2014年
7月号

創立125周年 今も生きる建学の精神 —関西学院大学

カテゴリ:教育・スポーツ

関西学院大学 学長 村田 治さん

グローバル化の必要性が叫ばれている。キリスト教主義のもと、「全人教育」を理念に125年歩み続けてきた関西学院大学の時代が、今まさにやって来た。

大学4年間で価値観の重要性を学ぶ

―4月に学長に就任されてから何か変わったことはありますか。
村田 私自身が変わったという意識はありません。学長としての方針は、教務部長当時から考えていたもので、世界の見方も変わりません。もちろん世の中の変化に応じてビジョンを修正してきていますが、今までの延長線上でのことです。強いて言うならば、周りが私を学長として見るようになり、私も公人としての自覚を持つようになったということでしょうか。
―今の学生にもっとも必要なものは何だと思われますか。
村田 社会のグローバル化が進む今、学生に求められているのは問題を見出し解決する能力です。この能力を培うためには自分の価値観を持つことが重要です。何が問題なのかということは、自分の中にある価値基準と照らし合わせてはじめて見つけることができるからです。グローバル社会の中でどんな問題が出て来ようとも、その価値観に基づいて物事を分析し、考えれば、「YES」か「NO」かを判断できるでしょう。
―18歳で大学に入学し、4年間で自分の価値観を持つことができるでしょうか。
村田 価値観は時間とともに変化していくものですから、学生には常に、新しいことを吸収しながら一生成長し続けなさい、と話しています。大学4年間で価値観を持つことの重要性を学び、さまざまな体験・経験を積んでほしいと思っています。関西学院大学は創立当時からキリスト教精神に基づく全人教育(intellectual and religious)を謳っています。これは「科学的思考」と「世界観」の涵養と解釈できます。つまり、自分の世界観、価値観を持って科学的に物事を分析し、考える力を持った学生を育てることが我々の役割です。また、本学には「奉仕のための練達」と訳されるスクールモットー“Mastery for Service”があり、隣人・社会・世界に仕えるため、自らを鍛えることを唱えています。このような価値観がスクールモットーとして根づいている本学には、学生が個人の中に価値体系を持つための最も良い環境があると言えるでしょう。これは、これから日本がグローバル化していくなかにおいて強みであり、まさに関西学院大学の時代がやって来たと思っています。

世界の競争社会で耐えうる教育を

―〝Mastery for Service〟について学生たちに向けてのメッセージは。
村田 第4代C・J・Lベーツ院長の言葉で、「奉仕のための練達」と訳されていますが、その続きには「強くあれ」とあります。本学はプロテスタントで、神の前では誰もが平等ですから、上へ向くという力が育ちにくい。自らを鍛え人類に貢献するリーダーであれという部分を強調したいと思います。
 私は学生たちに、自分が持つ能力を10としたら、それを100、200にしてから社会に出て貢献して欲しいと話しています。自分を鍛えることが学生に与えられた使命です。グローバル化により競争社会である世界へ出ていかなくてはなりませんから、それに耐えうる教育が必要です。ただし大学内では機会の均等は保証する制度設計が必要です。その下で学生が競争した結果、能力差や多様性が生まれるのだと思います。
―近年は女子学生が元気だと言われていますが。
村田 ゼミで学生を見ていると、基本的に女子学生のほうが勤勉ですね。グループをまとめていこうという意識は男子学生のほうが強いと思うのですが、勉強の部分で努力が足りないために、女子学生にそっぽを向かれてしまうようです。「男の意地を持て!」と言っているんですがね(笑)。少子化の影響で、家庭で男の子が大事にされ過ぎているのが原因かなと私は思っています。

今が第二の改革の時

―関西学院大学はSGU(スーパーグローバル大学事業)に申請をしているそうですね。どういうものですか。
村田 文部科学省が進める事業の一つで、世界の大学ランキングトップ100入りを目指す力のある大学10校と、これまでの実績を基にさらにグローバル化を牽引していく力のある大学20校が選出されます。
―選出される可能性はありますか。また、そのメリットは。
村田 それはまだ分かりませんが、関西学院大学は、同じく文科省が進めるグローバル人材育成推進事業で選ばれた11校の中の1校です。また、世界展開力強化事業にも選ばれていますので、グローバル化に関しては着々と実績を上げてきていることは確かです。SGUに選出されれば日本の国公私立大学のトップ30校に入るということです。それもさることながら、関西学院大学にとっては25年後を見据え、学部教育のレベルで世界の大学と肩を並べ教育の質とそれに見合う学生の輩出を保証できるかという大学改革だと思っています。学生運動のさなかの1970年代、キリスト教主義を基に関西学院大学は大学改革を行いました。それから40年、今が第二の大学改革の時期です。教育の本質は知識や技能を教えるだけではなく、経験に基づき「どう生きるべきか」を考える力をつけ、「一生かけて学んでいく」ための基礎を教えることにあります。関西学院大学が理念にしてきた「全人教育」そのものです。
―具体的には。
村田 世界が日本の若者に求めているのは「主体性」と「チャレンジ精神」です。その部分を強化できるプログラムをSGU申請にも組み込んでいます。学びにはモチベーションが必要です。例えば経済学部生に、勉強している経済学の全体像が4年間で見えてくるなどあり得ないことです。そこで地元の商店街の活性化、西宮市の市政方針を考えるなど体験型学習を取り入れてきました。一つの目標に対して知識を吸収しようとしたときに、初めて専門的な勉強をしようというモチベーションが生まれ、主体性につながるものです。またダブルチャレンジを提唱しています。学部の勉強と留学やアクティブラーニングをダブルでチャレンジ、また学部の枠を越えた2分野を専攻して学位をダブルで取るなど、全員がダブルチャレンジをしなくてはならないというものです。同時に2つのことを進めることによって、互換性のある新しい発想が生まれます。

大学そのものをグローバル化させる

―今後の関西学院大学について。
村田 来年度から理工学部に、従来の基礎的な研究に加え、応用系の研究を行う3学科を新設します。社会に役立つことはもちろんですが、より実践的な研究により学生たちの目に成果がはっきり見えます。それによってモチベーションを高めようというものです。昨年は神戸三田キャンパス、今年は西宮上ケ原にラーニング・コモンズを立ち上げました。これからはコモンズが大きな役割を果たすと考えています。
 本学学生の約7割を、阪神間で育った子どもたちが占めています。均質的な文化の中で育ってきたということですね。豊かで外へ出て行く必要のない日本の縮図とも言えるでしょう。居心地が良いという本学の強みでもあるのですが、大学そのものをグローバル化させることが課題でもあります。これを達成できれば、さらに大きな強みにできると考えています。
―本日はありがとうございました。

中央講堂を125周年記念講堂に建て替えている


実践型“世界市民”育成プログラムは、開発途上国におけるボランティア活動や交換留学、海外インターンシップなどを体験し、世界をより良いものに変えるために、必要な知識とスキル、国際性、実践力を身につけることを目的にした関学大独自のプログラム


(同上)


海外の名門大学とのネットワークも関学大の強み。写真はトロント大学(カナダ)


平成22年の開設以来、全国屈指の難関学部として注目をあびる国際学部。SGUの中核として期待される

村田 治(むらた おさむ)

1955年東京都生まれ。関西学院大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科博士課程単位取得、経済学博士。関西学院大学経済学部助教授を経て、1998年教授。教務部長、経済学部長、高等教育推進センター長を務め、2014年より関西学院大学長。専門分野はマクロ経済学、景気循環論。あしなが育英会副会長。

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