2月号

神戸の新たな観光資源を発掘 「安藤忠雄氏」監修による神戸建築アートツアー|市内に点在する〝ANDO建築〟を巡る|ART TOUR OF KOBE’S ARCHITECTURE
神戸の新たな観光資源を発掘するモニターツアーが12月6日に実施された。建築家・安藤忠雄氏が市内に点在する建築作品の中から選んだ5施設をバスで巡るツアー。日頃から安藤氏に知恵と力をお借りしている『神戸っ子』も微力ながら企画運営に協力。斬新な手法も取り入れたオリジナルツアーで参加者は充実した一日を過ごした。
「こども本の森 神戸」から、老舗洋食店「伊藤グリル」へ
JR三ノ宮駅前に集合してバスに乗り込み向かったのは、震災の記憶を留める東遊園地内の「こども本の森 神戸」。安藤氏が設計・建設して2021年に神戸市に寄贈された。この日の案内役は、学生の頃から安藤氏と親交があるという武庫川女子大学教授の三好庸隆先生。入館前にこの施設の概要を説明。「安藤さんは『子どもを大切に』『子どもの頃の読書は大事』といつも話しておられます。図書館を寄附するなど安藤さんだからできることですね」。子どもの施設なので今まで入る機会はなかったという三好先生も「平面図で見るとシンプルですが内部はどうなっているのか?楽しみです」。参加者は大きな空間を散策し、気になる本を手に取り、安藤建築の感触を手で確かめ、「青いりんご」で記念撮影をするなど思い思いの時間を過ごした。
ランチタイムは神戸元町の老舗洋食店「伊藤グリル」へ。大正12年の創業時から受け継がれてきた「ビーフシチュー」を堪能した。
「兵庫県立美術館」を船上から鑑賞。下船後は館内を見学
元町を後にしてバスで中突堤中央ターミナルへ。クルーズ船「boh boh KOBE」スタッフの歓迎を受け、早速、乗船。晴天に恵まれたこの日、紅葉に染まる六甲の山並みと神戸のまちの景色に見入っていると、視界に入ってきたのは「兵庫県立美術館」。「再生」をコンセプトに設計され2001年に竣工、翌年オープンした。「隣の『なぎさ公園』を手掛けた安藤さんの美術館建設プランがコンペで採用され、一体化した景観が可能になりました。ドローン撮影による海からの映像はご覧になられたことはあると思いますが、実際に見るのは貴重な体験です」と三好先生。震災後に被災者向けの住宅が整備されたHAT神戸のことや100年前にはげ山だった六甲山が植林によってここまで緑があふれる山になった歴史など、お話を聞きながら約30分間のクルーズを楽しみ、寄港した。
続いて、海から見た県立美術館を訪問。「青いりんご」や「Ando Gallery」など、各々目的のスポットへ向かう。中でも、ギャラリーに展示された安藤建築の模型やスケッチ、写真などに注目が集まり、時間をかけ熱心に見学する様子がうかがえた。
直近の作品「恵比寿工匠」から初期の「ローズガーデン」「北野アレイ」へ
次に向かったのは2024年8月に完成したばかりの安藤建築「恵比寿工匠」。代表取締役の中田義成さんが会社立ち上げに際し「手元にある建築関係の書籍は貴重な歴史の資料。保管する場所をつくりたい。是非お願いします!」と安藤氏に社屋設計を依頼。約5メートル四方の敷地に立った建物内に希望した要素のすべてが見事に収まった。工事のプロである中田さんが目の当たりにした安藤建築のすごさを、自身が制作した模型を使って解説した。
最後は、安藤建築初期の作品を目指して北野坂へ。「ローズガーデン」は1977年に完成した商業ビル。切妻屋根と煉瓦の壁を取り入れて異人館をイメージしつつ、安藤建築を象徴するコンクリート打ちっぱなしの壁が組み合わされている。2つの建物をつなぐ半屋外の通路を巡り、階段を上ったり下りたり、自然光が差し込む開放的な空間を体験した。
「北野アレイ」ギャラリースペースでは、弊誌2019年1月号から12月号で連載した「兵庫県のANDO建築探訪」パネル展を開催。髙橋直人編集長が写真掲載と原稿執筆を依頼したときのエピソードを紹介。デッサン画をサラサラと描きながら話を聞いていた安藤氏から「写真だけではつまらん」と自筆のイラスト掲載を提案された。「その後すぐ、12回掲載分がまとめて届いたときには驚きました。これが安藤先生の仕事のスタンスなんですね」
北野坂を散策がてら「神戸北野ノスタ」へ。宝塚市から参加した女性は「レトロな建物を見るのが好きで参加しました。久しぶりに神戸のまち歩きをして『ステキだなあ』と改めて思いました」、建築関係の仕事をリタイアした市内在住の女性は「安藤建築を幾つか見て回っていますが、今日は解説付きなので初めて聞くエピソードもあり、楽しい時間を過ごしました」。プレゼントされた安藤氏自筆のイラストを添えた『TADAO ANDO HYOGO』を手に、神戸のまちと安藤建築への思いを胸にツアーは解散となった。

こども本の森 神戸


クルーズ船から兵庫県立美術館を見学


ランチは伊藤グリルへ


ガイドを務めた三好庸隆先生

Ando Gallery



恵比寿工匠




ローズガーデン 北野アレイ


