11月号
住環境に優れた街を走る甲陽線 地元で愛され90年
阪神間の鉄道では後発の阪急電鉄は大正9年(1920)、阪神電気鉄道や現在のJRよりさらに山手に神戸本線が開通しました。環境に恵まれたエリアながら当時はまだまだ人口も少なく「綺麗で早うて。ガラアキで眺めの素敵によい涼しい電車」などというキャッチフレーズもあったと聞いています。
夙川駅からさらに山手に向かう全長2.2キロメートルの甲陽線が開通したのが大正13年(1924)10月1日。当初は「甲陽園駅」一駅だったのですが、翌年に越木岩信号所が駅に昇格し「苦楽園口駅」として開設されました。これにより利便性が高まり、住宅地としての開発機運が一段と高まったといえます。住環境に優れた苦楽園界わいは別荘地として開発され、その名残もあり今でも阪神間有数の高級住宅街として知られています。私は甲陽線の乗務経験もありますが、お客様のマナーの良さ、自分たちの街を大切にする気質に、住む人の意識の高さを感じます。
平成10年(1998)にはワンマン運転を開始し、苦楽園口駅も今では、平日一日平均約1万3000人(2013年現在)のお客様が乗降する活気ある駅になりました。駅舎は桜の名所・夙川河川敷緑地に隣接し、満開の時期ともなれば大変な賑わいを見せます。阪急沿線にはいくつも桜の名所がありますが、「日本さくら名所100選」(㈶日本さくらの会による選定)に選ばれている夙川の桜は格別。昭和24年(1949)、当時の辰馬卯一郎市長の提唱で植樹された千本の桜の若木が成長したもので、南北2.8キロメートルにも及ぶ河川敷に松と桜と川が織りなす独特の景観美が多くの人を惹きつけています。
甲陽線は今年で開業90周年を迎えました。開業記念のイベントには地元の皆さんが駆けつけてくださり一緒にお祝いすることができました。100年、150年に向けて、鉄道の使命である安全・安心は変わることはありません。その上で、「住みたい」と思っていただける街づくりを行っていくことも使命の一つと考えています。そのためにも駅係員、運転士、車掌のサービス向上と、いくぶん歴史を感じさせる駅舎ではありますが(笑)、気持ち良くご利用いただける駅づくりに努めてまいります。
福留 洋明さん
阪急電鉄株式会社
神戸三宮駅 統括駅長