6月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第八十四回
神戸市垂水区で活動するエナガの会
劇を通じて啓発と多職種連携を
NPO法人エナガの会理事
介護老人保健施設 名谷すみれ苑施設長
百道 敏久 先生
─エナガの会はどのような経緯で発足しましたか。
百道 超高齢化時代を迎え、医療費削減の一環で早期退院が求められて在宅療養も増えており、平成12年には介護保険制度が成立して地域包括ケアシステムの整備などが進められ、地域全体で高齢者の医療や福祉を支える方向に進んでいます。このように医療・介護・福祉の連携がますます重要になりつつある一方で、特に医師やケアマネージャーとの連携が難しいという現実がありました。そこで、それぞれの職種をお互いが理解し強い繋がりをつくろうと、垂水区内の病院の医師、クリニックの医師、看護師、歯科医、薬剤師、ケアマネージャー、訪問介護士などの有志10数名が集まり平成21年に発足しました。
─「エナガ」とは何ですか。
百道 鳥の名前です。身近なところにいる小さな野鳥ですが、助け合って子育てをすることから「ヘルパーバード」ともよばれています。エナガにみんなで助け合おうという思いを重ね合わせています。
─これまでどのような活動をしてきましたか。
百道 発足当初は月に1度テーマを決め勉強会を開催し、講師を招いたりメンバーそれぞれが自分の専門分野のことを話したりして相互理解を深めました。やがて一般の方に啓発しようと平成22年6月と翌年の2月に講演会形式で市民フォーラムを開催したのですが、アンケートの結果、参加者の理解がなかなか進んでいないことが浮き彫りになり、ベースとなる基礎知識がないと内容が心に残らないのではと考え、当時の長田区医師会会長の久次米健市先生にお願いし平成23年9月のフォーラムでプログラムに劇を採り入れたところ「面白い」「わかりやすい」と好評だったこともあり、以降、自分たちで演劇を手がけるようになりました。垂水区では平成28年4月に医療介護連携を目指すべく神戸市の医療介護サポートセンターが立ち上がり、それに関し国から提示された8項目の目標の中に地域住民への普及啓発があったので、平成28年からエナガの会のフォーラムはサポートセンター主催となり今日に至っています。運営や内容は変わりませんが、参加者は増えています。
─演劇でどのようなテーマを採り上げましたか。
百道 平成24年7月から自前で劇をしています。最初は「退院を告げられたら・・・私たちが支えます」というテーマで、病院で退院を告げられた後の在宅介護について市民のみなさまにお伝えしました。以降は退院、介護予防、認知症サポーター、終活、施設見学、認知症にやさしいまちづくりの提案などを採り上げました。
─自分たちで劇をすることでどんなメリットがありましたか。
百道 まず、市民にわかりやすく地域包括ケアについて伝えることができることが大きなメリットです。アンケートの結果でも反応が良く、参加者も倍増しました。主治医や担当ケアマネージャーなど知っている人が出演していて親しみやすいということも受けているようですね。そしてもう一つ、劇は出演のほかシナリオやテーマ曲の制作、大道具小道具、照明などすべてを自分たちでおこなっています。上演が近くなると火曜の夜に稽古をしますが、時には深夜に及ぶこともあります。みんなで手づくりすることでメンバーが同じ目標に向かって団結し、「顔の見える関係」と絆が生まれます。職種に関係なく一人の人間として付き合っていくことができるので、現場でのやりとりもスムーズになり、それが患者やサービス利用者にとって大きなプラスになっています。
─今年の2月にNPO法人になりましたがなぜですか。
百道 フォーラムが医療介護サポートセンターの主催となり神戸市がバックについたので、内容がある程度限定されてきました。一方でメンバーが増え多彩な人材を擁するようになるとともに、これまでの事業でノウハウも蓄積され、活動の可能性が広がってきています。このような状況で会の活動を継続し発展させていくために、そして任意団体として実践してきた活動をさらに地域に定着させていくために法人化することとなったのですが、他地域の行政や関連団体との連携のためには社会的に認められた公的な組織であることが必要で、活動目的が営利追求ではなく多くの市民に参加していただくことにあることから、NPOになりました。
─劇のほかどのような活動をしていますか。
百道 垂水区以外の地域でも演劇をするようになってきましたので、スタッフを派遣するなどのお手伝いをしています。これまで北区や淡路市で実績があります。また、研修請負や講師派遣、地域づくり支援などの事業もおこなっています。
─課題はありますか。
百道 医師の会員が十数名と少ないことです。エナガの会の究極の目的は地域包括ケアシステムの構築にあり、多職種の「顔の見える関係」づくりにあります。法的にはケアマネージャーがケアプランを立てるのですが、一人だけでは判断が難しいのです。ですから多職種で一緒にプランを立てるのですが、医師は面会や連絡が難しいこともあり意見を求めるのにも苦労することが少なくありません。しかし、「顔の見える関係」なら頼みやすいですよね。ですからもっと医師や医療関係者に参加してほしいと思います。
─今年のフォーラムはいつですか。
百道 11月25日(日)に垂水のレバンテホールで開催予定です。みなさまぜひご来場ください。