1月号
新春対談 未来をデザイン ~大きな可能性を信じて~
高士 薫さん
株式会社神戸新聞社 代表取締役社長
村上 豪英さん
一般社団法人神戸青年会議所・理事長
株式会社村上工務店 取締役副社長
―神戸JCが打ち出した「大きな可能性を信じて、未来をデザインしよう」という提案について、高士社長の先輩としての感想をお聞かせください。
高士 まさに「デザイン」という言葉の本来の使い方ですね。「未来を設計する」。「目標」や「夢」「志」を掲げて、それを実現するステップを具体的に構想し、表現していく。まことにJCにふさわしい方向性を打ち出されたと思います。これから問われるのは、その中身ですね。
―さて問われる中身ですが、具体的にどのように考えていますか。
村上 デザインするということが、意外とできていないと感じます。例えば、朝起きて、服を着替え、ご飯を食べて…という日々で、「自分が意図することをやっているのか?」と考えると、体が動くままに行動しているだけ。そういう日常から一歩離れて、「どうなりたいのか」「どういう自分をつくりたいのか」を明確に意識して動いてみようと提案しています。神戸の街への貢献に関しては、まず先輩方が掲げた「デザイン都市」という旗印を私たちとしてもしっかりと理解した上で「デザイン都市・神戸」を創っていくためのソフトウェアを構築したいと考えています。
―新年を迎え、神戸新聞社としてはどういう方向に進んでいこうと考えていますか。
高士 2010年2月の社長就任時、いささか刺激がきつかったのですが、社内向けに「脱マス! マスコミであることをやめなさい」と訴えました。ミドルメディアの複合体、つまり「情報の総合デパートではなく、情報の複合専門店」を目指そう、ということです。強い分野を持ち、磨きをかけていこうということなのです。これはデジタルの展開にもつながり、2011年の年頭の挨拶では「情報事業の再構築」と題して、「紙とデジタルを使った情報事業の再構築に踏み出しましょう」と話しました。磨きあげた情報ジャンルが、デジタル情報の複合専門店の一つひとつになっていくイメージです。そして2012年は、情報事業再構築を形にする年です。今秋、遅くとも2013年初頭には神戸新聞電子版を発刊したいと考えています。紙とデジタルを併用する仕掛けに磨きをかけながら準備を進めています。
地域への貢献としては、神戸新聞グループも大きな役割を担わせていただいた第1回神戸マラソンに続き、今年も更に智恵をしぼり、第2回神戸マラソンをはじめ、地域に活力と元気を生み出していく仕掛けづくりに積極的に参加していきたいと考えています。人と人、人と地域がつながるコミュニティの強さを回復させながら、新しい活力の掘り起こしに全社挙げて力を注いでいきます。
―神戸JC理事長所信表明の「産業の集積ではなく、生活の集積こそがまちの魅力となる」という言葉が印象的でしたが、詳しく教えていただけますか。
村上 参考にしているのがアメリカ・オレゴン州ポートランドという街です。大企業が立地し、更に全米のクリエイティブな人たちが選んで住む街です。チェーン店ではないレストランやショップ、オフィスなどが生まれ、それぞれが相互に作用しながら新たな産業を創出しています。世界中全ての街は大企業を誘致したいと考えていますが、今の時代そんなことは場外ホームランを打つようなもの。日々そればかりを追い求めるのではなく、クリエイティブな人にいかにしてこの街を選んでもらうかを考え、その人たちの中から生まれるビジネスに期待するほうが時代に合っています。
神戸はそのアドバンテージが非常に高く、住みやすさ、暮らしやすさ、利便性は既に備わっています。そこで、クリエイティブな人の目から見て、文化的な暮らしができるか、ある程度の刺激を得られるかなどという基準でも選んでいただけるようなイベントをJCが仕掛けていこうと調べていくうちに、神戸には文化的な催しがたくさんあることが分かりました。アドバンテージが高いんですね。ところがお互いに連携していないために気づいていないという面があり、分散していて中心がないようです。そこで、様々な地域での取り組みを皆さんに総合的に分かってもらえるような取り組みを進めようとしています。
―地域の新聞社としてはどうですか。
高士 最も重要なのは、神戸に住み暮らすということの価値を自らが再発見することによって、外部の人たちからも魅力を認識していただける仕掛けを作っていくこと。すでにあるが、自分たちがその価値に気づいていないものを掘り起こしましょうということです。
神戸新聞では「地域の才能で地域を創る」という意味で、「地才地創(ちさいちそう)」と銘打ち、数年前、県内全域でシンポジウムを開きました。今も関連する取り組みを続けています。地元をもう一度耕そうという趣旨では、JCさんと同じですね。産業が大変厳しい状況下で活力を生み出すには、外から引っ張ってくることより、むしろ内側の力を引き出す努力が時代的要請だといえるでしょう。
―今年11月から供用予定のスパコン「京」への期待は?
