5月号
日本一の富豪村、住吉村 広大な土地と精神を今に受け継ぐ|今も神戸に生きる 平生釟三郎の精神
多くの財界人が私邸を構えた住吉村は、かつて「日本一の富豪村」と呼ばれていた。時を経た今でも、住吉川をはじめ整った住環境で人気のエリアである。暮らし、教育、医療、娯楽などあらゆる面で貢献している住吉学園の竹田統理事長にお話をお聞きした。
水車と石材産業が中心だった住吉村
―住吉川流域にはたくさんの水車が並んでいたそうですね。
住吉村だけで88基、周辺を合わせると100基を超え、酒米、菜種油、線香、素麺などの製造に使っていたようです。直径約5メートルの水車1基に臼が24個付いて、ひとつの水車小屋を形成していました。
―何故、住吉川に集中していたのですか。
六甲山系からの川の流れが、一直線でなくY字型の住吉川は、東西から白鶴美術館の上辺りで合流しており、急流となります。また、1年間、水がかれることがなく水車には向いていました。
―良質の石材もとれたのですね。
明治中頃までは水車と石材が主な産業でした。石奉行に任命されていた佐賀の鍋島藩が屯所を置き、住吉川流域で良質な石材をとっていました。住吉川の下流は遠浅なので、隣の御影港から船で積み出していました。これが御影石です。
医療・教育の充実に貢献した平生釟三郎
―住吉村が日本一の富豪村になったきっかけは?
大阪の財界で活躍されていた平生釟三郎氏が著名な財界人の私邸を住吉村に誘致したことに始まります。当時、経済界をけん引する人たちがたくさん住み、納税額が爆発的に伸びることになりました。全国平均の年間納税額が47円などといわれるなか、住吉村の納税額は1070円と抜きん出ていたようです。
―その功績は大きいですね。
平生氏はその後、医療と教育に力を注ぎます。地域総合医療をつくらなくてはならないという先進的な考えをもち、住吉村の村長に相談されたそうです。村は診療所に必ず医師を一人派遣することを条件に、病院建設のための土地を5年間無償でお貸ししました。こうして現在の甲南病院の礎ができました。
―住吉学園が拠点を置くこの場所は観音林倶楽部会館の跡地ということですね。
日本初の地域コミュニティ「観音林倶楽部」は、今でいえばロータリークラブのような役目でしょうか、ここで甲南学園や灘神戸生協(現・コープこうべ)設立の話が行われていました。当時としては非常に先進的な考え方をもった財界人たちが集まっていたのだと思います。村会議員だけが集まって議論しても思いつかなかったでしょう。
村民のために使う財産を管理してきた住吉学園
―住吉学園が住吉村の財産を移譲され、管理することになった経緯は?
土地は100万坪、ひとつの村としては大き過ぎて、個人レベルの考えではまとめ切れないほどの規模だったのでしょうね。そこで平生先生をはじめ住人であった財界人ご指導のもと、村の財産は村で管理し、村民のため使うという決定を下したのだと思います。そういう考え方を受け継ぎ、今では住吉町だけでなく、地域のための施策に努めています。
―現在でも人気のエリアですが、その理由は?
気候が良くて暮らしやすいことが一番でしょうか。伝統的に教育に対する熱意が高いですね。少子高齢化がいわれる昨今、神戸市内の小学校の児童数が15%程度減っているようですが、このエリアでは減らず、あるいは若干増えている状況です。
―温浴施設もできますね!
平成21年に開催した住吉町民のフェスティバルでアンケートを実施したころ、「今、一番欲しいものは?」という質問の答えで55%ほどを占めたのが「温泉」でした。ちょうど、JR西日本の社宅を閉鎖するという話があり、温浴施設建設がやっと実現し、10月にオープンすることになりました。いい温泉が湧いていますので、町民の皆さんの健康のために役立てていただきたいですね。また、100年以上の歴史をもつ町内の敬老会「尚歯会」会員の皆さんの健康寿命のためにお役に立てたらいいなと思っています。
さらに、今まで働きざかりの世代のために何もできていなかったことを反省し、休みの日には家族とゆっくりくつろげる施設にしようと内容を充実させる予定です。健康福祉センターですので、甲南病院さんと連携して健康講座なども実施予定です。
―甲南病院も現在、改築中のようですね。
病床を480まで増やし、このエリアの急性期医療の中心、神戸大学附属病院の東の基幹病院として大きく生まれ変わります。
―地域住人のための新しい事業がどんどん進んでいるのですね。住吉学園としての今後の展望をお聞かせください。
地域の芸術・文化をはじめ、今後は若い人たちがもっとスポーツに親しむために貢献したいと考えています。
また、「住吉だんじり資料館」の充実を図り、併せて地域文化を紹介できる施設にする予定です。六甲山の活性化については、神戸市と相談させていただいています。例えば、日本におけるゴルフ場発祥の地となった神戸ゴルフ倶楽部も住吉学園の土地になります。この神戸ゴルフ倶楽部をはじめ、神戸市内に24もあるゴルフ場をクルーズ船で訪れる外国の方々に滞在して利用してもらおうという計画があります。住吉学園としても協力できるのではないかと考えています。
―今後も地域住民、ひいては神戸市民のためにも期待しています。本日はありがとうございました。
住吉学園 理事長
竹田 統 (たけだ おさむ)さん
1954年生まれ。近畿大学理工学部土木工学科を卒業後、竹田設備工業所入社。1993年に退社の後、同年に株式会社タケダ工業所入社。1998年より、財団法人住吉学園理事、専務理事を経て、2015年6月、理事長に就任。現在に至る