2021年
12月号

神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~⑳中編 川西龍三

カテゴリ:宝塚, 文化人, 西宮

川西龍三
「ゼロからの出発…夢をあきらめない川西龍三の意地」

 
ハンデをはね返せ!

経済小説界の重鎮、城山三郎の小説「零からの栄光」では、紫電改の開発・製造に心血を注いだ神戸市生まれの実業家、川西龍三の人生が、そして彼が兵庫・鳴尾村(現西宮市)に興し、社長として育てた川西航空機(現新明和工業)の技術者たちの歴史が綴られている。
1945年3月19日。四国最南端の足摺岬沖に集結していた米艦隊の空母から艦載機のグラマンF6Fヘルキャットなどが次々と発艦していった。目的は広島・呉軍港など西日本各所を空襲するためだ。一方、愛媛・松山基地の掩体壕(シェルター)に隠されていた日本海軍の最新鋭戦闘機「紫電改」は〝このとき〟を待っていた。松山上空でヘルキャットを迎え撃つため、基地の滑走路から紫電改が離陸していく。遂に〝日本の秘密兵器〟紫電改が、へルキャットの前でベールを脱ぐときが訪れたのだ…。
小説の冒頭、城山は愛媛の空中戦の様子を克明に描写し、「日本の未来にとっても」この日の戦いが、いかに重要であったかを記している。
紫電改を開発・製造した川西航空機の社長、川西龍三は1892年、兵庫県の川西財閥率いる実業家、川西清兵衛の次男として神戸市須磨区で生まれた。
1920年、清兵衛は兵庫区にあった川西倉庫の一棟を改良し、「川西機械製作所」を創業。飛行機部を新設し、龍三はその責任者に就任した。航空機開発に没頭する龍三は、さらに「理想の飛行機」を追い求め、1928年、飛行機部を独立し、川西航空機を設立する。
三菱重工や川崎重工、中島飛行機といった大手航空機メーカーに対抗するため、龍三は、工場に隣接する鳴尾競馬場を滑走路として整備し、試験飛行などを行う飛行場を創設。
〝兵庫の片田舎〟から世界の航空界へ戦いを挑むため、のろしを上げたのだ。
膨大な研究開発費がかかる航空産業への新興メーカーの参入は無謀と言われたが、龍三は航空エンジニアたちを集め、陣頭指揮を執り、経営の採算度外視で新型機開発にのめり込んでいく。
こんな龍三の飽くなき探求心から誕生した戦闘機が紫電改だった。

一矢報いた〝田舎からの挑戦〟

果たして冒頭の空中戦はどうなったのか?
この日、呉軍港など西日本各地に飛来した米艦載機は約300機に及んだ。
これを迎え撃つ約50機でなる紫電改の部隊は、約半数の150機の米艦載機と遭遇し、空中戦を繰り広げ、計64機を撃墜。これに対し、損傷した紫電改は9機だったという。
紫電改が登場する前。〝ゼロ戦キラー〟の異名を誇るヘルキャットに、日本の戦闘機は完膚なきまでに撃墜されていた。
それだけに、空母に帰還できたヘルキャットのパイロットたちは震えながら口々に上官へこう報告したという。
「日本はマツヤマにおそろしく精強な戦闘機部隊を隠していた…」と。
紫電改の姿を自分の目で確認するまで。米軍パイロットたちは、この日の日本本土空襲を〝楽勝〟と信じて疑わなかったという。2000馬力を誇るヘルキャットを前に、非力な日本の戦闘機は敵ではない。そう信じ、日本領空を悠々自適に飛び、空襲を浴びせるつもりでいたのだから。 
片や日本の軍幹部たちの間にも、劣勢の制空権を覆すことはもはや不可能ではないか…。そんな悲観ムードが漂っていたのだ。
この状況を一変させたのが、愛媛での空中戦だった。
この戦いの日。松山基地で飛行長の志賀淑雄少佐は感慨深げに、その戦果を見つめていた。
海軍パイロットの中で初めて紫電改を操縦したのが志賀だった。
「新型機が完成したらしい。いったい、どれほどの性能を持つのか?」
それを確かめるため、兵庫・鳴尾への出張を命じられた日を志賀は思い出していた。
「鳴尾村の百姓が戦闘機をつくったそうだ。一つ見てきてやるべえか」
出張の途上、志賀はこんな軽い気持ちでいたという。海軍パイロットとして、正直、まだ川西が開発した新型機に対し、志賀は大きな期待をもてなかった。無理のない話で、戦闘機開発で実績のない川西は、当時、軍関係者から相手にされていなかったのだから。
だが、龍三が競馬場をつぶして作ったという飛行場に到着し、志賀はこの考えを改めざるをえなかった。
龍三や設計者の菊原静男らが自信満々の表情で出迎える中、志賀は駐機場に佇む紫電改を見て、「自分の考えが間違っているかもしれない」。そう直観した。
徹底的に軽量化されたゼロ戦を軽戦闘機と例えるなら、重量感ある紫電改は重戦闘機。「これならグラマンと戦える」。初飛行で操縦桿を握った志賀は強く確信する。
なぜ、田舎の新興航空機メーカーが短期間でこれほど高性能の戦闘機を作ることができたのか?
志賀は「川西の開発者たちの眼の色が違う」ことを感じていた。純粋に飛行機を愛する者の眼。飛行機にとりつかれた男の眼…。
とくに社長の龍三は子供のように眼を輝かせ、毎日、飛行場へやって来ていたという。
=後編へ続く
(戸津井康之)

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