5月号
harmony(はーもにぃ) Vol.3 医者では治せない病
昨年7月にドイツの作家であるペーター・ヘルトリングさんが亡くなりました。83歳でした。ヘルトリングさんが一度来日されたとき、大阪でお話を聞く機会がありました。代表作に「ヒルベルという子がいた」(偕成社)という作品があり、その時、彼は親と暮らせない子どもの幸せについて語りました。この本に登場する9歳のヒルベルには父親がなく、母親はヒルベルを育てる気持ちがなかったので施設へ入れられます。そこから2度里親へあずけられますが、脳に軽い障害があるため里親ともうまくいかず、施設に戻されます。施設ではみんなののけ者にされ誰も彼の事を気にかけようとしません。ただ一人の若い保母さんが気にかけて読み書きを教えようとしますが、なかなかうまくいかず、そのうちその保母さんも結婚して退職。ヒルベルは病気だと見なされ病院に送られ、誰も彼の事を忘れてしまいます。
ヘルトリングさんは、ヒルベルは二つの病気を持っているといいます。
「一つはひきつけを起こしたりお腹が痛くなったりする病気、つまり医者が治せる病気です。もうひとつは医者では治せない病気です。ヒルベルには本気で心配してくれる人が誰もいませんでした。だからヒルベルは病気だったので、この病気の方が問題なんです。この病気はみんながそっぽを向いてヒルベルを可愛がる人がいなかったら治らない病気なんです。可愛がってくれる人が大勢いて、そういう人たちに囲まれてふつうに、あたりまえの生活ができればヒルベルも生活とはどんなものかを学べたのです。」この本を読んだ子どもたちが「ヒルベルってほんとうにいたんですか?」とたずねると、ヘルトリングさんは次のように話します。「うん、いたんだよ。だけど、ヒルベルって子がほんとうにいたかどうか、そんなことはそれほど大事じゃない。大事なのは、ヒルベルのような病院や施設で暮らさなくちゃならない病気の子どものことを君たちが知るということなんだよ。ヒルベルのような子どものことを、親身になって考えなければいけないんだ。施設が引き取ってくれると、それでもう人々は忘れてしまう。みんなの前からあっさり消えてしまうからね。」
私たちが住んでいる地域にもヒルベルは大勢いるのです。ただ、私たちが知らないか、気がつかないか、無関心なだけなのです。
公益社団法人 家庭養護促進協会 事務局長
橋本 明
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