9月号
フランク・ロイド・ライト その思想と建築を今に Vol.3
水平のライン
私は、過剰につくり込まれ、つくりあげられた空間では、住み手が自由に動き回ることができないと感じていた。そこで、自らの感覚に従い、水平線を人間生活の地平(安らぎの線)ととらえることにした。(中略)建物を下げて平らにのばし、比例を適切に整え、地面との間に安定した関係をつくり、人間的な配慮を尽くすことにした。
前々回紹介したとおり、フランク・ロイド・ライトの思想の根源は「大地」にあり、彼の編み出した「プレイリースタイル」は、自然の中で育まれた「感覚」を原点に生み出されたものだと言える。ウィスコンシンの大平原で育った彼だからこそ、自然の中に本質を見いだし、そこから「自然と」育っていくような家を目指したのであろう。
彼が何よりも信頼していた大地。広がるその地平こそ、住まいを根底から支え、暮らしの安心が根ざすもの。ロビー邸やジェイコブス邸など、ライトの名建築はまるで敷地に貼り付くようなスタイルのものが多い。平らな土地に確かな基礎を置き、高さを抑えた建築は、抜群の安定感を醸し出すとともに、大地と平行な水平のラインがスマートな印象を与えてくれる。
ライトは有機的な単純性を極め、建築は敷地に対してより自然に存在し、人間にも快適さをもたらせるようになった。平尾工務店もその思想を継承。さらに現代の建築技術やライフスタイルと融合させ、時代にフィットした建築として具現化したのがオーガニックハウスである。
水平のラインは大地のライン。この流れるようなラインは、デコレーションによるものではない。むしろ機能に従って不必要なものを除去し、あるがままの素材を用いて、スケールを適切に整えることにより、まるで泉の清水のように沸き出でたものと言えるだろう。
軽やかに流れる屋根のラインは大きく伸び、カンチレバーとなって夏の強い日差しから住人を守る。窓も水平のラインに幅広く配され、室内に光を招き、内部と外部を結びつけている。
屋内もまた、水平な空間が広がっている。余分な間仕切りを削ぎ落とし、広く、開放的だ。
この洒脱な外観は居住空間の快適性を追求した結果そのものであり、造形美と居心地のよさが建物と一体になっているのは思想が貫かれているからに違いない。ライトは言う。「建築の感覚とは〝内在〟の響きである」と。