8月号
桂 吉弥の今も青春 【其の二十七】
先輩がたのお話し
七月一日に京都南座で『桂米朝一門会』があった。私は二つ目の出番で他は佐ん吉、塩鯛、雀松、中トリが南光、トリがざこばという会だ。南座は会場が大きいということに加えて二階三階と上に上にお客さんがいらっしゃるので拍手も笑い声も自分の頭の上から降ってくる。そんな会場は他にない。南座というだけでちょっと構えているところもあって、なかなか普段の落語のやり方ができなかったりする。弟弟子の佐ん吉と私は頑張ってお客さんを掘り起こすように「こっちを向いてくださいよ、落語始まってまっせー」という気持ちで喋っていた。もちろん笑っていただいているがこちらもお客さんもまだ緊張が解けていない、よそ行きの雰囲気。自分の出番が終わって舞台袖で先輩方の落語を聴いて勉強、「普通に楽に落語してはるなあ」と思う。トリのざこば師匠まで南座の客席はおおいに笑い、お客さんは大満足の一門会になった。
南座は舞台が一階で楽屋が三階にある。トリのざこば師匠が舞台袖に降りて来られた時に「お茶が無いなあ」と思ったので、三階の楽屋まで上がって熱いお茶を氷水とを用意した。普段はお弟子さんがついているのだがその日はたまたまお一人だったのだ。おぼんにのせてざこば師匠のところに持っていくとニヤケながら驚いた顔をして「気色悪いなあ」と一言。「吉弥が俺にこんなんしてくれたこと無いがな」。「いや、お茶は入れたことありますやん」「お前、なんか下心あるやろう」「そんなんありませんって」「ほんまかあ?やっぱり気色悪いなあ」と笑う師匠。周りのスタッフも笑い、つられて笑う私。雀松師匠の噺が終わってざこば師匠の出囃子・御船(ぎょせん)が鳴ると、お茶を二口ほど飲んで私に「おおきに」と高座へ上がっていかはった。そしてさっきまで私達と喋っていたのと同じトーンでマクラから『らくだ』へ。お客さんは油断する、緊張する間もない。ざこばさんはいつものざこばさんやと心を許して聴いているうちにいつの間にか落語の世界に入り込んでしまっている。南座の客席に座っていることも忘れ、らくだの長屋の世界の一人になってしまっている。落語を聴いているというより目の前で実際に起こっていることを見ているような不思議な感覚をお客さんは味わっていたと思う。
七月五日に大阪のホテルで六代桂文枝襲名披露パーティーが1200人のお客さんで一杯のなか開かれた。ざこば師匠とも挨拶し、手に持ってはる水割りのグラスが少し傾いていたので、そっと私の手を添えて真っすぐに直したら「吉弥お前、やっぱり何ぞ考えてるやろう」。周りの噺家もその言葉を聴いて吹き出した、もう師匠と私のやりとりがコントみたいになっている。
舞台上には文枝を襲名する桂三枝師匠。今までの感謝とこれからの決意が溢れていて、パーティーとはこうあるべきという気持ちのいいものだった。「夢は若者の言葉ではない、夢は挑戦するものの言葉である」という文章を紹介し、まだまだしんどいことをやっていくと挨拶をしてしめくくった。
こんな感じで私の周りにはすごい先輩方ばかりいる。面白くて優しくて力があって前進し続ける、私もそういう生き方をしなければいけないなと最近強く思っている。
KATSURA KICHIYA
桂 吉弥 かつら きちや
昭和46年2月25日生まれ
平成6年11月桂吉朝に入門
平成19年NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」徒然亭草原役で出演
現在のレギュラー番組
NHKテレビ「生活笑百科」 土曜(隔週) 12:15〜12:38
MBSテレビ「ちちんぷいぷい」 水曜 14:55〜17:44
ABCラジオ「とびだせ!夕刊探検隊」 月曜 19:00〜19:30
ABCラジオ「征平.吉弥の土曜も全開!」 土曜 10:00〜12:15
平成21年度兵庫県芸術奨励賞