11月号
風に吹かれた 手紙のように|松本 隆|~京都から・後編~
喫茶店で話すラジオ番組みたいな2人のおしゃべり。
ラジオを聴くように読んでほしい。
meme 今日お邪魔しているカフェは、松本さんが教えてくれたんですよね。
松 本 うん、通りを歩いていて、路地をふと覗いたら「なんかありそう」って。入ってみたらコーヒーのいい香りがしてきて「見~つけた」って感じ。喫茶店は好きだから、どの街を歩いていても探してる。気に入った喫茶店では出会いもあるし、歌も生まれたし。
最近も思い出してたんだけど、昨年から風街めぐりをしているWEBの仕事は、編集者の川勝正幸さんとの付き合いがあってスタートしてるの。川勝さんとは喫茶店でいろんな話をした。初めて会った日から気があって、渋谷の街を散歩して…。
彼は音楽評論家でもあったから仕事も一緒にしたいのに、「メールは使いません」「アナログ人間です」って人で、困ったなと思ってね。こっちは新しくて便利なものはどんどん使いたいからさ。それで、じゃあ僕が教えるから、って、コンピューターを買いに行ってセットして…。僕だって暇じゃないのに(笑)
もういなくなっちゃったけどね。
meme 松本さんが作詞された、氷川きよしさんの新曲『白睡蓮』にいいフレーズがありますね。
「来世で会おうね」。
“来世”って、ちょっとドキッとしましたけど。
松 本 仏教の教えを歌詞にしたのは初めて見た、って、お付き合いのある住職さんに言われたけど、そこは意識してなくて、書いた通りそのまま。大切な人が次々いなくなっちゃうから寂しいなと思っていて。また会えるのか会えないのか、そんな世界があるのかないのか、難しいことはどうでもいい。僕は「また会おうね」って思ってる。
今ってなんだか世の中が乱暴で、騒がしくて、疲れている人も多いと思う。そんなときは、生きることとか死ぬこととか、1人で考えてみるのもいいんじゃないかな。
妹を亡くして書いたのが『君は天然色』。妹の死と対峙したのが、渋谷の街中だった。『白睡蓮』は、その続編とも思ってる。ふたつの歌の舞台、渋谷のあの雑踏が、僕には、会えないはずの人とすれ違うことができる浄土みたいに感じていて…。スクランブル交差点を泥とは言わないけど、泥の中からまっすぐに茎を伸ばした白い睡蓮の花が見えたらきれいでしょ。
meme 歌詞は「来世ははぐれないでね」と続きます。切ないですね。メロディも切ない…。
松 本 生きてるって痛くて切ない。願っても思い通りにはいかなくて、大切な人とはぐれてしまうかもしれない。「来世ははぐれないでね」は、僕の希望です。
作曲はGLAYのTAKUROさん。いいバラードが生まれたと、僕も思ってる。
meme この曲を聴きながら想う大切な人はそれぞれ違うと思いますけど、ラブソングとも言えますね。秋になると番組へのリクエストも多くなりますが、松本さんは書きたくなりませんか、恋の歌。
松 本 なりません(笑)。この秋は休みたい。
meme そんなことおっしゃらずに(笑)。
最近おもしろいなと思ってることは?
松 本 舞踏家の尾上紫さんがこの夏、着物姿でラヴェルの『ボレロ』を踊っていたのはおもしろいと思った。僕が詞を書いた『静』を踊った女性なんだけど。自由でいいよね。
ホホホ座の山下くんが作った、僕の歌のカバー曲集もおもしろいよ。マニアックな選曲と彼のこだわり。そうか、こういう時代なんだな、と思った。これからも、おもしろいことが起こるんじゃないかな。休んでいられないかもね。
text.田中奈都子














