8月号
淡路島の観光素材に より磨きをかけて、 世界に通用する観光地として挑戦したい!
海と山の自然に抱かれた食の宝庫「淡路島」。
6月に淡路島観光協会会長に就任した木下学さんに、淡路島の今後のビジョンについてお話を伺った。
淡路は「食と景観」
―会長に就任されて、まず取り組みたいことは。
現在、淡路島はDMO(観光地域づくり組織)の設立を目指し、前段階である候補法人として認定され、官民一体となって島の観光振興を行おうという時期です。これは将来を見すえての中長期的な活動となりますので、この重要な時期に若い者がしっかりやりなさいという意味で、今回、私に会長のお話をいただいたのだと思います。
全国的には、現在はインバウンド(海外からの観光客)が大変増えているという状況ですが、私自身は淡路島を海外に急いでPRしたいとはあまり思っていません。それ以上に、世界に通用する淡路島のコンテンツを見出し、それを磨き上げること、整備することが大切だと考えます。今、淡路島にお越しいただいているお客様の8割が近畿圏からのお客様で、その多くは都市部にお住まいの方々です。そのようなお客様に、引き続き都市近郊リゾートとしてのレベルアップを図り続けることで、世界に通用する観光地に一歩ずつ近づくかと考えます。また、そのためには淡路島にある観光素材、コンテンツを開発し、レベルを上げていくことが重要です。
―淡路島には、たくさんの観光素材がありますが、具体的には。
一言でいえば「食と景観」です。食の歴史でいえば、御食国(みけつくに)といわれて久しいわけですが、淡路島から朝廷に食材を献上する“供給”の歴史でありました。その後も神戸、大阪、東京に淡路の美味しいものが届けられるというように。今後はそれらの地産食材をもっと淡路島にておいしく楽しんでいただくようにしたいと考えます。そのためには生産者、流通、調理、サービスが一体となって、よりよい食の価値創造を島全体で取り組むことが求められます。景観においては、風景の再構築です。島にある山、田畑、海は、かつては人々がそこを仕事の場としていたので整備されていましたが、今では残念ながら手つかずになっているところがありますから、これからは観光という視点で山、田畑、海を美しく保っていくことが重要です。
島全体としてより戦略的な観光開発を行うために、観光協会では、島内の3市と兵庫県から職員を派遣していただき、県と島が一体となって戦略を立てていこうとしています。淡路島全体を回遊していただく仕掛けとしては、淡路島を自転車で一周する「アワイチ」が人気を集めており、リピーターの方も多くおられますから、なにか別の観光素材ともマッチングさせて淡路の魅力をより感じていただけるようになればと思います。
人の力も集まって
―課題はありますか。
淡路島を訪れる海外からのお客様が少ない理由のひとつに、アクセスの弱さが挙げられます。私どものグループの中で、四国にある旅館を例にとると、海外の方はJRがインバウンド向けに発行するJRパスを活用して電車で来られたり、レンタカーで来られたりしています。淡路島にはJRの鉄道はありませんからJRパスは利用できません。しかし、淡路島を通過して四国方面に向かう高速バスがたくさんありますから、なんとかそのバスに淡路島で乗降いただけるような仕掛けができないかと考えています。
訪日インバウンドが、東京、京都、大阪などの都市部に集中している今、できるだけ地方の観光地にも訪れていただくことが重要な課題とされています。JRが走っておらず、バスしかないという地域は淡路島以外にもたくさんありますから、そういう場所でバスを組み入れた仕掛けをぜひ提案したい。財源は、今年からスタートした国際観光客税の一つの使途として、地方への交通網の整備に活用してほしいという要望を出していきたいと考えています。
―関西国際空港からのアクセスも重要ですね。
道路網に関していえば、香港やシンガポールなどのアジア圏で、国土に対して車が多く、いつも渋滞に悩まされている方にとっては、関西空港に到着してから湾岸線を走って淡路島に向かう、ハイウェイを走る気持ちの良さも一つの観光コンテンツです。しかし、外国人向けの高速道路のフリーパスはありますが、本州と淡路島を結ぶ明石海峡大橋など4つの架橋はフリーパスに含まれていないことが多いため、不便に感じられる方が多いです。それも、高速道路会社とも話をして便利に使っていただけるようになればと思います。
―体験型観光に関して、具体的なお考えはございますか。
淡路島は周囲を海で囲まれていながら、海洋観光、海を楽しむコンテンツがまだ充実していません。例えば、漁船に乗って天然のワカメ刈りを体験し、砂浜でワカメのしゃぶしゃぶを楽しむ、といったことや、玉ねぎの収穫体験の後は畑でオニオングラタンスープを食べる、といったもの。ヨットを利用した今までにないラグジュアリーな体験も考えられるでしょう。
―また、続々と人気グルメも誕生していますね。
10年前、淡路島観光協会で「淡路島牛丼」を開発しましたが、これがご当地グルメの先駆けともなりました。以来、「淡路島ぬーどる」「淡路島バーガー」「淡路島の生しらす」などを発売してきましたが、そういった事業の度に、島の皆さんが積極的に動いてくださったことも、大きな力となってきました。現在も、春のサクラマスや淡路島なるとオレンジなどさまざまな食材を売り出していますが、いくら旗振り役がいても皆さんが賛同してくださらなければうまくいきません。島の皆さんが地域発展のために、それぞれに創意工夫を重ねてくださる、そういう素地がこの島にあるのは本当にありがたいことです。淡路島にはまだまだすばらしい素材がたくさんありますから、今後もそれらを発掘し、磨いていきたいと思います。淡路島は、食においても環境においても、四季を通じて四季折々の魅力、おもしろさがあります。一年通じて、オールシーズン何度でも訪れたくなる、飽きさせない島をつくっていくことも大事ですね。
―ホテルニューアワジグループでは、淡路島をはじめ、神戸、京都、香川などで15施設を運営していますが、代表としても活躍されていますね。
私どもはいわゆるチェーンホテルとは一線を画していて、ファミリー向け、シニア向け、カジュアル、ラグジュアリーなど様々なニーズに応えられる宿泊施設づくりを目指しています。それがひいては島全体の宿泊施設が多彩で魅力的なものになると考えます。また、今後は、世界にも通用するさらにラグジュアリーな宿泊施設にも挑戦したいと思います。
もう一つは、働く人々にとって良い会社、良い業界にしていきたい。さまざまなお客様に対応できるレベルの高い社員を養成していくためには、より働きやすい環境が重要です。収入もしっかり得られ休暇も取得できるなど、さまざまな取り組みが必要であり、その部分が評価されるような会社にしたいと考えます。世界に通用する人材を育てる過程において大切にしたいのは、一つ目は、若い社員が早いタイミングで責任ある立場に立てる仕組みづくり。二つ目は、女性が結婚、出産を経ても長く働けるためのサポートづくり、三つ目は、まだ経験の浅い若い社員が困ったときに重要なベテラン社員からのサポートやアドバイスです。また、体力やプライベートなどの問題で定年後に働くことが難しくなっても、それぞれに合わせた働き方ができることによって、長く働いていただけるような仕組みを作っていければと思います。そして外国人スタッフも重要であり、人材不足だけでなくフレンドリーさや語学力をみがくための大きな力になってもらいたいと考えます。