11.06
WEB版スペシャル・インタビュー|『ゴジラ-0.0』 東宝プロデューサー 岸田一晃さん
1954年の誕生以来、実写版で通算31作目となるゴジラシリーズの最新作『ゴジラ-0.0(ゴジラマイナスゼロ)』が11月3日、日本で封切られた。北米を始め順次、世界各国でほぼ同時期に日本の大作映画が公開されるのは邦画史上初の試みとなる。ゴジラシリーズは新作が公開される度に世界を〝驚愕〟させてきたが、今回は過去最多となる約100カ国での上映が決まっている。前作『ゴジラ-1.0』の企画段階から山崎貴監督を支え、共に構想を温め、練りあげてきた東宝の岸田一晃プロデューサーに〝製作秘話〟を聞いた。
〝待望〟から生まれた〝続編〟が切り拓くゴジラの〝進化〟
続編への軌跡
今から3年前。2023年に公開された実写版の通算30作目となる『ゴジラ-1.0』は国内外で大ヒットし、翌年、映画祭の世界最高峰「第96回アカデミー賞」の視覚効果賞に輝いた。日本だけでなくアジアの映画界にとって初となる快挙だった。
「賞を狙っていた? いえ、まったく想像もしていませんでした」と岸田さんは否定すると、こう続けた。「アカデミー賞はノミネートから何段階もの審査の過程を経て決まることを初めて知りました。長い東宝の歴史のなかでも貴重な経験をさせてもらえた。ゴジラによって得たこの知識を、東宝だけでなく今後の日本映画界へ引き継ぎ生かさなければ、と思いました」
日本での興収が76億5千万円を超える大ヒット作となったが、「製作時には、今回の続編の構想はまったくなかった」ことも岸田さんは明かした。
最新作も前作と同様にテーマは普遍的だ。
終戦直後に現れたゴジラと日本人とが対峙する光景を、スケール観あふれる映像で描き、人間の生き方を問う。考え抜かれた物語の流れ、細部に徹底された構成は、前作で残されたままの〝謎〟を解き明かしながら受け継がれ、かつ、世界観はより壮大さを増している。
それだけに「続編は考えていなかった」という言葉が、にわかには信じられなかった。
そう問うと、岸田さんは〝奇跡の連鎖〟のように続編が誕生する経緯を教えてくれた。
2023年5月末。
「初号試写(映画関係者のための初めての試写)直後の関係者たちの感想、反応が普段とは大きく違ったんです」
岸田さんは、関係者たちが興奮気味に語る感想を聞き逃さなかった。
口々に語っていた「早く続編が観たい」という声だ。
「これは、続編を作らなければならないな
…。プロデューサーとして、すぐに、そう覚悟しました」と岸田さんは語る。
そして、その年の11月3日。
「公開初日の〝ゴジラの日〟に正式に続編の製作が決まったんです」
初日の全国の劇場の観客から続々と伝わってくる、かつてない反応、続編への期待の大きさが、『ゴジラ-0.0』の製作を東宝が決定する最大の原動力、決め手となったのだという。
進化し続けるVFX
《舞台は1949年、日本。
終戦直後の焼け野原となった日本に現れたゴジラとの戦いを終えた元日本海軍航空隊の操縦士、敷島浩一(神木隆之介)は、東京・銀座でゴジラの襲撃に遭遇しながらも、一命を取り留めた典子(浜辺美波)と夫婦となり、戦災孤児の明子を育てながら、3人で平和に暮らしていたが…》
前作と同じく山崎監督が脚本を執筆し、VFXも担当している。
『スター・ウォーズ』をはじめとする製作で、これまで米アカデミー賞の視覚効果賞部門は、ジョージ・ルーカスが創設した世界を代表する特殊効果、視覚効果の制作会社「ILM」(インダストリアル・ライト&マジック)のほぼ独壇場だったが、これに風穴を開けたのが、山崎監督が創設メンバーとして牽引してきた、日本を代表する映像制作会社「白組(しろぐみ)」だ。
「今回は日本で初めてとなる、IMAXの最高峰の規格(「Filmed For IMAX」)に対応した作品として製作しています」と岸田さんは説明し、「〝山崎組〟がつくりあげた、前作を凌ぐ最新のVFX映像を巨大なスクリーンで堪能してほしい」と自信をこめた。
「例えば海の波の描写です」
波の描写はVFXのなかでも、とくに〝CGクリエーター泣かせ〟の最難関の描写の一つといわれてきた。
「実はCGの波の映像は一粒一粒が詳細につくられ、それらが構成されてできています。前作は計約2億個の粒で波をつくっていたのですが、今回はその10倍、約20億個の粒の構成で波がつくられているのです」
劇中、登場する兵器も、徹底して史実に基づく山崎監督独特のこだわりが貫かれている。前作では終戦直後に残存していた日本海軍の〝幻〟の戦闘機『震電』や、数々の海戦を生き抜いた〝奇跡〟の駆逐艦『雪風』などが登場し、ゴジラと戦った。
今作では実在した米海軍艦上攻撃機A-1『スカイレイダー』や、日本海軍の大型飛行艇『二式大艇』などが登場する。
『スカイレイダー』の機体や翼の色彩はジュラルミンがむき出しになった銀色が特徴的なのだが、「実はこの銀色に放つ光沢、輝きをCGで表現することはとても難しいのです。上空を飛行すると太陽光で翼の銀色がきらきらと反射するのですが、この困難な壁に挑んだVFXの描写にも注目してほしい」と岸田さんは話す。
