3月号
灘五郷の酒蔵がそれぞれ個性を生かし、 協力し合う
古くから「日本一の酒どころ」といわれる灘では、今津郷、西宮郷、魚崎郷、御影郷、西郷という阪神間5つのエリアに酒蔵が点在している。
この「灘五郷」のお酒の味と品質を守るため、中心となって長年努めてきた灘五郷酒造組合。
昨年6月、理事長に就任した白鶴酒造㈱社長の嘉納健二さんに、灘五郷のお酒のこと、これからの組合のことなどをお聞きした。
意見を出しやすい環境づくり
―とてもお若い理事長ですが、就任から半年余り、今のお気持ちは。
嘉納 前理事長の意向を踏まえ、理事の皆さんの推薦をいただき理事長をお引き受けすることになりました。就任したからには、蔵元27者を代表する立場として、皆さんが意見を出し合い、協力し合える環境づくりをしていかなくてはならないと責任を感じています。
―昨年8月に完成した新事務所ビルについては。
嘉納 建物自体がかなり古く、老朽化していました。また、組合の役割も変わってきました。以前は成長過程にある企業を支えるという役割があり、大きな部屋やホール、品質管理のための分析室なども設けていましたが、それらの機能を、現在は各企業で果たせるようになっています。新事務所ビルは、今の組合の役割にマッチしたものにしています。
―「灘酒研究会」も長い歴史がありますが、どういうものですか。
嘉納 灘五郷の酒蔵を中心に、醸造に関する情報と研究課題を共有して灘酒の品質を一定レベル以上に保とうとしているメンバーの集まりです。
地元から始め、国内外に日本酒の美味しさをPR
―日本酒離れなどと言われていますが、実感はお持ちですか。
嘉納 そういった実感はないですね。日本酒は男性社会だけのアルコール飲料というイメージでした。しかし和食人気や健康志向も相まって、女性、そして若い人たちにも、量を飲むのではなくワンランク上のお酒をお料理と一緒に楽しもうという風潮が広がり、それなりの出費もされているようです。まだまだ伸びしろはあると考えています。
―海外での需要も増えていますか。
嘉納 日本食ブームに追随しているという面もあるでしょうか…アメリカを始め、中国、台湾、タイ、シンガポール、ベトナム、マレーシアなど各国での需要が拡大しています。
―組合では、いろいろなイベントなども主催されていますね。
嘉納 まず地元でPRしてさらに日本酒の需要を高めたいと考えています。ワンコインで3種のお酒を味わう「灘の酒SUMMERガーデン」「灘五郷SAKEプラザ」、女性限定でお酒とお料理を楽しむ「レディースデー」などがその一例です。神戸ファッション協会主催「灘の酒と食を愉しむ会」では、神戸市・兵庫県の食品メーカーとコラボし、会場のポートピアホテルの料理長さんにもご協力いただき、日本酒に合うお料理とともに灘の酒を提供しています。観光客の皆さんにも、酒蔵まで足を運ぶことなく灘五郷の各酒蔵が造る個性あるお酒を知ってもらおうと、北野工房のまちにアンテナショップ「灘の酒蔵通り」を出店しました。また、全国に知られていた銘酒「灘の生一本」をブランドとして復活させようと、有志の蔵がそれぞれに特徴ある「灘の生一本」を造り、好評をいただいています。
―海外へ向けてのPRは。
嘉納 近年、神戸では数多くの学会やコンベンションなどが開催されています。パーティーやお食事での協賛依頼に可能な限り対応し、国内だけでなく海外からのお客様にも、日本酒を通じて神戸らしさをアピールしたいと考えています。一方、海外へも出かけ、シンガポールで開催の「Oishii JAPAN」に有志の酒蔵が灘五郷として出展してPRしています。
灘酒の美味しさと高い品質を守り続ける
―組合の一員でもある白鶴酒造さんですが、銀座の白鶴ビルディングで「白鶴銀座天空農園」というユニークな活動をされていますね。始めるに至った経緯は。
嘉納 古くから流通の拠点であった銀座は問屋街でもあり、灘から運ばれてきたお酒も集まり、白鶴酒造も東京での営業拠点を置いていました。今やおしゃれな街になった銀座で、商品を売るための拠点というだけでなく文化的な価値も付加したいと考えていました。そこで、神戸と灘の酒の魅力を発信する拠点にしようと、会議室でお酒や食、さらに能や歌舞伎などの日本文化に至るまで幅広いテーマを設定し、年40回程度セミナー「銀座スタイル」を開催しています。さらに酒米づくりも体験してもらおうと、屋上で酒樽に土を入れて栽培を始めたのがきっかけです。その後、会議室の横に研究用醸造の部屋を作って、酒づくり体験もできるようにしています。今では、屋上を改修して、毎年「白鶴錦」が一俵収穫できるまでになりました。
―白鶴錦とは。
嘉納 酒米として最も優れた品種といわれる山田錦の両親品種を再交配させて生まれた酒米です。2007年に「白鶴錦」として品種登録されました。米の中心にある心白(しんぱく)と呼ばれる酒米として有効な部分が大きくて、酒づくりに適したお米です。兵庫県多可郡、佐用郡などで徐々に栽培エリアを広げています。今のところ白鶴のお酒を全部まかなうまでの生産はできていませんが、一部商品の原料として使っています。
―これからの灘五郷酒造組合について。
嘉納 灘五郷酒造組合は長年にわたり灘の酒の品質を高め酒づくりの技術を蓄積してきました。この役割は今後もずっと変わることはありません。灘の酒とひとくくりにしてもメンバー企業はそれぞれに経営方針を持ち、それぞれの酒蔵のお酒にも個性があります。多様性を持った蔵の集まりということをPRするのもこれからの組合の形ではないかと思っています。
神戸市東灘区住吉南町4-5-5
阪神住吉下車徒歩約5分
[営]9時30分~16時30分
[休]年末年始・お盆
(ただし入館は16:00まで。団体は予約制。)
入館無料
TEL. 078-822-8907
http://www.hakutsuru.co.jp/
嘉納 健二さん
灘五郷酒造組合
理事長