2017年
3月号
左右対称の美しさはライト建築の特徴

フランク・ロイド・ライトの名建築にふれる

カテゴリ:建築, 芦屋

国指定重要文化財 ヨドコウ迎賓館館長
岩井 忠之

邸宅文化が息づく芦屋のシンボル的存在となっているのが、ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)。近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライト設計で、大正時代の建物として、また鉄筋コンクリート建築として、初の重要文化財に指定された。岩井館長にその価値についてお話を伺った。

建築に遊び心を

ライトは有機的建築という思想を、アメリカの大草原に合わせた屋根を低く抑え水平線を強調した草原住宅(プレイリースタイル)という形で表現しました。この建物も、4階建てで一見縦のラインが強調されているように見えますが、実は六甲山の斜面に沿って、4つのフロアをスライドさせた形になっていて、各フロアは1階か2階建てのようになっているんです。自然との融合というライトの考え方がよくあらわれています。
そして建物全体にいろいろな仕掛けがあります。例えば、最上階の食堂からバルコニーに出ると大きな塔屋のようなものが目に入ります。この塔屋は実は暖炉の煙突で、実際の煙突より数倍大きくなっています。これは、敢えて視界を遮るための仕掛けで、そこからトンネルのようになっている階段から3階のバルコニーに降りると、一気に視界が開けて芦屋市街や大阪湾が一望できます。狭いトンネルも、先に続く空間を広く感じさせるための仕掛けの一つです。このような演出が至るところにあり、多彩な装飾と共に、この建物の大きな特徴となっています。

六甲山と生き続ける

もともと避暑を目的として建てていますので、まず風通しが考えられています。デザイン・換気・採光を目的に、小窓が100以上あるんです。内側から見たらわかりませんが、外側には小窓にすべて飾り石がついていて凝った造りなんですね。ここには当時ガラスが入っていませんでした。ライトは日本の気候、湿気や雨が多いということをあまり体感していないのでこういう造りになったのではないかと言われていますが、やはり雨が入って建物が傷む原因となりました。
灘の酒造家である山邑家の別荘として建てられて、いま93年目になります。当時、ここはオール電化だったんですよ。瞬間湯沸かし器や冷蔵庫、掃除機などが使われていたようですが、大正13年ですから電化製品はほぼ、アメリカやドイツからの輸入品だったようです。その電気をどうしたかというと、阪神電車と契約して直接3300ボルトの電気を引き、ここで100ボルトに変圧して使っていたんです。
ライトが設計を引き受けたのは、この土地をライトが気に入ったからといわれています。かつて芦屋では山を切り開いて別荘や邸宅が建てられました。そんな芦屋のシンボル的存在として、この建物を維持し活用していくのは意義があることではないかと思います。

建築当時の姿で残る貴重なライト建築

一般公開では海外の方も来られます。特にアメリカからは多いですね。ライトはアメリカ人ですから。ライトの建築は、現在では日本とアメリカ以外には残っていないそうです。ライトは1000件以上設計して、うち500件以上が実現しましたが、日本では設計は12件、実際に建てられたのは6件です。そのうち、建築当時の姿で残っているのは、ここと東京・池袋の自由学園明日館だけです。あとは明治村に旧帝国ホテル本館の一部と、旧帝国ホテルの支配人だった林愛作の家が一部屋だけ残されているようです。ですからこの迎賓館は貴重な建築で、昭和49年に重要文化財に指定されています。大正以降に建てられ、また鉄筋コンクリート建築として初の重要文化財になります。阪神・淡路大震災では大きな被害を受けましたが、3年の年月をかけて復旧しました。

文化的、歴史的価値を伝える

現在、保存修理工事をおこなっています。来年の11月まで約2年かけて、今回は雨漏りを防ぐための防水工事や、劣化した大谷石の補修などを中心におこないます。大谷石は特に外部、雨風が当たるところは角がなくなったり欠けたりしているので。小窓の飾り石はセメントと大谷石を砕いたものと砂を混ぜてつくられているのですが、それらも劣化していますので修理します。また、ご年配のご来館者も多いので、階段に手すりを設置する予定です。
これまでもコンサートや生け花展、夜間見学などいろいろとやってきました。また、2月から4月に開催している山邑家ゆかりの雛人形展も好評で、年間入館者の半分がこの時期に集中していました。工事終了後もこれらの催しを継続するだけでなく、よりこの建物をみなさんに知っていただくためにいろいろな企画で活用していこうと思います。平成30年に予定する再オープンの際はぜひ、文化的、歴史的価値を実感しにお越しください。

六甲山の中腹に建ち、邸宅文化が息づく芦屋のシンボル的な存在として知られる「ヨドコウ迎賓館」。1974年、国の重要文化財に指定された

ライトが提唱した「有機的建築」の思想に従い、屋根を低くして水平線を強調する

日本に残るライト建築のうち、建築当時のままの姿を今に伝える貴重な建物

左右対称の美しさはライト建築の特徴

天井の装飾が美しい4階の食堂。石造りの暖炉も備えられている

洋風の外観からは想像できないが、和室も設けられている

屋敷のさまざまな場所にある、植物の葉をモチーフにした飾り銅版

風通しと採光のために、天窓の小窓が100以上つくられた

栃木県産の大谷石をふんだんに使用した。今ではほとんど採石できない

ヨドコウ迎賓館

兵庫県芦屋市山手町3-10
■開館日 水・土・日・祝日
■開館時間 10:00~16:00(入館は閉館30分前まで)
■お問い合わせ TEL.0797-38-1720
保存修理工事のため平成30年11月頃まで閉館

岩井 忠之(いわい ただゆき)

兵庫県明石市に生まれる。昭和49年(1974)に淀川製鋼所大阪工場に入社。平成27年7月には本社広報課に転勤。同10月から当館の副館長を務め、翌平成28年4月より館長に就任

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〈2017年3月号〉
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