2025年
8月号
(実寸タテ8㎝ × ヨコ19㎝)

連載エッセイ/喫茶店の書斎から 111 島田陽子さんの詩

カテゴリ:文化人

西宮のラジオ「さくらFM」に出演させてもらっている。奇数月の第四火曜日ということで二カ月に一度の出番だ。
その五月の時のこと、わたしの都合で一週間遅れの六月三日の出演となった。
テーマは島田陽子さん(1929~2011年)の詩と人生のこと。
女優の島田陽子さんではない。同姓同名の詩人である。
いつもは40分間とたっぷり時間があるので、そのつもりで準備していた。
ところが、振り替えてもらったコーナーは25分間とわたしは認識していた。実際はいつも通りの40分を用意してくださっていて、そのことは予め伝えて下さっていたのだがわたしは勘違い。話をコンパクトにまとめなければならないと考え、紹介する詩も初めに予定していたよりも減らして臨んだ。
番組は進み、そろそろ終わりかなと時計を見ながらおしゃべりしていたのだが、テーブルを挟んでお相手して下さっているパーソナリティー、久保直子さんの様子がまだまだといった感じ。わたしは平静を装いながら、え?何時までやるの?と頭の隅でうろたえていた。
やがて彼女もわたしが勘違いしていることに気づいた様子で、機転を利かせたフォローをして下さり、なんとか終了。冷や汗ものだった。予め構成したものとは違ったものになってしまって落ち込んでしまった。生放送の恐いところだ。
後で久保さんが「同録を聴きましたが分かりやすかったですよ。先輩から、『上手く行ってないと思う時の方が自然に流れている時がある』と教えられたことがあります」と慰めてくださった。自分でも録音を聞いてみたがやはり後半はまとまりが悪かった。が、済んだことは仕方ない。これも経験だ。
さて島田さんである。
わたしは何度かお会いしている。ちょっとしたエピソードがあり、笑顔でのツーショット写真もある。ここで彼女の人生を書くゆとりはないが少しだけ。
今、大阪で万国博覧会が開かれているが、彼女は前回の万国博のテーマ曲「世界の国からこんにちは」の作詞者。「こんにちはこんにちは」と三波春夫が歌ったあの歌の。ラジオではそのことにまつわるエピソードなども話したのだが、実は彼女の真骨頂は大阪弁で書かれた詩集だ。
『大阪あそびうた』(編集工房ノア刊)は朝日新聞の「天声人語」で全国に紹介され大きな話題になった。そしてわたしが大好きなのは、やはり大阪弁で書かれた詩集『うち知ってんねん』(教育出版)。ラジオではその中から何篇かを朗読紹介した。
そのうちの一篇。
 
  「おんなの子のマーチ」
  
きかいに つようて/げんきが ようて/  スピードずきな おんなの子やで/うちのゆめは パイロットや/ジャンボジェット機 うごかしたいねん/  
おんなの子かて やれるねん/  やったら なんでも やれるねん
しんぼう づようて/あいそが ようて/
しゃべるん すきな おんなの子やで/うちのゆめは 外交官や/せかいのひとと あくしゅをするねん/  おんなの子かて やれるねん/おかあさんになったかて やれるねん
ちからが つようて/どきょうが ようて/  スリルのすきな おんなの子やで/うちのゆめは レンジャーや/災害おきたら たすけにいくねん/  おんなの子かて やれるねん/そやけど せんそう いややねん/へいたいさんには ならへんねん

ほかにも何篇か朗読したのだが、先に書いたように時間がないと思っていたので、惜しみながら外したものがあった。その中から一篇。

 「いうてんか」

いうてんか/すきなら すきやと/いうてんか//いけずを せんと/いうてんか//いうてんか/いやなら いややと/いうてんか
きィ もたさんと/いうてんか//いうてんか/やんぺなら やんぺと/いうてんか/かってに やめんと/いうてんか

 島田さんの詩は、楽しいながらも風刺がピリッと効いていてわたしは好きだ。

(実寸タテ8㎝ × ヨコ19㎝)

六車明峰(むぐるま・めいほう)

一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・代表者。「半どんの会」会員。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。

今村欣史(いまむら・きんじ)

