10月号
音楽のあるまち♬ 神戸をクラシック音楽が溢れるまちに!
公益社団法人 アンサンブル神戸 代表理事
矢野 正浩 さん
震災後の神戸で生まれ、育ってきた「アンサンブル神戸」。
指揮者でフルート奏者でもある代表理事の矢野正浩さんにお話を伺った。
―アンサンブル神戸発足のきっかけは。
矢野 私がヨーロッパから帰国してすぐ震災が起きました。当時住んでいた北区から炊き出しボランティアなどでこちらへやって来る機会が度々あり、8月13日には震災直後でも唯一使えたホール「西山記念館」で、知り合いのホルン奏者をドイツから招き演奏を披露することになりました。この演奏会が満席になり、震災で何もかも無くして精神的ダメージが大きな中でも、音楽は喜んでもらえたと実感し、こんな時だからこそ文化的なボランティア活動も必要だと考え出張演奏を始めました。まだ神戸での知り合いも少なく、声をかけて集まってもらった演奏家のカルテットで、皆さんに馴染みのある曲にクラシックも交えた演奏は仮設住宅や高齢者施設で100回を超えていたと思います。
―その後、現在に至る経緯と活動内容は。
矢野 次第に知り合いの輪が広がり、翌年には松方ホールのオープニングシリーズの一環として初のコンサートを実施し、その後、形を変えながら発展し2015年に公益社団法人の認可を受け、現在団員25人、「定期演奏会」は年6回、震災の記憶を忘れないように毎年1月17日前後には「特別演奏会」を開催しています。1カ月半から2カ月に1回のペースで友の会会員さんをはじめお客さんに演奏を聴いていただき定着させていきたいと思っています。
―神戸21世紀混声合唱団との共演は。
矢野 合唱団は2000年から団員を一般募集して練習を始め、2001年1月の特別演奏会でデビューしました。定期演奏会と併せ年2回、宗教音楽を題材にして共演します。ドイツで私は宗教音楽も勉強していましたので、週1回の練習日には譜読みから、発声やドイツ語での歌唱まで指導しています。当日は舞台上部に日本語で字幕を映し出し内容を理解しながら聴いていただけるように工夫しています。来年2月17日に開催予定の第18回特別演奏会に向けて現在も団員募集中です。
―子ども向けコンサートも開催していますね。
矢野 当初は保育所などで出張演奏していたのですが、ホールへ足を運び、整った音響で良い音楽を聴く習慣をつけることも大切。そこで、5月と12月の2回、松方ホールで「0歳からのコンサート」を開催するようになりました。クラシックの中でも親しみやすい曲を選び、ナレーションや少年少女合唱団の歌唱なども交えて子どもの興味を引く演出をしています。また、開演前のロビーコンサートでは実際に楽器に触れて音を体験できる機会もつくっています。私自身が小学校で合唱団に入ったことをきっかけに音楽に興味を持つようになり、中学校ではブラスバンド部に入り、個人的にフルートを習い、その後クラシック音楽の道に進むことになりました。このコンサートが、子どもさんとその若いお父さんお母さん世代にもクラシック音楽に興味を持ってもらえるきっかけになればいいなと思っています。
―神戸とクラシック音楽は結びつきにくいのですが…。
矢野 本来、神戸には移民文化があり、阪神間の富裕層が暮らした深江文化村と呼ばれる地では著名な外国人音楽家たちがサロンコンサートを開くなど、クラシック音楽文化がありました。山田耕筰、大澤壽人、貴志康一など、そこで学んだ弟子たちが後に東京で活躍しました。残念ながら神戸に定着することなく出て行ってしまったんですね。
―クラシック音楽が溢れるまちにするためには。
矢野 9月の定期演奏会前に広報を兼ねてデュオこうべのイベントスペース「デュオドーム」で演奏したところ、行き交う人が常に足を止めて耳を傾けてくれました。そして10月1日のハーバーランド25周年のイベントでも何かやってもらえないかとお話をいただきました。事前に申請して許可をもらうなど面倒な手続きは必要ですが、こういうことが少しずつ定着していけばいいと思います。今年の神戸は、国際フルートコンクールとそれに伴う演奏会やイベントを民間の手で盛り上げました。次回は4年後ですが、来年からも毎年何らかの形で続けていこうという声も上がっています。私もフルート奏者ですので、「フルートのまち・神戸」に期待しているところです。
―アンサンブル神戸のこれからについて。
矢野 20年以上かけて多くの人たちとの信頼関係を築いてきた神戸を拠点にし、2013年以来固めてきた体制を維持し、さらに充実させていきます。今はそれが精いっぱいというのが正直なところですが、将来は演奏活動を東京はじめ全国レベルに広げていき、次の世代へと引き継いでいきたいと思っています。
矢野 正浩(やの まさひろ)
武蔵野音大卒業後、ザルツブルグモーツァルテウム音楽院を経て、トロッシンゲン国立音大大学院修了。在学中からドイツ各地で演奏、録音を行う。1994年フィンランドのヨエンスウ市立管弦楽団首席フルート奏者。1996年から室内オーケストラ「アンサンブル神戸」を主宰し、指揮者としても活動。第2回松方ホール音楽賞管楽器部門大賞。平成20年度神戸文化奨励賞。2007年NHK名曲リサイタルに出演。