さらに、進化した音響効果も要注目だ。
「前作では、迫力あるゴジラの咆哮などを作り出すためにスタジアムを借り切って録音作業を行いましたが、今回はさらに迫力が増しています。山奥のダムを使って録音作業を行いましたから」
最新のコンピューターを駆使して映像を製作するなかで、デジタル技術を最大限生かすのが、山崎組の〝得意技〟なのだが、一方で、現実にある巨大な都会の建造物であるスタジアムや、大自然の山奥にあるダムまでスタッフが出かけて行き、音を録音する。
「デジタル技術は使うが、決してアナログの技術を捨てたわけではなく、いい作品をつくるためなら、アナログのアイデアも積極的に採り入れていく。これが、山崎組の映画作りの姿勢です」
ヒットや賞レースを狙って作る作品は、「必ずどこかで〝クリエイティブが濁ってしまう〟。ヒットや賞レースではなく観客のために作る。それが最もクリエイティブの世界に求められている大切な姿勢であると思っています」と岸田さんは語る。
そしてVFXだけでなく、今作で「とくに注目して観てほしいのは、大きなテーマの柱となっている〝人間ドラマ〟」であることも強調した。
この言葉を裏付けるように今作では強力なキャスト陣が敷かれている。前作で敷島とともにゴジラと戦った元日本海軍技師、野田健治役の吉岡秀隆が続投し、さらに、新たなキャストとして、気象予報官、青山眞琴役で長澤まさみが、生物学者、村上教授役で田中泯が加わり、しっかりと脇を固め、重厚な人間ドラマを織り成していく。
ゴジラを背負う責務と覚悟
岸田さんは大阪府の出身。兵庫県の関西学院大学を卒業後、2013年に東宝に入社した。
「もの心ついたころから映画が大好き」で、ゴジラシリーズで最初に映画館で観たのは『ゴジラVSデストロイア』(1995年)だった。
「スクリーンで暴れるゴジラが恐くて、母親にしがみつきながら映画を観て」以来、「ゴジラ映画の魅力に惹かれてきた」と言う。
それだけに、「東宝に入社したからには、いつか、自分の手でゴジラ映画をプロデュースしたい」。そう心に決め、入社からちょうど10年後に公開される『ゴジラ-1.0』で初めてゴジラシリーズのプロデューサーを務めることになったのだ。
山崎監督と初めて一緒に仕事をしたのは、第二次世界大戦下、戦艦『大和』の建造をテーマにした映画『アルキメデスの大戦』(2019年)でプロデューサー補を務めたときだった。
当時、撮影が進む現場では、ある一本の大ヒット映画の話題で持ちきりだったという。
ゴジラシリーズの最新作『シン・ゴジラ』(2016年)だ。この大成功の後、「〝次のゴジラ〟を任される監督は誰なのか?」と。
日本映画界で〝この期待の声〟が広がるなか、『アルキメデスの大戦』の製作現場で、「次は山崎監督しかいない…」。そう構想していた一人が、岸田さんだった。
そして、映画『アルキメデスの大戦』の公開初日。2019年7月26日は岸田さんにとって特別な日となった。
この日、東宝の上司のプロデューサーから、「次のゴジラのプロデューサーをやってみないか」と初めて伝えられたのだ。
山崎監督から『アルキメデスの大戦』の公開後、すぐに、岸田さん宛てにプロット(企画書)が送られてきた。
届いたプロットを読んでいて胸が震えた。
終戦直後を舞台にした『ゴジラ-1.0』…。
「こんなゴジラは、これまで観たことがない。世界が驚くことになるぞ…」
岸田さんはプロデューサーとして、そう確信したという。
この確信は現実のものとなり、〝ゴジラ・プロデューサー〟として2本目となる今回の続編へとつながっていく。
前作から2年後。戦後の日本を舞台に〝マイナス1からマイナス0〟へと向かう世界が続編では描かれる。
「無(ゼロ)には戻れない」。そんな〝マイナスゼロ〟の世界とはいったい何を意味するのか?
戦争、核…。
平和への願い、祈り…。
「70年以上、ゴジラが作り続けられてきたことには、きっと理由がある。ゴジラがずっと、〝それら〟を問いかけてきたからではないでしょうか」
VFX技術の更なる革新や、世界約100カ国での同時公開など、ゴジラで切り拓いてきた日本映画の挑戦はまだまだ続くが、「次のゴジラですか? 正直に話します。まだ、何も決まっていません」と岸田さんは笑った。
文=戸津井康之

敷島浩一役の神木隆之介(右)と典子役の浜辺美波(左)
© 2026 TOHO

野田健治役の吉岡秀隆(右)と青山眞琴役の長澤まさみ(左)
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キングギドラの造形は圧巻だ
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操縦シーンの打ち合わせをする山崎貴監督(左)と神木隆之介(右)
© 2026 TOHO












