3月号
連載 ミツバチの話 ⑧
8の字ダンス
藤井内科クリニック 藤井 芳夫
8の字ダンスの意味とは?
皆さんはミツバチが「8の字ダンス」(蜂の字ダンスではない)を踊ってミツのたっぷりある花の場所(蜜源)を仲間に教えることをご存知ですか?
そう、ミツバチは仲間同士で情報のやり取りをする手段をもっている。
このミツバチの言語ともいわれる発見、研究したのはオーストリア人でミュンヘン大学の動物学者カール・フォン・フリッシュ教授。1973年にノーベル賞(生理学・医学賞)を受賞している。この年には医学に関係する受賞者はおらず、動物行動学に関する研究で3名受賞している。
さて、ミツバチ(働き蜂)は豊富な蜜源を見つけると喜んで巣に帰り、有名な尻振りダンスをする。それをよく観察するとある決まったパターンがあり、それが8の字の形をしていることが分かったので「8の字ダンス、Eight-Figure Dance」と呼ばれる。
そのパターンをさらに研究すると巣から蜜源までの方向と距離を示していることが分かった。そのことは『ミツバチの会議』(トーマス・シーリー著、片岡夏美=訳 築地書館)に詳しく記載されている。
引用すると、
「暗い巣の中でハチが尻振り走行を行うとき、明るい屋外での飛行を縮小して再現しており、今しがた発見した豊富な蜜源の位置を示している。尻振り走行の時間は、蜜源までの距離に比例している。尻振りと羽音の一秒は平均して1000mの飛行を表す。また巣の垂直面の真上に対する尻振り走行の角度は、太陽の方向に対する往路の角度を表す。例えば蜜を見つけた外勤バチが、尻振り走行をしながら真上に動いたら蜜源は太陽の方向にあると言っているのだ。図に示すように、尻振りをしながら垂直方向から右へ40度を向いたら、蜜源は太陽の方向から40度右方向にあると言っている。」とある。
どうですか?難しいですね。
蜜源までの方向、距離を示す
それでは予備知識として、ミツバチの巣箱の中は真っ暗で、巣板は巣箱の中に縦に10枚ほど並んでおり、つまり垂直方向に置かれている事を踏まえて我がミツバチ師匠の春井さんに教えていただいた。要約するとこうだ。
ミツバチの8の字ダンスは、光のほとんど入って来ない巣箱の中で、働きバチが巣箱の入り口から入って来る光(偏光)を感じて、太陽の方角を認識する。
偏光は昼間の太陽が昇っている間も、沈んでいる間も曇っていても、雨の場合も、間違いなくミツバチが太陽の方向を垂直方向に変換する。太陽から左右に何度離れた方向に蜜源(または花粉源)があるかを認識し、垂直方向から何度か傾いて進み、右回り、そして左回りを繰り返す。
仮に太陽から40度右の方向に蜜源があるとすると、巣箱内の巣板の上では垂直方向から40度右に傾いた方向に進み、そして右回り左回りを繰り返す。蜜源までの距離はダンスの周回の早さであらわし、速いダンスなら近くに蜜源植物があり、ダンスがゆっくりなら遠くに蜜源がある、ということを仲間の働きバチに知らせている。
ダンスをしている働きバチの後にくっついて同じダンスを踊り、そして方向、距離を認識した働きバチがその方向に飛んでいく。そして、ダンスの影響を受けて花蜜を持って帰ってきた働きバチがその蜜源が非常に多くて、たくさんある場合、同様にダンスを踊り、そしてますます同じ蜜源に向かう働きバチが増えていく。そのうちにほとんどの働きバチが同じ蜜源に行くので、最終的にほぼ、単一の花の蜜に由来する蜂蜜がつくられる。
ただ、蜜源が100m前後の近距離の場合、8の字ダンスは踊らず、円舞になる。5月のアカシア(ニセアカシア)の花が咲く時季にはほとんど同じ花に行くので、「アカシア」の蜂蜜ができるわけだ。ちなみに太陽が真上に来る時期がある地域(北回帰線~赤道~南回帰線)では、その時刻(正午[南中]前後30分)は近距離の円舞は踊れるけれど、太陽の角度が認識できなくなるので、さすがに8の字ダンスはしなくなる。
巣別れを決めるのも8の字ダンス
「またこの8の字ダンスで方向、距離を示すのは蜜源ばかりではない」と春井さんは話す。
巣分かれの時もこの方法で新しい巣の方向を示す。蜜源を示す場合は採蜜担当ミツバチだが、巣分かれの時に新たな巣の候補を示すのは分蜂担当のミツバチで、いくつかの候補地をそれぞれの分蜂担当ミツバチがダンスを踊って、自分が見つけた候補地をアピールする。採蜜の時と同様の過程を経て、言わば多数決で新しい住処を決める。女王蜂には決定権はなく働き蜂に連れて行かれるという。
またミツバチの系統(品種:イタリアン系、カーニオラン系、コーカシアン系など)によって多少のダンスの仕方が違うと云う。つまり人間でいえば、方言、に相当するとの事。このとき、もし、イタリアン系×カーニオラン系の交雑(混血)が起きるとどうなるかということだが、この場合は、母親の系統の言葉が優勢になる。
面白いですね。春井先生有難うございました。ファミリー全体のために、誰に指示される訳でもないのに、子育て、掃除、巣作り、女王蜂の世話、蜜の受け渡し、濃縮、貯蔵、門番、採蜜と仕事をこなし、敵が来れば巣を守るために突進し、ダンスを踊ってコミュニケーション。このように見ているとミツバチはとても奥が深いですね。
さて、どうしてもミツバチのダンスを動画でという人はインターネット検索でNHKの「ミツバチのダンスNHK for School」でもご覧になれます。