2018年
6月号

大阪財界人の誇りがここに 大阪倶楽部

カテゴリ:建築, 経済人

一般社団法人 大阪倶楽部 事務局長
岸本 晴夫 さん

大正元年(1912)、大阪財界の有識者が集い、会員制社交クラブ『大阪倶楽部』を創設。
集いの礎が築かれた。倶楽部会館の設計は、安井武雄氏。
「大阪の近代名建築」のひとつといわれ、100年の時を経て今なお、現役で利用されている安井氏の「自由様式」の代表作となる大阪倶楽部を訪ねた。

社交クラブは近代化の証

 18世紀くらいからマレーシアやシンガポール、香港など東南アジアの各国がヨーロッパの植民地にされたことはご存じだと思いますが、その時にヨーロッパの人間が自分たちの文化を植民地に持ち込んできた訳です。ところが、幸いにも日本は植民地になりませんでしたが、イギリス女王ヴィクトリアの「社交クラブのない国は野蛮な国」という発言を受け、明治天皇が伊藤博文にヨーロッパでの視察を命じたようです。
 ヨーロッパはレディーファーストの国なので女性を前にしての政治談義や喫煙、飲酒は御法度だったようで、男たちが自由気ままに過ごせる場所が望まれたのですね。男のための組織体として出来たのが社交クラブのようです。
 帰国後、最初に交詢社、その後東京倶楽部、鹿鳴館ができたのですが、大阪にはありませんでした。しかし、当時の大阪は人口120万人と東京に匹敵する規模を誇り、当然、大阪にも社交クラブをという声があがって、大正元年(1912)に大阪倶楽部が創設されました。創設にあたっては住友の第3代総理事の鈴木馬左也さんらが尽力したと伝えられています。

安井武雄の知恵と意匠

 倶楽部ができた翌々年、初代の会館が建てられました。野口孫市さん(中之島図書館設計者)と長谷部鋭吉さん(三井住友銀行本店設計者)の設計で、木造でした。しかし、大正11年(1922)に焼失してしまいます。
 そして大正13年(1925)、2代目となる現在の会館が建てられました。芦屋の滴翠美術館を手がけた安井武雄さんの設計で、施工は大林組です。
 戦災を乗り越えいまも残っているのは、設計者がちゃんとしていてくれたからでしょう。大阪大空襲では建物のほとんどが焼夷弾で焼けてしまったのですが、安井さんは窓に鉄製のシャッターを設けるなど、火の手が入らないような設計をしていたのですよ。ちょうど初代の会館が焼けた翌年、関東大震災があったんですね。関東大震災では火事の被害が大きかったというところを見聞きして、その対策をこの大阪倶楽部にも施したのではないかと思います。
 建物は細部に至るまで装飾がなされ、大正のモダニズムを伝えています。天井の梁などは全室意匠が違うのですが、たぶんすべてのエリア・部屋を違う雰囲気でつくりたかったのではないでしょうか。昔のメンバーは資産家の実業家が多かったので、金に糸目をつけず、什器や備品もヨーロッパで買い付けたものらしいです。
 しかし戦争直後は進駐軍に接収され、中はペンキで塗られ、豪華な調度品も進駐軍に粗雑に扱われ使い物にならなくなったそうです。
 本来社交倶楽部は、大広間、自前の食堂、ビリヤード場の3つが揃ってはじめて社交クラブと位置づけられました。やはりジェントルマンの館ですからね。ビリヤード台のひとつは、ここのメンバーでもあった実業家の加賀正太郎さんの別荘、京都の大山崎山荘にあったものを昭和28年(1953)に移設されたものです。加賀さんが寄贈してくださったものです。もう100年くらい前のものでしょうが、誂えが良いのでいまも現役です。
 当倶楽部は基本的に一般の方々はご利用に制限があります。定期的に公開見学会を行ったり、4階のホールはコンサートや各種講演会、結婚式場などとして一般の方にもお部屋をご利用頂いています。

講師も師匠も一流どころ

 現在の活動での一番の特徴は、毎週水曜日に開催している午餐会講演会です。昭和27年(1962)進駐軍から返還されたのを記念してはじまり、今や3100回を数えています。その名の通り、食事をした後講演を聴きます。毎回350~400名くらいの参加があります。
 講師には毎回著名人を招いています。政治、経済、外交のほか、文化やスポーツまで幅広い内容で、お医者さんなど健康に関する講演も人気があります。しかし、現職の政治家は政治色が出てしまうのでお呼びしていません。有名な方も多くお見えになり、昨年はノーベル賞受賞者の天野浩教授や各界の著名人、柳田邦男さん、ケント・ギルバートさん、板東眞理子さん、高橋政代さん、谷川浩司さん、為末大さん、野口健さん、弘兼憲史さんなどにご講演いただきました。
 あとは同好会活動も盛んですね。ゴルフ、囲碁、小唄、長唄、詩吟、尺八、俳句、写真、絵画など22の同好会が活動しています。特に謡曲は一番歴史が古いのですが、それは昔の実業家たちのたしなみだったのでしょう。
 同好会とはいえ、やっぱりこれという師匠をよんでいます。囲碁は井山裕太名人の師匠の石井邦生九段です。謡曲でも昔は人間国宝の先生を毎回東京から招いていましたし、いまも人間国宝の梅若実玄祥先生が年に数回教えに来て頂いています。俳句ですと稲畑汀子先生が教えに来てくださいます。
 ほかにも落語を楽しむ会やジャズの夕べなど、さまざまなイベントも開催しています。

