8月号
「神戸 食の未来を考える会」始動! 未来の“食”を扱う企業として
「神戸 食の未来を考える会」始動! 未来の“食”を扱う企業として
昨年、県内の食にまつわる企業、店舗が集まる「神戸 食の未来を考える会」(安福武之助会長)が結成された。それぞれがビジョンを持ち活動している中で、運営メンバーにお話を伺った。
持続可能な、地域社会に貢献できる会社を
―「食の未来を考える会」はどのような会ですか。
壷井 発端は、会長である神戸酒心館・安福武之助社長と、発起人である神戸サカヱ屋・海崎孝一社長と数人で、食を通した地域活性化を目指した交流組織を作りたいと話したことからスタートしました。事務局は神戸商工会議所に置き、目標は国際的に決められた「SDGs」(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)を意識し、持続可能な、地域社会に貢献できる会社として会員間で情報交換、ネットワークを築き、神戸の将来を考えていこうというものです。
現在、約40社の関係者が参加していますが、老舗の企業が中心となっています。と言いますのは、例えば安福会長の神戸酒心館は創業260年の歴史のある酒造メーカーですが、それだけ長い歴史の中でさまざまな経済状況の変化に応じてこられたということであり、長期的な、そして遅効性の利益も求めてこられたということでもあり、それが持続的な利益につながるということは、我々会員としても会としても学ぶべき点が多いからです。
萩原 私は壷井さん、西村さんと同じく家業を継いだのですがコーヒー卸業界は、国内の生産者や食材に触れる機会が少なく、視野が狭い部分もあるといえます。その中で、どういう形で神戸の経済に貢献していけるかというところに期待して、この会に参加させていただきました。変化していく時代の中で、私どもがどう次の100年を迎えるかと考えたとき、マクロ経済も大切ですが、もっと地元や地場に目を向けながら、地域経済という小さなコミュニティの中で、自社が長く継続していける運営を目指していきたい。それには今まで接してこなかった新しく違うジャンルの方々とお会いして、神戸をどう盛り上げていくのか、地場をどう生かしていくかを話し合い、刺激を受けて、その中でコーヒー屋としての役割をどう果たしていくかということも考えたいと思います。
西村 私もお2人と同じく後継ということで会社に戻った際、「自社の強みは何か」と考える機会を多く持ちました。これからの企業は他社と差別化できる明確な強みがないと生き残っていけないと考えています。当社の場合、強みの一つとしてやはり「伝統」が挙げられます。伝統=ブランド力、それが安全・安心・信頼につながっていくと考えています。しかしその伝統に甘んじているだけでは右肩下がりになります。企業を活性化し、継続していく為には、常に新しいつながりと発想を持って、ムーブメントを起こし続けていく必要があると思います。そのため私は各種勉強会や若手経営者の集まりなどに参加していますが、特にこの会は食にフォーカスし、企業として利益を上げることにプラスして、会員同士が“食”というテーマでつながり、互いが刺激し合う事で、結果的に神戸全体の利益や活性化につなげようという意義と目的がしっかりしている会なので、面白いと思います。
それぞれのユニークな地域貢献
―食を通じた地域活性という点で具体的にいかがですか。
壷井 食の会としては、老舗が集まったことに意義があると思います。老舗が、自分たちのアイデンティティを生かして、何か一つ、生業として、プロフェッショナルとして絶対にできる地域貢献が何かということを考えてはどうか、と私は思っています。
「ケルン」では、シニア向けのパン教室「パンじぃ」という取り組みがその一つでした。この教室で学んだ方の中には、平均年齢75歳のシニアが集まって定期的に地域のコミュニティカフェでお店を出されている方々もいます。年金の財源不足などの問題から、高齢者雇用の必要性が叫ばれていますが、シニアの方々からも、働けるうちはちゃんと働いてそれに見合った賃金を支払って欲しいという声を聞きます。もちろん、体力がなくなり、働く事が難しくなれば相応の手当を受けるべきであり、全員がその保障を受けられるかどうかは、働きたいと望んでいるシニアにはきちんと働いていただき、しっかり賃金を受け取ってもらう、ということが重要になると私は考えます。その為にも「パンじぃ」では今後、シニアが障害のある方を指導するなど、「神戸の先生と呼ばれる存在」になり、その「パンじぃ」から学んだ彼らが自立して適正な賃金をもらえるという循環づくりができないかと、考えています。
