2018年
4月号

伝統の和菓子を受け継ぎ、夙川の変遷と共に歩んだ80年|阪急夙川の昔と今

カテゴリ:スイーツ・パン, 西宮

大阪歌舞伎座にまつわる明治以来のルーツをもち、夙川で開店してから80年の和菓子処「成田家」。先々代と十代目市川團十郎との関わりや、当主の奥光男さんご自身が見てこられた夙川の変遷などお聞きした。

三升みますもなかの起源は?

 明治31年(1898)の大阪歌舞伎座舞台開きに九代目市川團十郎が成田屋の定紋「三升」のもなかを御贔屓筋に配ったという記録があり、恐らくその時には既に店はあったのだと思います。それが好評で千秋楽後、記念として大阪の定紋を入れて「みおつくしもなか」と名付けて販売したということです。

―夙川ではいつ開業したのですか。

 分店として昭和13年(1938)、「團十郎もなか」を夙川に開業しました。今でも「團十郎もなか」と呼ぶ年配のお客さまもおられます。この場所には和風の家が5軒ほど並んでいて、その一軒を当初は借りていたようです。

―十代目團十郎さんとお付き合いがあったのですね。

 私は子どもでしたので記憶にはないのですが、お祖父ちゃんの時代には相当お金を使ったようです。当時は歌舞伎の谷町といえば下足番にまでお祝儀を配るような時代でしたから、十代目團十郎さんのための通帳を作っていたと聞いています。頂き物もたくさんありましたよ。十代目は多才な方でしたから、羽織の裏に描かれた絵を頂いて額に入れてお正月に飾っていましたし、歌を書かれたものや焼き物などいろいろあったのですが、震災で全部壊れてしまいました。何とか壊れずに済んで今でも使っているうちの看板も十代目の書です。

―お祖父さまご自身も文化や芸術に造詣が深かったのですか。

 本人も絵や書が上手な人でした。写真を見るとうちには伊東深水の絵があったはずなのに、いつの間にかなくなっています。多分、團十郎にお金をかけすぎて売ってしまったのでしょう(笑)。

―今でもお付き合いが?

 お付き合いなど私たちには大変過ぎて(笑)。最近では12年前、海老蔵さんの妹さんが市川流三代目ぼたんを襲名されるときにお母さまから電話があり、お茶会用に牡丹のもなかをご注文頂きました。

―阪急夙川駅前の再開発が完成する以前の思い出は?

 駅前はこんなに広いイメージではなかったですね。今のグリーンタウンの辺りには森のような広場があり、元々は邸宅があったのでしょうか、ぽつんとひとつ蔵が残っていて子どもたちの遊び場になっていました。戦後できた公設市場は、片鉾池辺りから入って今の山手幹線辺りに出る南北に長い市場で高低差があり、出たところが階段になっていました。20か30ほどのお店が入っていたでしょうか、今でも端から順にだいたい覚えています(笑)。それほどよく利用していたのでしょうね。

―震災でも大きく変わってしまいましたね。

 成田家店舗も私たち家族の家も全壊で、何もかも失くしてしまいました。4階建てだった阪急夙川駅も潰れてしまいました。上階には天ぷら屋さんや中華屋さんがあったんですが…。でも新しい駅舎が平屋になったので甲山が見えるようになりましたね。

―周囲が大きく変わってきた中で成田家さんが愛され続けている理由は?

 住人の入れ替わりが多い西宮の中で、この辺りは昔から住んでおられる方も多く、ずっと御贔屓いただいているのだと思います。

―成田家さん自慢の商品は?

 成田屋定紋の「三升もなか」、お祖父ちゃんが名付けた貝殻の形の「秋津灘」、梅の形の「小袖梅もなか」、春には桜の蜂蜜を使う「桜もなか」もあります。蜂蜜も以前はうちの庭で夙川に向かって養蜂家さんが巣箱を置いていましたから、自家製だったんですよ。今は移転されましたけどね。

―息子さんはそれぞれの進路を選ばれたとか?

 それぞれ個性が違い、やりたいことが違ったのでしょう、3人それぞれ甲南、関学、甲陽に進学し、阪急夙川駅から3方向に向かって電車に乗って通学していました。

―それも夙川らしいエピソードですね。これからも夙川の顔として伝統を守り続けてください。ありがとうございました。

「團十郎もなか」は、成田屋の定紋「三升」を形どっている

成田家を創業した祖父・丸山良猷さん。掛け軸には隈取が飾られている

十代目・團十郎は羽織の裏に伊勢海老を描いた。震災で失われた

店の看板は十代目・市川團十郎による。「三升」書とある

昭和13年、團十郎もなか夙川分店として開業した

阪急夙川駅前にある成田家。多くの常連客が訪れる

夙川の桜をイメージした「桜もなか」

成田家3代目・奥光男さん・あけみさんご夫妻

成田家

西宮市羽衣町8-8(阪急夙川駅南)
TEL.0798-22-3189
営業時間 9:00〜19:00
定休日 月曜日
http://www.monaka-naritaya.jp

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