2026
06.17

WEB版エンタメ情報|
こまつ座第158回公演 『花よりタンゴ』
俳優 高橋克実さん

カテゴリ:Web限定

こまつ座第158回公演『花よりタンゴ』(作・井上ひさし、演出・栗山民也)が、6月26日(金)〜28日(日)大阪 新歌舞伎座で上演される。
本作は、戦後の東京銀座にあるダンスホールを舞台にした音楽劇。価値観も立場も正義さえも一変した激動の時代、この町で生きる人々の姿を描いた物語だ。
作家・井上ひさしさんが現代におくるメッセージとは?
闇成金に身を置く高山金太郎役、高橋克実さんに聞いた。

今だから伝えたい
井上ひさしさんの言葉

―東京公演、山形公演を終えて、お客様の反応はいかがでしたか。

こまつ座さんには長年のファンの皆さんが多いのですが、今回、幅広い年齢層のお客様にご覧いただいていると感じています。「今、観てよかった」「これから先の世代に伝えたい作品だ」という感想が多く、僕も同じことを感じているのでとてもうれしいです。
井上ひさしさんの地元、山形の皆さんは、これまでの作品をほとんどすべて観ていらっしゃるのだと思いますが、そのせいか、とても前のめりで熱心でした。
山形のホールには、井上さんの寄贈で出来た文庫が併設されていて、美術書、小説、漫画…。別の場所にも図書館があるので、ものすごい数なのですが、ここから井上さんが言葉を紡いだのかと思うと感慨深い思いがありましたね。

―22年ぶりの上演。演出は前回と同じ、栗山民也さんですね。

井上さんはこの作品を一度封印したそうですが、それを栗山さんが「いい作品です。やりましょうよ」と話して、またこうして上演できるようになったとお聞きしました。お2人の思いの深い作品だと思います。
舞台は1947年。戦後の話というと遠い昔のように思えますが、この物語は、今の日本の状況と少し通じるところがあるかも、と僕は感じています。豊かで、こんなに発展して便利な世の中なのに、一抹の不安もあって、そこが当時とあまり変わっていないのかもしれない、と。
この時代を表現するには難しいところもあって、栗山さんが「今って “ 飢え ”をどう伝えたらいいんだろう」と話していました。一つの芋を奪い合うこともないわけで、役者は、自分たちが体験することのできない状況を想像しながら演じなくてはいけない。
という話をしながら、休憩時間にはみんなで美味しいどら焼きを食べていたんですけどね(笑)。
それでもまだ、僕は父親から直接戦争の話を聞いていましたが、実体験がない僕ら世代は、それをどう伝えたらいいんだろう。役者にとっては、想像しながらどう演じていくかがますます大事になってくると思います。

―高橋さんが演じる高山金太郎は、どんな人物ですか。

井上さんは、チェーホフが大好きだったんです。この芝居は井上さんがお好きだった戯曲『桜の園』がベースではないか、と栗山さんもおっしゃっていましたが、金太郎は『桜の園』でいうと元使用人で商人に成り上がったロパーヒンだと思いました。
男爵家の使用人だったのがクビになって、その後、闇成金の世界に。そしてお嬢様たちが経営するダンスホールを買い取ります。
衣裳は井上さんのト書きにあった通り、大きめの茶色のジャケットに帽子をかぶって、マッカーサーみたいなサングラス。僕はどこか「寅さん」の雰囲気も感じています。
ダンスホールには、それぞれ色々な事情を抱えた人たちが現れます。そこが井上さんの戯曲の面白いところなのですが、おそらくその時代に本当に起こった出来事を元に執筆されたのだと思います。

―闇成金で成り上がった高山金太郎に共感できる部分はありますか。

話の肝になるのですが、「忘れる」というところ。
絶対に忘れてはいけないこともあれば、忘れないとしんどいこともある。嫌な記憶がずっとあると辛くて生きていけない。だからある程度、人間の脳は忘れることで浄化されるのだそうです。
「忘れることは得意技」という台詞がありますが、当時は生きるために、忘れることで前に進まなければいけなかったのだと思います。
例えば闇米。当時、闇米を扱うことは犯罪ですが、それがないと生きることができない。現代の常識では考えられませんが、罪を犯していることを忘れないと生きてはいけなかったのかもしれません。
今の時代、これをリアルに考えるのは難しいことですが。

高橋克実
劇場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
撮影:福岡諒祠

―平和を願うからこそ、戦後を描いた作品が多いのですね。

井上さんの台詞には、直球で押し付けがましいものはありません。でも、芝居を観終わった後に、平和への願いが高まってくる。そこが素晴らしいところです。この芝居が、少しだけ周りを見渡すきっかけになったり、普段とは違う何かを感じて、平和への思いを巡らせていただけたら嬉しいですね。

