵が設けられていない点からも会員間の信頼の高さを伺わせる。また、芝生に散布する農薬の量も、県内のゴルフ場では最低レベルである。
ゴルフプロデユーサーを務める戸張捷さんは、次のように語っている。「神戸・六甲が日本中のゴルファーから敬意をもって、ゴルフ発祥の地と言われるのは、110余年の発祥の史実だけではなく、今もこの街には情熱をもってゴルフと向かい合う人がたくさんおられ、素晴らしい文化と伝統が息づいているからなのです」。
六甲山を愛したグルーム氏の精神は時代が変っても、しっかり受け継がれている。
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神戸ゴルフ倶楽部の創設当初、135名の会員の中に7人の日本人がいた
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A.Hグルーム(1846-1918)の胸像。
威厳に満ちた表情を浮かべる
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神戸ゴルフ倶楽部でゴルフを楽しむグルーム
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開場式の日に使用されたボールは、マントルピースのオーナメントとして保管されている
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クラブハウスからは、神戸の街並み、大阪湾を見渡すことができる
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創設者グルームは自ら植樹にも着手し、六甲山の緑化につながった
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明治40年(1907)、神戸ゴルフ倶楽部のコース開き当日の写真