4月号
淡路島に遺る、丹下健三建築
中田 義成 (株式会社中田工務店 常務取締役)
日本建築界黄金期を代表する建築家の設計した施設が、淡路島の鳴門海峡を見下ろす小高い丘の上にあります。
丘を登るにつれ淡路の景勝地を目にする高揚感が高まりますが、施設に近づくとその重厚な雰囲気と静かな空間のため、浮かれた気分が一気に静められます。
施設は若人の広場内の「戦没学徒記念館」と慰霊塔「永遠の灯」。設計者は丹下健三。
淡路島に住んでいる人は、誰もがその施設が丹下健三という素晴らしい先生の設計だと知っていますが、島外では施設の存在すら知る人はわずかでした。戦没学徒の慰霊に対する考え方の違いから、設計者は建物が自分の設計であると公表することを拒み、自身のレゾネにも紹介されていなかったからです。しかし、デザイン完成度の高さ、建物空間構成の精緻さから建築研究者の目を逃れられず、詠み人知らずを望んだはずが、その素晴らしさゆえに設計者の姿が明らかになっていくことになります。
戦災学徒記念館の展示は、戦中の純粋でひたむきな学生たちの息吹を一息一息感じさせるものです。展示エリアは、展示内容の深刻さをより高める空間となっています。半地下を数回繰り返す空間は、石積みの壁で覆われ、だんだん暗い空間になるものの、ヴォールト天井から差し込むわずかな灯りのおかげで、観覧には支障がありません。何も説明がなくとも、設計者がスキップフロアと薄暗さを選択した意図が、展示された悲愴な内容と共にひしひしと伝わってきます。
記念館を出て鳴門海峡を感じながらしばらく歩くと、「永遠の灯」にたどり着きます。学生を象徴するペン先を模した慰霊塔です。コンクリートでできた慰霊塔を下から上に眺めると、微妙なカーブを描きながら、青空に向かってぐんぐん伸びていく姿をなぞることになります。記念館で感じた学生たちの悲痛な気持ちを青空に解き放つような、切ない爽快さに心が打たれます。慰霊塔の構造は双曲放物面外殻構造、いわゆるHPシェルという構造になっています。垂直断面は放物線で水平断面は楕円の一部、と複雑ですが、貝殻のように曲面が美しく、薄い板面で大きな空間を作ることができる構造です。さらに通常は亀裂誘発、施工上の打継ぎなどを考慮した凹型の目地を採用するのですが、この慰霊塔では凸型の出目地をデザインとして採用しています。ルイスカーンのソーク研究所に見られる三角出目地ではなく、四角く存在感のある出目地のデザインに無骨な力強さを感じます。
慰霊塔の周囲は見晴らしが良く、遠くまで見渡せます。自らの命を為政者の方針に捧げた純粋で無抵抗な学生たちが、瀬戸内海の軍港から太平洋を目指す姿を眺めるような悲しい絶景です。
丹下先生は大正2年生まれ。東京オリンピックの国立代々木競技場、万博のお祭り広場、新旧両東京都庁、広島ピースセンターなどにかかわった、戦後日本を代表する建築家です。
中田 義成
株式会社中田工務店 常務取締役