男ばっかりだから良い

 大阪倶楽部では会員を「社員」とよびます。入社資格は、まず、男性であること。大阪には5つほど社交クラブがありますが、男性しか入会を認めていないのは今やここだけとなりました。このご時世なので女性へ門戸を開くべきなのではという意見もあります。しかし、男ばかりだから良いという方が多数です。そして2名以上の社員の推薦が必要です。午餐会講演会を目的に入社される方も多いですね。
 大阪の主な財界人は業種に関係なく、ほぼすべて社員だったのではないでしょうか。設立時の株主には小林一三さん、久原房之助さん、岩井勝次郎さんなど神戸にゆかりが深い財界人もいらっしゃいます。
 大同生命の初代社長、広岡久右衛門正秋さんと加賀正太郎さんたちが中心となりいろいろな活動をしていたのですが、当時ゴルフをするには大阪から遠い六甲山の神戸ゴルフ倶楽部くらいしかなかったので、もっと近くにゴルフ場をと2人が発起人になり茨木カンツリークラブを創設したのですよ。しかもプレー後に一杯飲めるようにと、新地のクラブまでつくってしまったようですね(笑)。ちなみに大阪倶楽部には屋上にゴルフの打ちっぱなしが95年前からあります。
 社員数は、平成9年(1997)くらいが約1600名と一番多かったのです。その頃は大企業が子会社をつくった時代で、そのトップの方々が入社されたのです。それ以降は子会社が整理されるようになったこともあり、社員数は減ってきています。
 昔は企業もOBを手厚く扱っていましたが、最近はそういう対応もできず退職したら「ハイ、サヨナラ」という感じのようです。ですからリタイヤしても知識欲旺盛な方々がここへ来ていただいたら、ある意味刺激のある「第二の人生」を送ることができるのではないかと思います。企業から「卒業」した紳士の受け皿にもなれば良いですね。

大正3年竣工の初代会館。木造ながら風趣に富んだ建物だった

大阪倶楽部会館を設計した安井武雄氏

大正13年に竣工した当時の大阪倶楽部会館

撞球室。連続アーチにより視界を遮る工夫がなされている

加賀氏が寄贈したビリヤード台は、約100年も前のもの

メンバーの憩いの場となる酒場・喫茶室(1階)

3階3号会議室。映画などのロケにも使用される

3階会議室にも各室異なる意匠を施している

梁と柱の接合部分ハンチに施された意匠が美しい

玄関ホールの床は黒と白の市松模様の大理石

会館を災いから守る魔除けの『邪鬼』

インドのサラセン風のモチーフを取り入れたハンチ

社交倶楽部に欠かせない食堂

暖炉の焚き口を囲む装飾枠マントルピースも重厚感がある

倶楽部創立以来の伝統の図書室

小磯良平や児玉虎次郎の名画が壁面を彩る

花模様のステンドグラス

1階に設けられた囲碁・将棋室

4階から階下を見下ろす。赤の絨毯敷きが映える

一般社団法人 大阪倶楽部 事務局長
岸本 晴夫 さん

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • ジャガー・ランドローバー西宮 / 神戸中央 / 姫路
〈2018年6月号〉
かけがえのない生命(いのち)をジュエリーで表現 『ギメルの四季』Vol.9
輝く女性Ⅱ Vol.1 歌手・女優 西田ひかるさん
メルセデス・ベンツで旅するドイツ in KOBE Vol.11
ファンタジー・ディレクター 小山 進の考えたこと Vol.3
FARMSTAND Open !|地元の農家さんを応援したい だから、『毎週』か…
Natura♪ism Farm(ナチュラリズムファーム)| MARKET VEN…
なちゅらすFARM(なちゅらすふぁーむ)| MARKET VENDORS|FAR…
ローカルのハブとして|FARMSTAND
神戸のカクシボタン 第五十四回 湯気の向こうで輝く黄金色の具材 札幌ラーメン「み…
大阪・兵庫、地区同士で協力し、長期スパンの活動を|国際ロータリー
大阪財界人の誇りがここに 大阪倶楽部
三田と芦屋で新たなプロジェクト 住まいの美学を、次の時代へ 平尾工務店の創意と挑…
名建築から受け継ぐデザイン|平尾工務店
オーガニックハウスが未来へ 平尾工務店 三田モデルハウスⅡ
選ばれし地に新たなライトの伝説を 平尾工務店芦屋プロジェクト 分譲用モデルハウス…
音楽のあるまち♬9 旧居留地の一角で、世界最高峰のピアノと上質な音楽を
あなたらしさを、極める。|MAF|NIKKE 1896
レクサスと日本のモノづくり ②
第9代 神戸ウエディングクイーン大募集!
ベール・ド・フージェールの美しきアンティーク家具
中華料理とベトナム料理 鴻華園 下山手店|神戸の粋な店
メルセデス・ベンツ姫路 移転リニューアルオープン!
連載 神戸秘話 ⑱ 人間の善意への信頼 吉川幸次郎に学ぶ孔子の教え
設立60周年を迎えた甲南大学同窓会
ウガンダにゴリラを訪ねて Vol.8
㊎柴田音吉洋服店 150周年記念「super150」 地域への貢献のために新たな…
自然から享受した類い稀な住宅地「芦屋」
今も緑あふれる閑静な住宅街 “翠ヶ丘”
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第八十四回
harmony(はーもにぃ) Vol.4 ユーモアのセンス
神戸鉄人伝 第102回 日展会員(洋画家) 天野 富美男(あまの ふみお)さん
世界の民芸猫ざんまい 第一回
連載エッセイ/喫茶店の書斎から ㉕ 立雲狭の桜
いま長崎が面白い! 神戸空港から出かける佐世保 日本遺産「鎮守府」をめぐる旅
太閤秀吉と二つの「湯」|有馬歳時記