10月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第四十三回
患者申出療養制度とは?
─安倍内閣が新設する患者申出療養制度とはどういうものでしょうか。
橋本 政府の規制改革会議からの提案で、保険未承認の新しい治療を困難な病気と闘う患者からの申出で早く使えるようにするというものです。
─新しい治療をいち早く使えるのはいいことですが、医師会はなぜ消極的なのですか。
橋本 小泉内閣時代にも当時の規制改革会議から保険未承認の治療と保険治療との併用を無条件で認めよとの要求があったのですが、有効性、安全性の確認は必要だとする厚労省や医師会からの反対もあり、議論の結果決定した保険外併用療養費制度があるからです。
(図1)
─では、なぜ今回、患者申出療養制度が導入されたのですか。
橋本 実は、私たちにも良くわからないのです。保険未承認の治療でも現在ある評価療養制度で対応はできています。ドラッグラグと言われる未承認薬の審査期間も以前よりはかなり短縮されています。今年5月に行われた厚生労働省の先進医療会議の中で、国立がん研究センターの医師が「以前は海外にいい薬があったが今はほとんどなく、治験中の新薬が本当に力を発揮できるかといえば、かえって有害な場合も多い」と発言されています。聖路加国際病院院長も「以前は海外で使えて日本で使えない薬があったが、最近ではほとんどない」とおっしゃっています。さらに胃がんでは日本で使えてアメリカでは使えない薬があるという専門家の発言もあります。このような意見が出ている中でなぜ制度を変える必要があるのか疑問です。
─規制改革会議はどのように説明しているのですか。
橋本 規制改革会議の議長が記者会見で、この患者申出療養制度が必要な患者さんはどのくらいいますかと問われて、私の周りに3人いますと答え、周りを唖然とさせました。自分の周りに3人いるから現在の制度を変える必要があるというのはちょっと理解できませんよね。
─患者団体からの意見はどうですか。
橋本 難病の患者団体は、将来の保険採用への道筋が不明なこの制度の創設に反対しています。患者申出と言いながら患者側の要求では無いことが明らかになっています。評価療養制度なら有効かつ安全な治療は先進医療でも保険適応になる道筋がありましたが(図2)、この患者申出療養制度ではその道筋が示されていません。そこで、日本医師会はこの制度を認めるなら、有効で安全性が確認された治療は保険承認される道筋を確保することを主張しています。
─この先、どのような展開になるのでしょうか
橋本 制度の詳細はまだ示されていませんが、患者申出療養制度の導入は閣議決定されています。有効かつ安全な治療は保険適応にすることを条件にしていただきたいものです。専門家が評価している評価療養制度を骨抜きにしないよう、国会での良識ある審議に期待します。
橋本 寛 先生
兵庫県医師会常任理事
橋本ファミリークリニック 院長