8月号
縁の下の力持ち 第14回 神戸大学医学部附属病院 感染制御部
病院全体に目を配り、院内感染と拡大を阻止する
日々、縁の下から病院全体に目を配り、感染症を防ぎ、院内、ひいては地域全体への拡大を
阻止しようと対策を講じているのが感染制御部です。
―感染制御部とは。
宮良 皆さんの日常でも感染症は起きますが、病院内での感染とその広がりを防ごうというのが感染制御部の役割です。感染症専門医、看護師、薬剤師、細菌検査技師が専門領域を生かし、各診療科と連携しながら仕事をしています。
―感染症の広がり方とは。
宮良 感染症の中では、インフルエンザや麻疹(はしか)、風疹など人から人へ感染する疾患は、伝染病と呼ばれます。しかし、感染症はノロウイルス胃腸炎などの場合の様に、食品を介しても汚染した人の手や器材・環境を介しても広がる場合が多いのです。
―例えばどんな対策を?
宮良 神戸市が、市内の医療機関からのインフルエンザや麻疹患者さんの発生数を毎週集計して、週報の形で通知があります。流行が発生した場合には、こういった情報を院内に周知し、一時外泊される患者さんや面会に来られる方、職員にも注意喚起します。新職員が入ってくる春には麻疹などの抗体価を十分持っているか、ワクチン接種をしているかをリストアップし、ワクチン接種を推進します。
―感染拡大を防ぐにはワクチンが有効な手段なのですね。
宮良 ワクチンの効果は決して100%というわけではありませんが、接種しなければ確実に感染のリスクが高まり拡大します。
また感染した場合、後遺症などのリスクもあることを感染症専門医としてお伝えしたいと思っています。
―病原菌に感染しても抗生物質が効くので心配ないのでは。
宮良 1940年代から抗生物質が広く使われるようになって、赤ちゃんや高齢者の死亡率は低下しました。ところが、最近よく耳にするMRSAやESBLのように抗生物質が効きにくい耐性菌が増えています。
―どんな対策を?
宮良 感染制御部では耐性菌の広がりを防止する目的で、患者さんに触れる時は必ずアルコール消毒薬で手を消毒する、処置用のガウンなどを使用した後は、その場で感染性廃棄物として廃棄するなどの指示やマニュアルづくりを行っています。また、耐性菌が出にくくなるような抗生物質の使い方も推奨しています。
―耐性菌はなぜ出てくるのですか。
宮良 細菌は、突然変異や細菌同士の遺伝子の交換で、もともとごく少数ながら薬剤耐性菌が存在しています。ここで、広範囲の細菌に効く抗菌薬を使いすぎると、抗菌薬が効きにくい菌の比率が増えてしまいます。これを防ぐには、治療前に細菌検査を行って原因菌を探し、疑わしい細菌を狙った薬に絞る必要があります。
宇田 抗菌薬は使えば使うほど耐性菌が増加する可能性が高まります。院内での抗菌薬使用量の推移を見て極端に多くなっている場合は理由を検証し、全体で薬剤耐性菌を減らそうと取り組んでいます。
―どういった取り組みを?
宇田 患者さんのカルテを調べ、広範囲の菌に効き目がある薬を長期間使っているケースをピックアップします。患者さんの血液培養検査などの結果を基に、症状や医師の治療方針も考え併せ、より最適な抗菌薬への変更、使用中止などを提案します。
―先生方はなぜ、感染制御を専門にされたのですか。
宮良 呼吸器内科医でしたが、以前に勤務した大学病院でSARSの対応を任されたことから感染制御も担当する様になりました。
宇田 薬剤師の仕事の中でも患者さんに直接関わることができる病院を選び、数年前から感染制御に従事しています。抗菌薬の使用と患者さんの状態がロジカルに分かりやすく、治療方針についての議論にも参加できてやりがいを感じています。
―私たちが注意すべきことは。
宮良 感染制御は地域ぐるみで対策を取ることが大切です。勝手な判断で抗生物質を使ったりやめたりしないように、また感染症を疑う症状がある場合には、受診の際に詳しく情報をご提供ください。
―分かりました。これからも〝縁の下の力持ち〟よろしくお願いします。