11月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第四十四回
「健康食品」狂想曲時代~その実情と背景
─健康食品とは何ですか。
北垣 テレビやラジオ、新聞、雑誌、インターネットにまで健康食品の広告は氾濫しています。2012年の内閣府の調査では国民の6割近くが健康食品を利用、50歳以上では約3割の方が毎日摂取し、就学前幼児の約15%、はたまたペットに至るまで健康食品を摂取しているという結果が出ました。ところが実のところ、健康食品に法律上の定義はありません。法律では口に入る物で「医薬品」以外はすべて「食品」になり、健康食品はここに含まれます。健康食品とは一般的に、広く健康の保持や増進に資する食品として販売・利用されているもの全般を指します。
─医薬品との違いは何ですか。
北垣 医薬品は医学的安全性や有効性が国により認められて医学的効果・効能が表記されたもので、医師や薬剤師の管理下で疾病のある人に投与されます。一方、健康食品の対象は基本的に健康な人で、科学的な安全性や有効性のデータは少なく、製品としての安全性や有効性も十分に検証されていない上、品質も一定ではありません。
─トクホ(特定保健用食品)とは何ですか。
北垣 健康食品の中でもトクホは、各企業が平均4年以上の期間と数億円を投資して臨床試験や安全性評価をおこない、国(消費者庁)が有効性・安全性を個別製品ごとに審査し、機能表示することを許可しています。機能表示とはその食品の働きを表示するものですが、あくまでも食品なので「脂肪を燃えやすくする」「吸収を抑える」「お腹の調子を整える」「強い骨を作る」程度の表現しか認められておらず、疾病の診断や治療、予防に関わる表示は許されていません。ちなみに、サプリメントはトクホ以外の健康食品のうち、栄養機能食品(ビタミンやミネラルなど17種類)や、そのほかの健康食品の中で特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の食品のことです。トクホと栄養機能食品をあわせて保健機能食品といいます。
─健康食品の広告では体験談がよくありますが、なぜですか。
北垣 保健機能食品以外の健康食品は有効性や安全性のエビデンスが乏しく、明確に効果効能を謳ったり機能表示をおこなったりすると薬事法違反に問われます。そこで「バイブル商法」と称される、有名人や一般人の体験談を通して「効果がありそう」と思わせる怪しげなグレーゾーン広告が蔓延しているのです。一方で政府は昨年、アベノミクス「第3の矢」の成長戦略の1つとして、これまで認められていなかった健康食品の機能表示の解禁を閣議決定しました。これは国ではなく、製造・販売会社の自己評価・自己責任においておこなわれることになります。
─その背景を教えてください。
北垣 健康食品は年間1兆2千億円の市場があるといわれていますが、実は停滞気味です。そこで、アメリカで健康食品の機能表示を解禁したことで市場が4倍に跳ね上がったことを模倣しようとしているのです。しかし、健康食品に関して消費者センターに年間1万2千~5千件の健康被害や詐欺被害の苦情があがっています。このような状況での安易な機能表示解禁は、国民目線を欠いた企業優先の政策にほかならず、その根本には国民の医療費削減を目論む財務省の影も見えます。増大する公的医療費に対し、自己負担の健康食品に誘導することで公的薬剤費を削減、財政負担を軽減しようとしているのです。これは医療品を一般市販薬品のカテゴリーに変更することや医療用検査品を一般商品化すること、医療施設ではなく薬局での自己採血による健康管理を勧めるセルフメディケーションの一連の流れや、混合診療で有効性、安全性を確認していない医療を容認、推進することと根底は同じで、大きな問題です。
北垣 幸央 先生
兵庫県医師会常任理事
北垣クリニック 院長