―井上ひさしさんはどんな方でしたか。

どこか少年みたいなところがあって、ご自分の芝居の当日、チケット売り場の列に並ぶんです。黒いリュックを背負って、一般のお客様に紛れて。その話を聞いて「嘘だろ」と思って見に行ったら本当に並んでいました。満席になって入れなかった時は、本当に残念そうな顔をなさるんです。
あと、打ち上げは毎回決まった焼肉屋さんで、スタッフも全員、何十人も畳の部屋に集まって「ご苦労様でした!」ってやっていたんですが、みんながワーッと盛り上がっているのをニコニコご覧になっていました。
僕は、『きらめく星座』にある「人と人との出会いは、とてつもない奇跡なんだ」という台詞が、井上さんらしくて好きなんです。
渋谷の街を歩く。ものすごい人がいる。なのに知り合いはいない。「一生のうちに知り合える人はそう多くはない。人との出会いは奇跡なんだ」と井上さんはおっしゃっています。
井上さんの丸っこい字で書かれた「奇跡」が、またすごくいいんですよ。

―タンゴあり、生演奏ありの音楽劇ですね。

表題にある「タンゴ」ですが、タンゴといえば男女の愛、男女の情熱的な踊りが印象的ですよね。栗山さんが「タンゴを踊る男女のように世界が愛しあえたら、何も問題ないんだよ。平和なんだよ。タンゴにはそういう願いが込められているんだ」と話してくださいました。
そんな深い意味があったのか!そんな願いを込めているのか!と、とても驚きました。いろんなダンスがある中で、考え抜いて選んだのがタンゴだったんですね。
そういう風に、作家が選んだ言葉のもつ意味をとことん考える「演出家」という仕事の奥深さに改めて感じ入りました。

―そんな栗山民也さんの演出はいかがですか。

とにかく演劇学科の生徒になったかのような気分です。特に井上作品に関しては、研究家と言ってもいいほどで、一行でこんなことまで?というくらい深い解釈を示してくださいます。その一つ一つに納得しながら毎回唸っています(笑)。
今回の稽古では、ダメ出しをメモしたノートが2冊にもなりました。ノートを家で読み直す。アプローチを変えてまた稽古に行く。稽古では相手とのやり取り、距離感も含め、栗山さんが交通整理してくれる。他の人へのダメ出しも勉強になるからまたノートに書く。その繰り返しです。
栗山さんは「井上さんの脚本は楽譜だからね」とおっしゃいます。「だから書かれた句読点をよく読んで、なぜここを切っているのかを考えて」と。読んでいると井上さんが役になり切って台詞を書いているのがよくわかるんです。わかっても、すぐには求められているように言えない。やっとできるようになると、栗山さんからまた細かい課題をいただく。それがいつまでたっても続いていくんですよね。

―栗山さんとのお仕事で、印象に残っているエピソードを聞かせてください。

初めてご一緒したのは、27か28歳の頃。僕が初めて出会った、演出を生業にしているプロの演出家さんが栗山さんです。
僕は当時アングラ系の劇団に所属していたので、ジャージに鉢巻き、裸足。それがいつものスタイル。稽古初日もその格好で行きました。
靴紐を結ぶシーンがあって、もちろんエアで結びました。
稽古後、栗山さんが寄って来て「あのさ、なんで裸足なの?ト書きに『靴紐を結ぶ』ってあるんだから、せめて靴を履いてきてくれ。『ポケットから取り出す』ってあるんだからジャケットを着てきてくれ」。僕は「いや、これが自分のスタイルなんで」なんて返したので呆れていらしたと思います。よく考えたら確かに裸足はないなと、すぐに靴とジャケットを買いに行ったことを覚えています。

―最後に大阪公演に向けて、メッセージをお願いします。

ずっとどこかで音楽が鳴っていて、音楽がないところでは台詞が音楽のように響いている。そんな、美しく楽しい音楽劇です。井上さんの戯曲は初めて、という方にも最適だと思います。
初めてこまつ座公演を観た僕の友人は、集中して観ていたそうで、「時間があっという間だった」と言っていました。演じている僕は全然あっという間じゃないですけれど(笑)。
これは、今の時代だからこそ、観ていただきたい作品です。新歌舞伎座に是非いらしてください。

text.田中奈都子

公演情報

こまつ座第158回公演
『花よりタンゴ』

大阪公演
日時:2026年6月26日(金)~28日(日)
会場:新歌舞伎座

作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:高橋克実 朝海ひかる 南沢奈央 大原櫻子 平体まひろ
尾上寛之 枝元萌 朴勝哲 大田真喜乃

公演概要はコチラ
https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/20260626.html

高橋克実さんプロフィール
https://www.siscompany.com/management/artist.php?id=3

左から 高橋克実 朝海ひかる 平体まひろ 南沢奈央 大原櫻子
劇場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
撮影:福岡諒祠

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