10.26
WEB版エンタメ情報|
映画『男ともだち』
監督三島有紀子さん
人が人に寄り添うってなんだろう
目を逸らさずに考えたかった
出会った頃から自分のことを深く理解してくれる“男ともだち”と主人公がともに過ごした“3つの夜”を描いた映画『男ともだち』が公開される。原作は千早茜の同名小説(『男ともだち』文春文庫)。
自らがこの小説に惹かれた三島有紀子監督は、「言葉にできない感情を描きたかった」と話す。作品に込めたメッセージを聞いた。
京都に暮らすイラストレーター神名(松岡茉優)は、30歳を目前にし、人生に静かな行き詰まりを感じていた。絵本で賞を獲り、脚光を浴びたのは何年も前。最近は無茶なクライアントワークに神経をすり減らし、惰性や不毛な恋愛に逃げる日々を送っている。そんな時、出会った頃からなぜか自分のことを深く理解をしてくれる“男ともだち”ハセオ(成田 凌)と7年ぶりに再会。2人の時間が動き出す。
―映画制作のはじまりを教えてください。
この本に出会ったころ、今度映画を作るなら、物語を語るのではなくて、いろんな感情を掬いとれるような映画を作りたいと思っていました。
千早茜さんの『男ともだち』は、物語の展開としてはそんなに大きな事が起こるわけではないけれど、感情の流れは激しく動く。映画でしか表現できない方法でこの感情を描きたいと思いました。
―どんな場面で、そう感じたのですか?
「自分の人生を生きられていない」と思う時期って誰にでもあると思うのですが、主人公の神名は、まさに自分らしく生きられていない苦しみの中にいる。そんなときに、学生時代の男ともだちと再会するんです。彼との時間をきっかけに、彼女が求めているものは何か、何を大事にしているのか、そういう見えないものを獲得していく。彼女の感情の流れに惹かれました。
―「ともだち」ではなく「男ともだち」。
そう、男ともだち。人によって感じ方は違うみたいですね。恋愛感情は本当にないの?や、異性のともだちは成立しないと言う方もいます。
私は男ともだちが多いので、男か女か、異性であること、恋愛対象であるかどうかは関係ないと思う方です。名前のないちょっと湿った関係があってもいいのでは?このタイトルがやがて意識されなくなっていくような映画になればいいなと思っています。
仲のよかった男ともだちが亡くなって、異性のともだちをもういちど捉え直してみたいとも思いました。追悼の気持ちも込めて。朝まで隣をただ、歩く方法で救ってくれた友人でしたから、人が人に寄り添うってなんだろう…。というところを見つめたいと考えました。
―近くにいる人が、必ずしも寄り添っているわけではないですね。
例えば夫婦でも恋人でも友人でも、どんな関係も絶対ではないですよね。言葉にできない関係性の中に豊かさがあると思うんです。
例えば、家族じゃないけど、いつも一緒にいる人。家族より何でも話せて、ともだちより深い、かけがえのない存在。名前はつけられない。
感情もそうです。悲しい、嬉しいだけでなく、なんと表現して良いのかわからない、言葉にできない感情ってあるでしょう?それがずーっと心に残っていたりする。
映画ではそういうこと、わざわざ言葉にしなくてもいいことを描くことができる。
言葉にすることにはプラス面とマイナス面があって、言葉にすると安心するけれど、それによって失っているものもある気がするんです。
―松岡さん、成田さんには、2人の関係性をどんなふうに伝えましたか?
