7月号
神戸洋藝菓子ボックサン:「甘みは旨み」― 初代・善之助の教えを守り50年
神戸の洋菓子店ボックサンが今年50周年を迎えた。
初代・福原善之助さんは、大正11(1922)年生まれの92歳。昭和10年に、洋菓子職人をめざして大阪にあった丸善ベーカリーで丁稚奉公として働くことになる。太平洋戦争後の昭和27年、後に「551の豚まん」で有名となる蓬莱食堂で洋菓子職人として働き、その後、カステラの長崎屋で工場長を務めた。昭和38年、ボックサンの開店の準備、長崎屋の工場長との二足のわらじを履いたことで無理がたたり、十二指腸潰瘍に罹る。医者からは「このまま仕事を続けたら命を落とす」とまで言われ、3ヶ月の入院生活を送ることに。せっかくためた開店資金はほとんど消えてしまった。
しかしそんな苦境にめげることなく、昭和39年(1964)、現在の山陽電鉄「東須磨駅」のすぐ南に、ボックサンはオープンすることになる。当時は、ソフトな生地とボリューム、そして価格が安かったこともあり地元の人気店になった。あれから50年。「ケーキは甘みが旨み」という善之助の教えは、今もしっかりと生き続けている。甘さを控えるケーキが主流になる中でも、しっかりとした生地の甘さ、濃厚な味わいがボックサンの特徴でもある。「飾り付けはごまかしがきくが、生地はきかない」は2代目・敏晃さんの口癖。敏晃さんの時代になってから6店舗に増えるまでになった。三代目の啓祐さんは、「父は多くの人に支えられてきた。自分の代になれば100周年に向けて、いっそうケーキづくりに励みたい」と。また次男・光男さんは人気店「リッチ・フィールド」でオーナー兼パティシエとしても活躍している。
6月1日には、ボックサンのOB・OGが集う50周年記念祝賀会がホテルオークラ神戸「平安の間」で開催された。現在、ボックサンを卒業後、10数名が独立して活躍している。食後はビュッフェスタイルのデザートタイムに。ブースにはOB、OGによる洋菓子の数々がずらりと並んだ。出席者が最高の笑顔になった瞬間でもあった。