高士 医療産業都市は、すでに200以上の企業を神戸に引き寄せましたが、「京」も、神戸大学や東京大学をはじめ学術機関をポートアイランドに引き寄せています。理研の計算科学研究機構にはすでに数十人の研究者がいますし、医療関係でもノーベル賞級の研究者がポーアイに多くおられます。日本と世界の研究者が「京」を使い、大きな成果をあげていくと期待できるでしょう。問題は、この素晴らしい状況と神戸の街とをつなぐことがうまくなされていないことです。クリエイティブな人材は神戸の宝物です。どう活用していくかについて、知恵をしぼっていかなくてはいけませんね。
―神戸新聞も科学分野に力を入れているのですか。
高士 特に医療には力を入れて、「兵庫の医療」という大型連載を続けています。県内で受けられる医療のトップレベルのものを、患者の立場から疾病別に紹介しています。しかし、同じようにスプリング8やスパコン京などにも広げていくとなると、非常に扱いにくい。理解できるように紹介できるだろうか…(笑)。
村上 医療産業都市から直接仕事の発注があるという経済的効果以上に、医療産業に従事しておられる人たちが、この街にどう関わっていくのかに注目しています。産業的な広がりだけでなく、神戸に住む人たちと出会い、相互作用することができないかと考えています。
―さて、本業の村上工務店ですが、何か新たな試みはされていますか。
村上 神戸の皆さんの生活を支えるファクターとして「建てる」ということは大きなものですが、これからは「いかに維持して住みやすくしていくか」が重要です。工務店の仕事は新築からリフォームやメンテナンスに移ってきています。何十年も前から分かっているのに、その業態転換に成功した企業はほとんどないと言っていいでしょう。私たちは、そこを目指しています。「村上工務店はアフターサービスが得意なんだ」と皆さんに分かっていただけるように一歩、一歩変えていこうとしています。
―エコや環境への配慮は?
村上 私は大学で生態学を勉強していましたので、まちと自然とのつながりには関心を持っています。省エネの建物と併せて、ちょっと違う観点で「建物の中に緑を」と提案しています。壁面緑化などです。大切なことは、CO2削減などという言葉が上滑りしないように、住んでいる方が持つ自然を大切にする心を養うことですから、生活の中に自然を取り入れたいと思っています。
―神戸の暮らしや観光に提案はありますか。
高士 兵庫県は日本で唯一、大学生のうち女性のほうが男性より多い都道府県なんです。神戸市も政令指定都市の中で最も女性の大学生比率が高い。リンクして女性研究者の比率も非常に高い。ここに神戸の街の次のステップに向けてのヒントがあるのではないでしょうか。生活関連産業が大切な時代です。女性パワーを生かせば、他の街にはない強みが生まれてくるはずです。
村上 神戸には皆さんがよくご存知の生活デザインにかかわる会社が数え切れないほどあります。それに続く世代が育てば神戸の未来は築けるはずですが、残念ながら育ちつつあるようにはみえません。起業するにあたり、神戸を選びたいと思える街づくりに貢献したいと思っています。
高士 30年前の神戸にはデザインする白紙の場所がありました。今はその場所が全部埋まってしまい、デザイン構想力が育ちません。街として成熟し、飽和状態にあるのですから、ある意味仕方のないことです。都市圏としても狭い神戸ですから、規模や活気だけを追い求めてもダメです。ちょっと人通りが少なくても、心地よいと思える質の高い街を目指すことですね。
村上 そうですね。イベントを考えてみても、人があふれかえる活気を想像しがちですが、神戸が目指すところは少し違うように思います。本質を求めるには、余計な情報にさらされない、ある程度の静けさが必要です。日本が中国のような活気ではなく本質を追い求めるように、神戸は渋谷や心斎橋の喧騒ではなく、本質を追い求めるべきなのでしょうね。
―神戸の街が目指すところが一致したところで、さて、お二人が今年目指すところは?
高士 私は還暦を迎え、おじいちゃんにもなり、老化の要素がそろいました。「老け込まないように」でしょうか(笑)。
村上 大きな目標をたくさん掲げましたので、息を切らさず走り続けることでしょうか。そして11月には是非、第2回神戸マラソンも走りたいですね。
―ありがとうございました。
インタビュー 本誌・森岡一孝
高士薫(たかし かおる)
株式会社神戸新聞社 代表取締役社長
1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。1975年神戸新聞社入社、社会部などの記者を経て社会部長、編集局長などを歴任。2008年より取締役、編集・論説担当、広告担当を経て、2010年2月より現職。神戸青年会議所の顧問も務める。
村上豪英(むらかみ たけひで)
一般社団法人 神戸青年会議所 2012年度 第54代理事長
株式会社村上工務店 取締役副社長
小さい頃から自然に興味をもち、大学院で生態学を学んだ後、シンクタンクに勤務。現在は株式会社村上工務店の取締役副社長。2002年に神戸青年会議所に入会した後、日本青年会議所の議長などを経て現職。1972年生まれの39歳。趣味はフライフィッシングとサッカー、トレッキングなど。