7月号
対談/個性を育む私立中学の教育 第2回 淳心学院中学校
日能研関西 代表 小松原 健裕
×
淳心学院中学校・高等学校
副校長 藤村 雄二
広報部部長 宮崎 裕介
原点に戻り、私学としての義務を果たすべく改革を進める
名門私立中学校の多くの塾生を合格させている日能研関西代表の小松原健裕さんと関西名門校トップとの対談第2弾。第2回目は、淳心学院中学校・高等学校副校長の藤村雄二さん、広報部部長の宮崎裕介さんにご登場いただきました。
伝統をふまえ、淳心の教育をさらに進化させる
小松原 淳心学院さんは日能研姫路校から多くの塾生が進学していますので、定期的にお邪魔しています。世界遺産の姫路城がすぐそばにある素晴らしい環境ですね。なぜこの地で開校したのでしょうか。
藤村 ベルギー発祥のカトリック宣教会「淳心会」が1954年に創立したのが淳心学院です。姫路に開校した経緯については定かではありませんが、この土地を選ぶにあたっては、現在の岩見利勝市長のお父様にご尽力いただいたと聞いています。
小松原 20〜30年前、姫路で最も優秀な子は淳心学院に行くといわれていました。その後、低迷の時代を経て、また今、志願者も増えつつあります。出口、つまり大学進学という目的に向かって大きな改革に取り組んでおられますね。
藤村 本校設立の目的の一つに「社会に知的に貢献する」というものがあります。社会的にも、本校を選んで進学した生徒やその保護者に対しても責任を果たさなくてはならない。そういう意味で、「今の淳心学院はどうなのか?」という疑問がありました。そこで原点回帰が必要ではないかと考えました。
小松原 日能研からは毎年約50名の生徒が進学していますので、改革の成果が楽しみです。プレッシャーをかけるようですが(笑)。
宮崎 2014年から始めた改革ですから、結果が出てくるのはまだまだこれからです。本校は改革前から中高一貫教育を実施し、2年ごとを区切りとして生徒一人、一人を6カ年かけて見守ってきました。改革では、東大・京大・医学部進学を目指すヴェリタス1クラスと難関国公立大進学を目指すカリタス2クラスというコース制を導入し、よりきめ細やかな教育で生徒、保護者の希望を叶えようとしています。学習面ではいい意味での緊張感が出てきたようです。和気あいあいとした生徒の生活面は変わりませんが…(笑)。
小松原 カトリックの学校というと厳しいイメージもありますが、淳心学院は自由な雰囲気がありますね。
藤村 地元ではないのですが、実は私もカトリックの厳しい男子校出身です。淳心学院に来た時「全然違うな」と思いました(笑)。設立当初から生徒一人、一人を紳士として扱おうという考え方があり、例えば丸坊主全盛の時代から長髪を許し、詰襟ではなくネクタイを締める制服でした。ただ60年の歩みの中で、自由や自主性という考え方をはき違え、バランスを崩し始めたというのも事実です。「淳心学院に通うのは楽しい」。もちろん大切なことですが、「それだけでいいのか?」。これについても原点回帰が必要だと考えています。
新しい時代に求められる力を養う教育も取り入れる
小松原 広報に関してもエリアを広げていますね。神戸・阪神間では存在は知っていても、どんな学校かということは知られていませんでした。教育内容を説明すると、興味をもっていただいています。
宮崎 神戸・阪神間の保護者の方とお話しする機会をもつようになり、進学率だけを見るのではなく、どういう学校なのかということに興味をもっていただけるようになったと感じています。
小松原 勉強面以外でもどんどん新しいことを始めておられますね。
宮崎 国際人としての感覚を育てるという点では、以前から海外研修は取り入れていました。身近なところでもできることがあります。例えば、京都で観光客の方と話をしたり、ガイド役をしたり、質問をぶつけてみたり…、小規模な学校ですからどんどん外へ出ていき、初めて会う人たちとコミュニケーションをとる機会を作ることも必要です。タブレットを導入してのオンラインスピーキングやプログラミングキャンプなども始め、新しい時代が求めている力を培う教育も積極的に取り入れようとしています。
小松原 中学入学時、男の子は幼いですから、いろいろなことに挑戦すれば個性や特技を伸ばせると思います。複雑に絡み合う個性を伸ばしながら、最後にはちゃんと仕上げていく。男子校や女子校だからできることの一つですね。ど う指導されているのでしょうか。
藤村 本校の場合は、生徒がもつ興味や関心を尊重するという基本は創立以来変わっていません。一つのことに興味をもって徹底的に研究している生徒もいて、それが許されています。正直、私たちから見たら「どこがおもしろいのかな?」と思うこともあるのですが(笑)。そういった生徒たちの居場所になり、得意分野として伸ばしてあげることができる学校なんですね。しかし律するのはなかなか大変です。生徒たちの意思を尊重し自律を促しながら、どうバランスを取って教育をしていくか、ここ数年取り組んでいることです。
2020年の大学入試改革を先取りして
小松原 淳心学院さんをはじめ、私立中学の入試は知識のみ、答えのみを問う問題から、問題文をじっくり読んで考える問題、記述を要求する問題に移行してきました。2020年の大学入試改革を先取りしていたと言えるでしょうね。ですから私学に進学した生徒たちは大学入試が変わっても十分に対応できると安心しています。
宮崎 思考の道筋を示す必要がある問題が多いのが本校入試の特徴だと思います。答えだけでなく、そこに至るプロセスを見ると、その生徒の考え方や個性が見えてきます。
藤村 大学入試改革に対しては各教科の先生が試験的に、生徒が主体的に学ぶ授業に取り組んでいます。学校としては、外部から大学教授などの講師に来ていただき該当学年を対象に週2時間の講演をしていただいています。自分でテーマを決め、しっかり調べ、しっかり考えて発表する教科「探究」の時間です。入試対策という意味に限らず、今までとは違う教育としてどういった成果を上げていくのかを楽しみにしているところです。
小松原 先生方の熱意がものすごく伝わってきます。日能研としてもぜひ応援したいと思っています。
藤村 改革を進めるにあたっては日能研さんには客観的な立場でアドバイスを頂いています。今後ともよろしくお願いいたします。
藤村 雄二(ふじむら ゆうじ) (写真右)
淳心学院中学校・高等学校 副校長
1968年、長崎県に生まれ、幼児洗礼を受ける。サレジオ学院中高等学校卒業。上智大学神学部に入学し司祭課程にて学ぶ。1994年より淳心学院中高等学校に社会科(公民)・宗教科の教諭として就職。2013年に発足した改革委員会の代表として学校改革に取り組む。2015年から宗教部長として学校運営に携わり、2017年より同校副校長に就任
宮崎 裕介(みやざき ゆうすけ) (写真左)
広報部部長
1979年、東京都生まれ。静岡聖光学院中高等学校卒業。横浜市立大学国際文化学部卒業。PHP研究所に入社。教員に転職後、2006年より淳心学院中高等学校に国語教諭として就職。改革委員会の立ち上げに参加し、現在に至るまで改革委員。広報室の改組に伴い、2016年より広報部長に就任。担任として改革1期生を中学1年時から現在(高校2年)まで指導
小松原 健裕(こまつばら たけひろ)
株式会社 日能研関西 代表
甲陽学院高校、慶応義塾大学と中高大を私学で学ぶ。同大学法学部卒業後、日本IBMに入社。主に金融機関システムの提案に携わる。事業承継のため日能研関西に入社。授業担当科目は算数。京都本部長、副代表を経て、代表に就任。日能研関西本部業務全般に加え、日能研グループとの連携、私学教育の振興にも携わる