一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)、随筆集『湯気の向こうから』(私家版)ほか。

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • DISCOVER BMW. ようこそ、BMWの走りへ|Kobe BMW
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE
〈2025年8月号〉
ボックサン|神戸洋藝菓子[KOBECCO Selection]
ゴンチャロフ製菓|洋菓子[KOBECCO Selection インスタグラム]
KOBECCO お店訪問|Dick Bruna TABLE KOBE ディッ…
今夏、神戸ウォーターフロントが「ミッフィー」に染まる!|「KOBE PORT T…
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.57 女優佐久…
【特集】~長田神社&ご近所特集~知らなかった!こんな長田さん|-扉-
長田神社|参拝者をイケメンキャラがお出迎え! 金色に輝く神輿の4K画像も必見!|…
餅屋大西|冷たいアイスキャンデーにこころがホッと温まる!|~長田神社&ご近所特集…
加島の玉子焼|口の中にポンポンと放り込む手が止まらない人気スイーツ|~長田神社&…
長田のういろや|明治10年創業の長田名物 もっちり感は唯一無二!|~長田神社&ご…
お菜サコウ店|ユニーク! おかずの自販機 24H、家庭の味を 絶賛販売中|~長田…
ユリヤ|レアもんや一升瓶サイズも!その数なんと180種以上|~長田神社&ご近所特…
グリル小田屋|“普段着のご馳走”がコンセプト至福になれる!町の洋食屋さん|~長田…
特集「ひょうご国」|HYOGO産を世界に発信するPROJECT2025|-扉-
出店ブランド|HYOGO産を世界に発信するPROJECT2025|「ひょうご国」…
注目品をピックアップしてご紹介|産地コラボ 豊岡鞄(THYMEBUCKS)× 播…
注目品をピックアップしてご紹介|播州織ブランドが大集結!|「ひょうご国」
注目品をピックアップしてご紹介|万博でも大注目!くつした|「ひょうご国」
産地紹介|HYOGO産を世界に発信するPROJECT2025|「ひょうご国」
il Quadrifoglio(クアドリフォリオ)|ビスポークシューズ[KOBE…
御菓子司 常盤堂|和菓子[KOBECCO Selection]
トアロードデリカテッセン|デリカ[KOBECCO Selection]
マイスター大学堂|メガネ[KOBECCO Selection]
マキシン|帽子専門店[KOBECCO Selection]
亀井堂総本店|瓦せんべい[KOBECCO Selection]
ゴンチャロフ製菓|洋菓子[KOBECCO Selection]
永田良介商店|オーダーメイド家具[KOBECCO Selection]
アレックス|トータルビューティーサロン[KOBECCO Selection]
STUDIO KIICHI|革小物[KOBECCO Selection]
神戸御影メゾンデコール|オートクチュールインテリア[KOBECCO Select…
㊎柴田音吉洋服店|ハンドメイドビスポークテーラー[KOBECCO Selecti…
L’AVENUE|パティスリー[KOBECCO Selection]…
フラウコウベ|ジュエリー&アクセサリー[KOBECCO Selecti…
神戸靴|SPIGOLA(スピーゴラ)
美しきかな ひょうごの文化財 | 行き交う船舶の安全を見守り続けて154年 | …
神戸で始まって 神戸で終る 62
石井ふく子 白寿記念公演『かたき同志』
映画「蔵のある街」監督インタビュー
連載 教えて 多田先生! 素粒子物理学者の宇宙物理学教室|〜第26回〜
6/27(金) 神戸北野ノスタにお土産ショップ『NOSTA SWEETS』がオー…
マキシン|帽子専門店[KOBECCO Selection インスタグラム]
出待ちしてもいいですか?|第8回|温故知新の心で型を破る! 夙川から世界に向けて…
神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~ (64)後編 阿久悠
近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトを学ぶ|Chapter 15(最終回) …
仕事でも遊びでも「この人と関われば絶対に面白い」と思える仲間が多くいる“ 圧倒的…
ひょうご神戸まちかど学だより|「防災の講演と応急処置実演の集い」|東灘区の宮地病…
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第167回
出会いと学びの旅から Vol.20
神大病院の魅力はココだ!Vol.45 神戸大学医学部附属病院 病理診断科 伊藤 …
神戸のカクシボタン 第140回 地元にまつわる妖怪・UMA・生物の謎を探る!!『…
今月の映画
連載エッセイ/喫茶店の書斎から 111 島田陽子さんの詩
有馬温泉歴史人物帖 ~其の弐拾九~ 田中 邦衛(たなか くにえ) 1932~20…
ベトナム元気X躍動するアジア 第20回|プノンペンの「ボレイ」開発―九月に新空港…