萩原 弊社では、養護学校でカフェを通した授業を開いています。仕事内容を学ぶことで生徒たちが就職をしやすいようにということもありますが、労働プラスアルファの部分を皆さんに伝えていきたいと考えています。と言いますのも、喫茶はそこに人が集まって、会話が生まれるという時間と空間の提供であり、それはコンビニエンスストアの100円では提供できない特別なものだからです。喫茶店で働くことに対する対価はお金だけではなく、そこに集まった方の時間の使い方と、それをどう共有できるかにあります。
そして、地元の商店街の活性化に貢献したいと、高齢者の方のためのコーヒー教室や、子供たちによる喫茶店などを行っています。神戸という地方都市ならではの結束力を高めるためにも、まずは喫茶という小さなところからコミュニティを形成したいと考えています。子供がいる喫茶は、おじいちゃんやおばあちゃんも訪れ、子供たちが誰よりも生き生きしていましたね。
西村 地域のコミュニティと和食業界という観点でいえば、地域の方々が和食店を利用するシーンは、初節句や七五三、還暦祝いなど日本ならではの節目のお祝いのときが多いといえます。これらの行事も、日本の大切な文化の一つです。そこで、我々店側が和の伝統やしきたりを守ってしっかりとおもてなしをするということがもっとも重要になります。それが守られている事が基本なのですが、できていないお店も増えているんですね。お座敷で、ご家族でお食事をお召し上がりいただけるというお店が神戸では少ないので、我々はそういう形態のお店と、おもてなしを継承していくことで、地域コミュニティや家族の集まる場を守ることも地域貢献の一つだと考えています。
今後チャレンジしたいのは子供の食育ですね。現代の子供たちは濃い味に慣れてしまって、お出汁等の繊細な味がわからないという子供も多いと聞きますので、小さい頃からの食文化の形成に我々も貢献したい。和食はユネスコの無形文化遺産にも登録されましたから、これから世界に目を向けていく為にも、是非とも守っていかなくてはならない文化だと考えています。
壷井 そういったそれぞれの考えがある中で、「食を考える会」としては、企業の規模の大きさや歴史に遠慮をせずに、会員間でストレートにものが言い合えることが大切だと思います。それだけで生産性が上がります。会員はそれぞれいろいろなジャンルで、商売のやり方が全く違う人もいます。けれども全く違う分野の方と出会っても、その商売の根幹を理解するよう努力すべきです。例えば、自分がその企業の経営を15年するなら、どうするかと考えてみるとか。実際に会員間でレベニューシェアを実践してみるとか、そういった形で相互理解を深め、お互いに意見を言い合ってそれを受け入れることができれば、この会は自然な形で成長していくと確信しています。
壷井 豪(つぼい ごう)
株式会社ケルン 代表取締役
大阪阿倍野辻調理師専門学校卒業後、京都の老舗ベーカリー「進々堂」など、関西のベーカリー数店舗にて技術と経営を学ぶ。その後、日本パン技術研究所、ドイツはバイロイト市にあるベッカライ2店舗でドイツパンの基礎とドイツの文化を学び、2013年、株式会社ケルン3代目代表取締役就任。
株式会社ケルン
1946年、神戸は御影にて創業。現在、神戸及び芦屋エリアに直営10店舗FC2店舗を展開する老舗ベーカリー。地元に根を張り、親子3代に渡り愛されるパン作りとサービスで今日の神戸を盛り上げる。人気商品に「チョコッペ」、「御影メロンパン」、「ドイツ」などがある。
萩原 英治(はぎはら ひではる)
萩原珈琲株式会社 代表取締役
広島県立大学 生物資源開発学科を卒業後、ブラジル・グァテマラへ単身研修。コーヒー生産者と共に農園や輸出業者などで修業を積む。2009年、萩原珈琲株式会社へ入社、2014年より本格的に経営を引き継ぐ。また同時に株式会社萩原珈琲店(直営運営会社)を設立、代表取締役に就任。
萩原珈琲株式会社
1928年、萩原商店として市場(いちば)で創業。初代 三代治(みよじ)は「手作りでできる仕事にこだわる、だから会社は広げない」を信念に、「独得」の炭火焙煎を考案。現在まで引継がれた伝統はビジネスではなく、あくまでも「商売」を信念にしている。
西村 勇人(にしむら はやと)
株式会社西村屋フーズコム
営業企画担当取締役
1987年生まれ。甲南大学経営学部経営学科卒業後、アサヒビール株式会社に就職。福岡の地にて、営業・企画・マーケティングを経験した後、2012年に株式会社西村屋フーズコムに入社。現在、営業企画担当取締役として、マネジメント業務全般を取り仕切っている。
西村屋フーズコム
1976年設立、今年で創業43年。当初は、城崎にて安政年間より温泉旅館を営んでいる城崎西村屋の外食部門として発足。神戸を中心に飲食店(主に、和食、かに料理、肉料理、郷土料理、懐石料理など)を運営する。