6月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第六十一回
兵庫県在宅医療・介護支援センターと
「在宅電話相談ひょうご」について
豊田 俊 先生
─在宅医療・介護が増えているそうですが、なぜですか。
豊田 最大の理由は、国が財政赤字を減らすために医療・介護負担を削減する政策を進めていることです。わが国は超高齢社会を迎え、増加が見込まれる社会福祉費用、特に医療費・介護給付費の増加を抑制しようとしていますが、その主な施策が「地域医療構想の策定」と「地域包括ケアシステムの構築」です。前者は急性期病院での入院日数を短くし、患者をできるだけ早く回復期や慢性期の病院に転院させ、さらに在宅に移すことで医療・介護給付を目指しています。後者は自助や互助を中心に、住まい、医療や介護・福祉サービスと併せて、住み慣れた地域で高齢者を支えるシステムを実現するものです。いずれの施策も達成のためには、在宅医療・介護サービスの提供体制の整備が必要となります。なお、在宅とは自宅だけでなく、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅なども含んでいます。
─在宅医療・介護ではどのようなことが問題になっていますか。
豊田 国策による在宅医療・介護サービスの急激な増加が予想されるため、そのために必要な医療や介護・福祉などの地域資源の整備が必要です。早期退院後の療養に必要な医療・介護サービスが受けられる体制も現状では不十分で、多くの課題が残されています。
第一の課題は、在宅医療を担うかかりつけ医の不足です。次に、介護職員の不足、介護支援専門員の質と研修の確保なども課題です。さらに、患者さんが在宅療養中に病状が急変した際、入院治療が円滑に可能な体制の整備があれば安心ですが、受け入れ先の病床が探せず、やむなく在宅療養を続けそのまま看取りを迎えることを強いられかねないのが現状です。そもそも在宅療養の選択は、患者さんやご家族の意思や希望が優先されるべきで、医療や介護の費用を抑えるために、国民が望まない在宅療養・看取りの場の選択を強制するのは、国家財政策としても国民福祉のあり方にとってもおかしいものです。在宅医療元年などと喧伝し推進する国の施策の目的は、医療・介護などの福祉サービスの削減・後退にあります。安易に財政赤字を減らすために福祉サービスを抑制することが正しい施策といえるでしょうか。このように多くの問題を抱えた在宅医療・介護について、患者さんやご家族、在宅療養関係者のみなさんは、どこに相談すればよいかお困りのことと思います。そこで兵庫県医師会はその受け皿として、兵庫県在宅医療・介護支援センターを開設しました。
─兵庫県在宅医療・介護支援センターとはどのようなものですか。
豊田 在宅医療連携を支援するために、平成27年に開設しました。兵庫県医師会が事業主体として、兵庫県の基金を活用し、兵庫県医師会館の1階に設置しています。主な業務は「在宅電話相談ひょうご」の運営、ホームページによる情報発信、フォーラムや研修会などの情報提供などです。
─在宅電話相談ひょうごについて教えてください。
豊田 在宅療養中の患者やその家族はもちろん、在宅療養の現場で働く関係者などからも、さまざまな相談を電話で受け付けており、気軽に利用できる相談窓口を目指しています。祝日と年末年始を除く月曜~金曜の10時~16時まで、看護師やソーシャルワーカーが電話で対応し、担当医師と常時連絡の上、相談内容に応じたお返事やアドバイスをおこなっています。(専用電話番号078・252・2828)
─電話相談ではどのようなことを相談できますか。
豊田 在宅医療や在宅介護に関するすべてのご質問やご相談にお答えするようにしています。ただし、即答できかねる内容には、後ほどお返事する場合もあります。平成27年11月2日~28年4月15日の間に計238件のご相談があり、具体的な相談内容としては、在宅医療・介護が必要になるのはどんな時なのか、在宅で受けられる医療や介護のサービスについて、認知症の介護について、往診や訪問診療を依頼できる医療機関について、在宅でのケアプランについて、退院後の療養について、在宅医療と介護の連携についてなどとなっています。在宅療養でお困りの際には、ご気軽に、「在宅電話相談ひょうご」をぜひご利用ください。