2人とはそれぞれとたくさん話をしました。直接は関係ないこともたくさん。
神名に関しては、全体のイメージよりも、このシーンはこんな風に捉えたいという「具体」で形作っていった印象です。松岡さんを心から信頼していましたし、わたしのこともとても信頼してくださっていたので、幸福な関係の中でお芝居を組み立てていけたと思います。
成田さんとご一緒するのは二度目なんですが、ハセオについては、ヴィム・ベンダース監督の映画『ベルリン・天使の詩』の天使みたいな存在だったり、生きている世界が違うくらいの距離感で見守っている感じがいいのかもしれないとお伝えしました。それから、どんな服を好むのかなというところでは、職業や映画や本の好みでイメージを膨らませていったり、髪を短くもしてくださいました。
成田さんはずっと考えていてくださり、自分の中に生まれたお芝居を、現場で出してくれました。それは、想像をはるかに超えた豊かな表現で、とても幸せな気持ちになりました。
―神名には一緒に暮らしている恋人がいて、彼も寄り添ってはいますよね。
そこについては男性の感想がおもしろくて、「なんで彼氏はあんなに彼女を大事にしてるのに浮気されるんだ」「食事も作って掃除もしてるのに報われない」などなど(笑)。
ほんとその通り。確かに優しい。毎日一緒にいて、健康への気遣いまでしてくれるんだからありがたいことです。でも違う。神名がほしいものではないんですよ。これは仕方がない。優しさってなに?寄り添うってどんなこと?という問いにつながります。
対して、ハセオは彼女をわかってる。何が彼女を満たすのか、何を求めているのか。じゃあどうしたらいいのか。自分には何ができるのか。何年も会っていなかったのに…。
―そこは映画を観て感じてほしいところですね。
そうですね。人物の心のさまを感じてほしいです。
“感じる”を演じるのは、役者さんにとって本当に大変なことです。みんなが、細かな感情の変化を一筆書きのように繊細に演じてくれています。近況報告ひとつにしても、彼らは何も説明していない。まったく関係のない短い会話の中に、それが含まれます。とても複雑ですが、できるだけ複雑に、説明できない感情を表現してほしい、そういうことに挑みたいと話をしました。
なんて過酷なお願いなんでしょう(笑)。
―でもリアルです。会話するって複雑だと思います。
「お前、俺がおってよかったね」。
ハセオは言うけど、あらゆる感情が複雑に絡み合っている…。
松岡さんも成田さんも、心の芯が表現者なんです。表現する者の業を持ち合わせている役者さんだから、この映画を成立させてくれた気がしています。この世にいない神名とハセオを生んでもらえて、本当に心から幸せな監督だと思います。
そのために、私たちはできるだけいい環境を整えたいと思いました。福井、京都、広島の美しい風景と風や虹や雨といった自然現象が、彼らの表現に彩りを添えてくれたと感じています。
―“真が表現者”なのは監督も同じだと思います。
神名と一緒に救われたかもしれません。
小説を読みながら、神名はどんな絵を描くのかなと思っていました。映画の中で絵画制作をお願いした田中千智さんの制作風景を見せていただいたら、白いキャンバスを真っ黒に塗りつぶすところから始まりました。ハッとして、自分でも台本の裏を真っ黒に塗ってみた。そうしたらなんだかとても気持ちよくて、「ああ、闇から始めてもいいんだ…」と発見がありまして、とても楽になったんです。
もっと言うと、闇の存在を認めなければ始まらないんだ…。
自分の闇ってなんだろうと考えた時に生まれたのが、前作『一月の声に歓びを刻め』です。長い期間見つめてきたテーマをようやく撮ることができました。
―神名の絵は、監督にとっての映画ですね。
神名が自分の弱さを描かないと次に進めない…と覚悟を決めて制作を始めるシーンには、自然に強いメッセージが込められました。闇の中にいても、そこからまた始めることができる。だから自分のために描く。神名が未来にむかうシーンです。
私はその絵がとても気に入っています。それを見てくれる人々に届ける。
言葉にできないもの。撮れたかな。
そう思えたラストシーンでした。
text.田中奈都子
『男ともだち』
監督:三島有紀子
原作:千早茜 著「男ともだち」(文春文庫)
脚本:澤井香織
絵画制作・指導・提供:田中千智
出演:松岡茉優 成田 凌
井上祐貴 中島歩 咲妃みゆ 三浦貴大
辻󠄀凪子 中山求一郎 比喩根(chilldspot)
余貴美子 池畑慎之介
劇中歌:chilldspot「lost child」(RECA Records)
2026年11月68日(金)より全国ロードショー
公式HP
https://happinet-phantom.com/otokotomodachi/















