10月号
Report KOBE 「阪神・淡路大震災20年・語り継ぐこと/ リレートーク」9館を巡り終了
1月17日(土)にデザイン・クリエイティブセンター神戸でスタートした「阪神・淡路大震災20年・語り継ぐこと/リレートーク」。被災地エリアの文化施設が連携して行ったこの取り組みは、各館の担当者が震災と美術、文化財レスキューといった内容で対話し、それを館から館へとつないでいくというもので、美術館・博物館・アートセンター等計9館が参加した。それぞれの館で熱論が交わされ、時には会場の参加者からの発言を交えながら、対話のリレーは6月20日(土)に明石市立文化博物館で最終回を迎えた。明石市立文化博物館の学芸員で、震災画の作家でもあるとみさわかよのさんに、半年間に渡るリレートークについて寄稿いただいた。
阪神・淡路大震災20年・語り継ぐこと/リレートークを終えて
とみさわかよの
作家として阪神・淡路大震災をリアルタイムに追ってきた私は、かねてから疑問があった。災害も事件も、時間が経過すると必ず「風化」という言葉が使われる。私たちは決して忘れてはいないのに、伝えること、伝え続けることは何故難しいのだろう、と。この度は「伝え方」という課題を胸に、世代の異なる学芸員たちの話に耳を傾け、各館を回らせて貰った。
リレートーク最終日、江上代表は「当事者、被災者といった言葉で括ると、非常に多くのディテールがぬけ落ちてしまう」とその危うさを指摘し、伝える回路は多い方がいいと締め括った。震災当時から学芸員として被災地に身を置き、様々な仕事をしてきた江上さんならではの総括だった。今回のトークの特徴は、担当者に自らを「当事者」と意識する者と、「非当事者」と意識する者が存在したことだ。若い世代の者たちは、被災していない自分がこの企画に参加してよいのかと迷い、「踏み込むことを躊躇してしまう」と率直に語った。当時を知る者は「当然皆が知っている」と思い、語る必要性を感じていなかったことに気付かされた。一方は知らないからと退き、もう一方は知っていると思い込んで語らず、その狭間でたくさんの事柄が消えていく。これは紛れもなく「風化」の一側面で、先の江上さんの指摘にも通じる。ならば双方が直接語り合うことで、掬い上げられる事もあるのではないか。今回の対話型の催しは、図らずも「対話」の意義を浮き彫りにし、今後の継承のあり方を考えさせてくれた。
同日の会場で「人と防災未来センター資料室」震災資料専門員の村上しほりさんから、「今、被災地で起きているのは、記憶の風化ではなくて変化だと思う。変化していくのは悪いことではない。時間が経てば変わっていくのは必然」とのご意見をいただいた。被災地を客観的に見ることのできる方の、冷静な指摘と受け留めたい。忘却をも否定せず、語り継ぐ方法も時とともに変わっていくという村上さんの視点は、この先さらに十年、二十年と震災を語り継ごうとする時に必要になるだろう。
阪神・淡路大震災20年の節目のささやかな取り組みではあったが、私自身の得るものは大きかった。参加9館の担当者と来場者、ご協力いただいた方々に改めて感謝したい。(2015年9月15日)
【各館トーク参加者】
松本ひとみ デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
和田かおり 神戸ファッション美術館
大槻 晃実 芦屋市立美術博物館
江上 ゆか / 小野 尚子 兵庫県立美術館
宮本亜津子 BBプラザ美術館
田中梨枝子 神戸ゆかりの美術館
高橋 怜子 C.A.P.
伊藤まゆみ 神戸アートビレッジセンター(KAVC)
とみさわかよの / 東 由梨 明石市立文化博物館
*所属はトーク実施時のもの。