10月号
空間の魅力が沸き立つ住まい|平尾工務店 オーガニックハウス
「有機的建築」の思想を正統に継承
一流住宅メーカーのモデルハウスが建ち並ぶ、東灘区の総合住宅展示場「ABCハウジング・ハウジングコレクション神戸東」。その中でもひときわ重厚で、趣と気品を兼ね備えた家がある。
水平ラインのフォルム。重厚なレンガ積みの壁。幾何学的な装飾のドア。平尾工務店が手がけたオーガニックハウス『ラッタンバリー』のモデルハウスは、日本にも旧帝国ホテル本館、旧山邑邸、自由学園明日館など国内にも作品を残し、近代建築の三大巨匠の一人に数えられる「空間の魔術師」、フランク・ロイド・ライトが提唱した「有機的建築」の思想を正統に継承している。
リアルな生活感を実感
やや天井の低いエントランスからリビングへ入ると、空間が上下左右に広がりを見せ、開放的で居心地も良い。この空間の抑揚はライトらしい演出だ。ここに置かれているソファーの仕立てが以前と違い、外光が注ぐ明るい空間にマッチしている。腰掛けると、自然と視線が外へ向くが、壁の煉瓦が外壁と連続し、まるで外にいるような錯覚を覚える。が、寒風吹きすさぶ屋外と比べ、ここは天国のように温かく心地良い。
さらに奥のダイニングもまた外のウッドデッキと床面が連続し、大きな掃き出し窓が空間を包むテラスのような構造。それまでは空間そのものの魅力に感嘆したものだが、リニューアルでカーテンを設けたことにより、リアルな生活感を実感できる。ここでコーヒーを飲む朝は、どれだけ爽やかなのだろうか。想像するだけでわくわくする。
L字型のカウンターとアイランド型の調理スペースを組み合わせたキッチンもまた小物がさり気なく置かれ、家事動線の確認がしやすい。その奥の和室は黒縁の畳に変えられ、室内が引き締まった印象だ。
空間にこそ普遍的な価値が宿る
オーガニックハウスは世界的建築家の系譜にあるというイメージゆえ、やもすれば「作品」として理解しようとしてしまう。確かに建築として秀逸であることは間違いない。しかし、住まいは住み心地が第一。つまり、暮らすための空間に価値があるのだ。「ひとつの部屋の実態は、屋根と壁によって囲み取られた空間にこそ見出されるべきものであって、屋根や壁そのものに見出されるべきものではない」というライトが感銘を受けた岡倉天心のことばは住まいの本質を突いているが、このモデルハウスにインテリアやファブリック、何気ない絵画などで生活感をにじませると空間そのものの良さが浮かび上がる。それは、ライトが人間的なサイズを基準にして、常に住む人の動きや視界にまで心を砕いて空間をデザインしているからなのかもしれない。
建築ではなく空間にこそ、普遍的な価値が宿っているだろう。