03.01
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第五十八回
病児・病後児保育について
兵庫県医師会理事
渡辺 志伸 先生
─病児・病後児保育の背景や経緯などについて教えてください。
渡辺 近年、経済的理由や女性の社会参加意欲の向上などにより、子育て中も仕事を持つ女性が増えており、核家族化が進む中で保育のニーズが高まっています。しかし、子どもが病気になった時には一般の保育所では受け入れが困難なため、保護者は仕事を休まざるを得ません。そのような状況の中で、子どもが病気になった時でも仕事との両立を手助けしてくれる病児・病後児保育の充実を希望する子育て女性は少なくありません(図)。また、アベノミクス「新3本の矢」のひとつに子育て支援が挙げられましたが、その一環として病児・病後児保育の充実も提言されています。わが国では昭和40年代の半ばに地域レベルの取り組みとして、小児科医院などが中心となり病児保育室が設置されました。その後、少子化の進行に対して、国レベルでの取り組みがはじまり、実施主体を市町村として病児・病後児保育事業(子どもの病気に対して、家庭での保育が困難な場合に病院・診療所・保育施設などで保育をおこなう事業)が進み全国に広がっています。平成25年度の調査では病児・病後児保育事業の補助金を受けている施設は全国で1610施設になっています。兵庫県でも平成27年9月の時点で46施設と少しずつ増えていますが、人口密度などさまざまな地域の事情があり、思うように進んでいない地域もあります。
─対象となるのはどのような児童でしょうか。
渡辺 次の4つの類型があります。「病児対応型」は病気の回復期に至っていないが入院加療の必要がない児童で、市町村が認めた乳児・幼児または小学校に就学している児童を対象にしています。「病後児対応型」は病気の回復期で症状が比較的安定している児童が対象で、年齢的には「病児対応型」と同様です。「体調不良児対応型」は事業実施保育所に通院している児童が保育中に微熱を出すなど体調不良になった場合に、保護者が迎えに来るまでの間、緊急的な対応を必要としている児童を対象にしています。「非施設型(訪問型)」は病児・病後児の子どもが対象ですが、当該児童の自宅での保育になります。
─病児・病後児を受け入れる施設にはどのようなものがありますか。
渡辺 病児・病後児ともに、病院・診療所、保育所などに併設された専用スペースが保育の実施場所になります。施設には専用の保育室や感染症に対応できる観察室または安静室、調理室などが必要で、利用児童数による看護師、保育士の人員配置の基準も定められています。
─利用する場合の保育料や利用時間について教えてください。
渡辺 現在、病児・病後児保育は、国や都道府県、市町村の補助により実施されていますが、それだけでは賄いきれず運営費として利用者の負担が必要になっています。負担額は市町村によって異なりますが2000円前後が多いようで、神戸市では基本的に子ども1人あたり1日2000円(食事代などは別途)です。利用時間や休業日などは市町村や施設により異なりますが、保護者の勤務時間にあわせた時間帯で実施していますので、各市町村にお問い合わせください。
─利用するためにはどのような手続きが必要ですか。
渡辺 まずはかかりつけ医や各施設に併設する診療所で診察を受け、その際に病児・病後児保育を利用する旨を告げて、医師連絡票を記入してもらいます。その後電話などで申し込みをおこない、連絡票を提出の上、各施設の基準に沿って預けることになります。子どもの病気は感染症が多く、流行時期は満室となり預けられないこともありますのでご注意ください。
以上、国が実施している病児・病後児保育事業を中心にお話しいたしましたが、これを補完するような形での民間を含めたサポートもはじまっています。病気の子どもを預ける場合の最も重要な点は「安心・安全」です。この点において医療機関との連携は重要で不可欠なものだと思います。